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第8話 進んだ道の先


 俺たちが答えた瞬間、真ん中の入り口の前の岩が動いて、一本の道が開けた。


『ではこの道をお通りくださ~い』


「正解か不正解かは教えてくれないのか?」


『教えようにも、このクイズに正解はありませ~ん。答えによって進む道が異なるだけで~す』


 進む道が異なる時点で、欲しい答えがあると言っているようなものだ。

 だから主催者側が欲しい答えが正解のことだと思うのだが……ここでそれを言っても仕方がない。


「……進むしかないか」


 この道がどこへ繋がっているのかは分からないが、この道の先に明るい未来があることを祈ろう。


「行きましょうか」


「はい。ここで立ち止まっていても、どうにもならないでしょうからね」


 そう言うと、モモカがタカユキの後ろに回って、タカユキの背中を押した。


「さあ行くわよ! 先頭はタカユキね!」


「ちょっ!? 押さないでくださいよ!? 僕、ヒーラーですよ!?」


「遠距離オンリーのパーティーなんだから、文句を言わないの。ほら、とっとと歩く!」


「あらためて、バランス悪いパーティーだな……」



   *   *   *



 真ん中の道を進むと、参加者の背中が見えてきた。

 俺たちの前に、あの入り口を通ったパーティーだろう。

 ダンジョン攻略を始めて、初めての別パーティーとの対面だ。


「まだ参加者がいたのか」


 長剣を持つ一人の男が、俺たちに気付いて声をかけてきた。

 長剣を武器にしているということは、彼はセイバーの職業なのだろう。

 羨ましい。


「彼らは全員、大型パーティーのメンバーよ」


 パーティーの面々を見て、モモカが説明をしてくれた。

 このフロアには二十人近くの参加者がいるのに、全員が一つのパーティーのメンバーなのか。

 複数のパーティーが同じフロアにいるのだと思っていたから、大型パーティーの人数の多さに驚いた。


「お前、モモカだっけ? やっぱり俺たちのパーティーに入りたくなったのか?」


「ううん、あたしは彼らとパーティーを組んだの。彼らがあんたの大型パーティーに所属したいって言うなら、反対はしないつもりだけれど」


 モモカの言葉を聞いた長剣の男が、俺とタカユキのことを眺めた。

 そしてニカッと歯を見せて笑った。


「お前たちも俺のパーティーに入りたいのか? 歓迎するぞ」


 これに驚いたのは俺とタカユキの方だった。

 もっとレベルやら職業やら俺たち自身のことを探られると思っていたのに、こんなにもあっさりとパーティー勧誘を受けるとは思わなかったのだ。


「よく知りもしない僕たちを簡単に受け入れていいんですか?」


「別にいいぞ。これがこのゲームの攻略法だからな」


「ゲームの攻略法?」


 このダンジョンに攻略法らしい攻略法があっただろうか。

 単純にモンスターを倒してレベルアップをしながら最上階に到達することが、唯一の攻略法だと思うが。


 ……いや、違う。

 今、長剣の男は「ダンジョン攻略」ではなく「このゲームの攻略法」と言った。

 つまりデスゲームの方の攻略法の話をしているのだ。


「そんなものがあるのなら、是非教えてほしい。別パーティーの俺たちには教えられないようなことか?」


「んなケチくさいことは言わねえよ。攻略法を教えれば、俺たちのパーティーに所属したくなるだろうしな」


 そう言った長剣の男は、得意気に攻略法を語り始めた。


「このゲームは『ダンジョンをクリアした最初のパーティーが勝者』ってルールだ。つまり参加者全員でパーティーを組んじまえば、負けることはねえ。全員でクリアすればいいだけのことだ。簡単かつ確実な方法だろ?」


「……なるほど」


 この男の攻略法とやらは間違っていない。

 このデスゲームはパーティー戦であり、全員が同じパーティー所属なら、そこに勝ちも負けもない。


「どうします?」


 男の攻略法を聞いたタカユキが聞いてきた。

 タカユキとしても、長剣の男の誘いは検討に値するということだろう。


 ダンサー、ヒーラー、アーチャーという俺たちの職業を考えると、このまま三人だけのパーティーで最上階まで進むことは非常に難しい。

 無理とまでは言わないが、相当苦労をするだろう。

 だから戦力的なことを考えるなら、この大型パーティーに所属をした方が良いのだろうが……。


「確かに彼の言うことには一理ある。だが、大型パーティーの中に殺人者がいるかもしれないのもまた事実だ」


「ああ、その話か」


 どうやら長剣の男も、参加者の中に殺人者がいることは把握済みらしい。

 それなのに俺たちのことを気軽に誘ってきたということは、パーティー内に殺人者が混ざることをそれほど問題とは考えていないということだろう。


「確かに殺人者が俺たちのパーティーに所属してる可能性はあるが、そういうやつは、パーティーを組んでても組んでなくても、他の参加者を殺すと思うぞ」


「一理あるわね」


 人を殺すような人間は、どこのパーティーに所属していたとしても、きっと他人を殺す。

 それなら人殺しをパーティーに混ぜるかもしれないデメリットよりも、パーティーの人数を増やすメリットの方が大きい。

 長剣の男はそう考えているようだ。

 しかし……。


「俺はパーティーを組む相手は慎重に選んだ方が良いと思う。信用できないやつらと組むと、さっきみたいなクイズを出された場合、揉める可能性が高い」


「ああ、あの意味の分からねえクイズか。ハートがどうのスペードがどうのってやつ」


「そう、そのクイズよ。全員に同じクイズを出しているのかしら。ちなみにそのクイズ、あんたたちのパーティーはどんな答えを出したの?」


「『この話の中に悪いやつはいねえ』って答えたな。他の答えがあるか?」


「そうよね。あたしたちも同じ答えを出したわ」


 モモカが長剣の男と話している間にも、俺は大型パーティーに所属するべきか所属しないべきかを考えていた。

 男の攻略法自体は間違っていないと思う。

 全員で一まとめになってしまえば、そこに勝ちも負けもない。

 一番平和的な終わり方だ。


 しかしダンジョンをクリアするまでには、まだまだかかる。

 終わり方が平和的だったとしても、そこまでの過程が平和的とは限らない。


 そこまで考えたとき、あることに思い至り、俺の心は決まった。


「悪いが、俺は大型パーティーに所属したいとは思えない」


 俺の言葉を聞いたタカユキが、長剣の男に頭を下げた。


「せっかく大型パーティーへの所属を提案してくださったのに、すみません。リーダーが乗り気ではないので、この話は無かったことにしてください」


「いつの間に俺がリーダーになったんだ?」


「ショウタ君が、戦力的にも人柄的にも一番リーダーっぽいですから」


 戦力はさておき、人柄については別にリーダーっぽくはないと思う。

 『シャインワールド』で遊んでいたときも、俺はパーティーのリーダーではなかったし。


「あたしに関しては、二回もパーティー勧誘を断っちゃってごめんね。でももしあんたたちのことを良いパーティーだと思ったら……あらためてパーティー契約をお願いしてもいいかしら?」


 モモカが虫の良いことを言ったが、長剣の男はこれに怒ることはなかった。


「別にいいぜ。パーティーの人数は多ければ多いほどいいからな。入りたくなったらいつでも来いよ」


「良かった。パーティー参加を断った途端に戦闘になるかと思ってたから」


 俺が本音を漏らすと、長剣の男が急に嘲笑を浮かべた。


「んなことはしねえよ。雑魚を相手にしてる時間がもったいねえからな。この道以外を進んでるパーティーがどこの階層にいるか分からねえんだ。道草食ってる場合はねえ」


「雑魚って言われた……そりゃあ雑魚だけれど……」


 長剣の男の歯に衣着せぬセリフに、モモカが頭を垂れた。

 そこに男がトドメをさす。


「ただし。お前らは俺たちの姿が見えなくなってから、ここで三十分間待機な。別パーティーに俺たちの前を行かれると困るからな」


「そんなっ!?」


 さすがに長剣の男もそこまで甘くはなかった。

 俺たちが大型パーティーの前を歩くことを阻止してきたのだ。


「当たり前だろ。ここで潰されないだけ感謝しろよ」


「彼の言う通りだ。ここは従おう」


 今ここで彼らと戦っても勝ち目はない。

 俺たちには、彼の言葉に素直に従う選択肢しかないのだ。


「……分かったわよ」


 俺たちは三人でフロアの端に座ると、大型パーティーが去るのをただじっと待つことになった。




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