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第4話 ロクデナシ作戦


「ショウタ君、さっき僕のことを囮にしていましたよね?」


「そんなまさか」


「そんなまさか、じゃないですよ! 自分だけ安全な岩の上に避難していたじゃないですか!」


 三つ目ウサギの群れと戦って、息も絶え絶えなタカユキが俺のことをにらんだ。

 やっぱりタカユキを囮にしたことはバレていたようだ。


「仕方ないだろ。遠距離戦じゃないと本領が発揮できないんだ。俺はアーチャーなんだから」


「僕だってヒーラーですよ!? ヒーラーを囮にするパーティーなんて聞いたことがないです!」


 確かにそんな話は聞いたことがない。

 基本的に回復を担当するヒーラーは、パーティーの要だからだ。

 しかし今はそんなことを言っている余裕はない。

 なにせこのパーティーは、アーチャーの俺とヒーラーのタカユキの二人だけだからだ。


「そう怒らずに。生きてるんだからいいじゃないか」


「結果的にはね!? ですが信頼を失うには十分すぎる出来事でしたよ!?」


 タカユキの信頼を失っちゃったかー。

 二人だけのパーティーだから、どうせなら仲良くやりたかったのだが。


「ショウタ君のバカ! あほ! ロクデナシ!」


 タカユキから低俗な罵倒が飛んできた。

 普段言い慣れていないせいで、タカユキの悪口のレパートリーが少ないのかもしれない。


「ロクデナシって……ちゃんとタカユキに近づく三つ目ウサギから倒しただろ?」


「囮に近づく敵を倒すのは、戦闘の基本ですよね!?」


 これもバレていたか。

 それならもう言い逃れは出来ない。


「ごめん、悪かったよ」


 俺のことをしばらくにらんだタカユキは、ふうと溜息を吐いた。


「まあいいですけど。あのまま二人で倒れるよりはマシでしたから」


 良かった。

 タカユキは俺のことを許してくれたみたいだ。

 次もタカユキを囮にして敵を倒そう!



   *   *   *



 二人でなるべくモンスターを避けながらダンジョンを進む。


「ショウタ君は『シャインワールド』でこのダンジョンを踏破したことはありますか?」


「もちろん。セイバーで、だけど。タカユキも踏破したか?」


 最初のアナウンスでゲームマスター――正確なあいつの役割は知らないが便宜上そう呼ぶ――は、参加者全員が『シャインワールド』のプレイヤーであることを仄めかす言い回しをしていた。

 当然、タカユキも『シャインワールド』をやっていたのだろう。

 その証拠にタカユキは、モンスターの弱点を熟知しているようだった。


「はい。僕もヒーラーでの攻略経験は無いですが、このダンジョンについては大体知っています」


 やっぱりか。


「なら、タカユキもこの状況がおかしいと思ってるんだよな?」


「ええ。こんなことはあり得ないです」


 そう。今俺たちの周りでは、あり得ないことが起こっているのだ。

 そのあり得ないこととは。


「あまりにも死体が多すぎる」


 ダンジョンの中には、いくつもの死体が転がっているのだ。

 死んでいるのは全員、最初のゲーム説明の際に顔を見たキャラクターだ。


「いくらゲーム開始時の僕たちのレベルが10だったとはいえ、こんなに死ぬなんておかしいと思います」


「ああ。ヒーラーとアーチャーのパーティーでも死ななかったのに、これはおかしい」


 死体の中には、武器として剣や槍を握っているキャラクターもいた。

 彼らが誰ともパーティーを組んでいなかったとしても、アタッカーの職業を引いているのなら、こんな低層階で死ぬわけがない。


「それに死体にはどれも鋭利なもので切り裂かれた跡があった」


「たぶんですが、どの死体も同じ武器でやられたんだと思います。切り口が似ていましたから」


 俺はタカユキと顔を見合わせた。

 タカユキも俺と同じことを考えているのだろう。


「もしかすると、参加者の中に、他の参加者を殺してるやつがいるのかもしれない」


「参加者を殺してライバルを減らそうとしているのかもしれませんね」


「厄介だな。モンスターだけじゃなくて参加者にも注意しないといけないのか」


 他の参加者に先を越されないように、参加者を殺して対戦相手を減らしているのか。

 それともゲームを盛り上げるために、運営が参加者の中に参加者を殺す人員を紛れ込ませているのか。

 どちらにしても、俺たちにとっては嬉しい状況ではない。


「先にダンジョン内を進んでいる人は信じられませんね。その中の誰が殺人者か分かりませんから」


「もうそれ、全員だろ。俺たちが一番最後にダンジョンに挑み始めたんだから」


 アリバイがあるのは、ずっと俺と一緒に行動をしていたタカユキだけだ。

 そしてタカユキにとっては、俺だけが殺人者ではない存在だと確信できる。

 しかし俺の顔を見たタカユキは、嫌悪感丸出しの顔で溜息を吐いた。


「はあ。この状況だとショウタ君以外とはパーティーを組めませんね。ショウタ君は僕を囮にするから、どこかでパーティーを解消しようと考えていたのに。残念です」


「タカユキお前、そんなことを考えてたのかよ?」


「そりゃあ考えますよ! 仲間に、囮として扱われたいわけがないじゃないですか! そんなパーティーは即脱退しますよ、普通なら!」


 タカユキが杖で地面をドン、と叩いた。

 棍棒にして敵と戦っていた杖だけあって、あれで殴られたら痛そうだ。


「パーティーによっては仲間を囮にする戦略もあるだろ。タンク役なんか常に攻撃を引き受けるわけだし」


「何度も言っていますが、僕はヒーラーですからね!? それに戦略会議も無しにいきなり囮にされたんですから、ショウタ君のことが嫌にもなりますよ!」


「だからごめんって」


 俺が謝ると、タカユキが俺のことをジトっとした目で見た。


「ごめんと言いつつ、もうやらないとは言わないんですね?」


「うん。だってやるし」


「……やっぱり僕、パーティーを組む相手を間違えたみたいです」


 そう言ってタカユキが大きな溜息を吐いた。


「別に俺とのパーティーを解消してもいいが、その場合は殺人犯かもしれない相手と組まないといけないんだぞ?」


「分かっています。いいです、今のまま行きますよ。ショウタ君は僕を囮にはしますけど、背中から撃ったりはしてこないと思いますので。僕のことを囮にはしますけど!」


「根に持ってるなー」


 不満たらたらのタカユキに苦笑しつつ、俺たちはダンジョンを進んだ。





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