「うわあああーーっ!」
「きゃああーーーっ!」
炎を浴びた参加者たちが悲鳴を上げた。
しかしすぐにキャスターの参加者が炎を水魔法で鎮火し、ヒーラーの参加者が回復を施した。
そして戦士職の面々が炎を浴びた参加者たちの前に立ち、今度は彼らがモンスターと戦い始めた。
流れるような連携わざだ。
一方で、岩の陰に隠れながら、自分自身にだけ防御魔法を張っている魔法使いの女が目に入った。
どうやら大型パーティーともなると、戦闘に協力的なメンバーだけではないようだ。
「この戦い、あたしたちも参戦した方が良いわよね?」
「そうですね。後方支援くらいはした方が良いでしょうね。万が一彼らが全滅したら、僕たちだけでは絶対にあのモンスターには勝てませんから」
「そうよね。よーし、行くわよー……ぐえっ」
「おー……ぐえっ」
モンスターに突っ込もうとする二人の首根っこを掴んで止めた。
「何するのよ、ショウタ。危ないじゃない!」
「そうですよ。いきなり首根っこを掴むなんて。僕たちは猫じゃないんですからね!?」
振り返って俺への文句を並べる二人の耳元で囁いた。
「モンスターにも注意するべきだが、それ以上に参加者に注意をしろ」
「あっ、殺人者!?」
「そうだ。あそこに倒れてるキャラクターをよく見てみろ」
俺は床に転がる一体の死体に目をやった。
俺の視線を追ってタカユキとモモカも死体を見る。
「うわあ。首を切られているようですね」
「そうだ。あのモンスターは口から吐き出した炎で攻撃してるのに、だ」
つまりこのキャラクターは、モンスターではなく人間によって殺されている。
「まさかあの大型パーティーの中に殺人者が!?」
「その可能性が高い。戦闘のどさくさに紛れて殺してるんだろうな」
「殺すならモンスターの方を殺せばいいのに」
「殺人者が何を思って参加者を殺してるのかは分からないが……俺たち三人は固まっておくべきだろうな」
三人で固まっていれば、殺人者のターゲットにはなりにくいはずだ。
それに戦闘のどさくさで参加者を殺せるなんて、この殺人者はよほどの手練れだ。
全員がレベル10スタートだったから、レベルではなく、本人の技術が高いのだろう。
もしそんな相手に狙われたら、一対一で勝てるとは思えない。
「幸い全員後方職ですからね。後ろで固まっていても文句は言われないでしょう」
「それ以前にあたしたちは別パーティーだからね。文句を言われる筋合いはないわよ」
「さすがに、この場にいるのに戦わなかったら、別パーティーでも文句は言われるだろ」
「それもそっか。じゃあ適度に応戦しましょうか」
「はい。身の安全第一で頑張りましょう」
俺たちはモンスターから離れた位置で、それぞれの武器を構えた。
遠距離から応戦しているため、モンスターの炎は俺たちのところまで届かない。
しかし前方では、炎が放たれ、砂埃が舞い、かなり視界が悪い。
そのとき、前方にきらりと光るものが見えた。
光るものは、ダンスを踊っているうちに俺たちから少し離れた位置に移動してしまったモモカへ向かっている。
「危ない!」
「えっ?」
俺は体勢を低くしながら、モモカに体当たりをした。
足に体当たりをされたモモカはバランスを崩して倒れ、勢い余った俺もその上に倒れた。
「ショウタ君!? モモカさん!?」
「タカユキ、気をつけろ!」
駆け寄ろうとするタカユキにそう言うと、タカユキが足を止めた。
するとタカユキの鼻先を短剣が掠めた。
「ヒィッ!?」
俺たちを殺し損なった短剣の持ち主が、両手に短剣を構えながら、振り返った。
綺麗な微笑みをたずさえて。
「あら。惜しかったですわ」
「……お前が殺人者だったんだな」
とは言うものの、この双剣の女が誰なのかはまるで分からない。
ミステリーなら、実は身近な人物が犯人、となるのだろうが……誰だろうこの人は。
大型パーティーの一員ということしか情報が無い。
「その話をここでされると少し困りますの。そうですわ。三人とも、わたくしと一緒に別フロアへ行きませんこと?」
「……嫌だと言ったら?」
「三対一だから安全だと思っているなら、おあいにく様。わたくし、かなりレベルが上がっておりますの。相手が三人だろうと、簡単にはやられませんことよ」
「どうします、ショウタ君?」
どうするも何も、そんな相手と一緒に離れた場所へ行くなんてリスクでしかない。
なんとかこの場に留まる方法は無いだろうか。
「……今ここで俺たちが大声を出したら、お前の悪事は大型パーティーのみんなにバレるぞ」
俺が凄んでみせると、双剣の女の顔がピクリと動いた。
これはいけるかも?と思ったが、双剣の女の答えは、俺の期待していたものではなかった。
「あなたたちが大声を出そうとした場合は、相打ち覚悟で殺しにかかりますわ。全員は無理でも、二人くらいなら殺せると思いますので」
「これ、ハッタリだと思います?」
双剣の女から目を離さずにタカユキが聞いた。
俺も双剣の女に視線を固定したまま答える。
「いいや。この女は本気で言ってると思う」
きっとモモカも双剣の女を見ているだろう。
理由は簡単。女から目を離した瞬間に殺されそうだからだ。
先程会ったときにはそんなものは感じなかったのに、今の彼女からは絶対的な捕食者のオーラを感じる。
「もう一度提案いたしますわ。一緒に別フロアへ行きませんこと?」
「…………」
ごくりと唾を飲み込む。
返事を間違えることは、死を意味するからだ。
「わたくしは、ここから離れることをお願いしているのではありませんわ。ここから離れるのであれば、今すぐには殺さないで差し上げる、と言っておりますのよ?」
双剣の女が、この場に不釣り合いな上品な笑い方で微笑んだ。