ムダヅカインは、ある町にやってきた。
そこは静かな住宅街。
不景気でも、ある程度の生活水準が保たれている、
比較的新しい住宅街だ。
ムダヅカインはそこで、
あるゼニーの気配を感じた。
(これが、探していた勇者のゼニーか?)
ムダヅカインはゼニーの源を追う。
どうやら公園に、目指すゼニーの力の持ち主がいるようだ。
公園では、小さなロケがおこなわれていた。
ロケといっても本当に大掛かりではないらしく、
スタッフ役も俳優みたいなものも、あわせて数人しかいない。
サークルというものでやっているものだろうか。
「ルルさん、おつかれさま」
ハンドカメラを向けていた老人が声をかける。
「サンダーさん、カメラお疲れ様」
何かを演じていた、ルルと呼ばれる女性は、にっこり微笑んだ。
「あ、エノさんも音声お疲れ様」
「はーい」
何のサークルなのだろうか。
ムダヅカインはその集まりの中に、
けがれないゼニーの力を感じた。
ムダヅカインが近寄ろうとしたそのとき、
公園に地鳴り。
ムダヅカインははっとして、
ゼニーの力による結界を張る。
彼等を巻き込んだのは不本意だが、
やってきた気配は間違いなく、
シッソケンヤークの遣わした魔人によるものだ。
「何者!」
ムダヅカインは叫ぶ。
「俺はグリフォン。シッソケンヤークの一番の部下」
俺とは言うが、姿は小柄な女性だ。
しかし、まがまがしいほどのゼニーの力をまとっている。
ここでムダヅカインがゼニーの力で、
この、グリフォンを撃退することもできる。
しかし、巻き込まれた彼等は…
「正義とやらの芽は、早めに摘んでおけと」
「彼等が…狙いか」
「ムダヅカイン、おまえのゼニーでは彼等を守れない」
ムダヅカインは黙るしかない。
万事休すか。
「いくら欲しいの?」
凛とした女性の声。
振り返れば、ルルという女性が、
ゼニーの力に満ち満ちて、凛として立っている。
ひるむこともなく、おびえることもなく。
「何が欲しいの?言ってみなさい」
「なにを…」
「買ってあげるわ」
ルルのゼニーの力がひときわ輝く。
「たとえ、何であろうとも!」
高らかに宣言すると、
ゼニーの力が解放される。
「くそっ、今日のところは引いてやる!」
グリフォンは言い残し、煙のように消えた。
ムダヅカインは確信する。
ルルのこの力は間違いなく、
サンザインのそれだと。