サンザインが破滅の神ハサーンを倒して。
日常が帰ってきた。
飯店にはあのときの仲間が集い、
語り、笑い、穏やかな時間をすごしている。
皆が帰った夜。
郵便屋がやってきた。
サンダーはいつものように荷物を受け取る。
ただの小包だろうかと思ったが、
どうも違うようだ。
そこではじめて首をかしげる。
差出人は…「消費の賢者」
住所らしいところには、「遠い遠い場所」と、
ふざけたことが書いてある。
(なんだこれは?誰だ一体?)
あまり大きくない箱に、
軽いものが入っているらしい。
振ってみても緩衝材のかさかさが関の山だ。
「サンダーさん、何です、それ?」
手伝いをしていたエノがやってくる。
「さっぱりわからないね」
「あけちゃいましょうよ」
「いや、新手の詐欺かもしれないよ」
「詐欺?」
エノの疑問に、サンダーはうなずく。
「最近、何かと人を騙す詐欺が横行しているという噂だよ」
「よくないことですね」
「うん、だから君子危うきに近寄らず、だよ」
「んー…」
エノはちょっと考え込む。
「でも、それは、詐欺じゃないと思うんです」
「どうしてそう思うのかな」
「みんなに消費を広めて回った、術師を知っているから…」
サンダーは思い出す。
その身を犠牲にして、
結果的に世界を救った術師、ムダヅカインのことを。
「消費の賢者…なるほど、思い出すね」
エノはうなずく。
サンダーもうなずき返す。
「信じることは美しきかな」
誰もいなくなったはずの飯店に、老人の声がする。
サンダーが驚いて辺りを見回すと、
いつからいたのか、老人が椅子に座っている。
丸いサングラスをかけた老人の、視線はわからない。
「信じるのだ、大切なものを信じるのだ」
老人は歌うようにつぶやく。
「消費の賢者は死んでなどいない。奴はまだどこかにいる」
サンダーは雰囲気に呑まれる。
エノも同じに違いない。
ムダヅカインによく似た、
ゼニーの気配がする。
「あ、あなたは?」
老人は会釈した。
「流通の賢者、リュー・ツー・イモ」
「流通…?」
「新たな悪がやがてやってくるだろう」
「悪?」
「その箱の中身は、あやつが託した希望のかけらだ、大事に使え」
サンダーは何か言いかける。
そのとき、室内なのに突風。
「信じるのだ。恐れるものは何もない」
リュー・ツー・イモは、それだけ言い残して掻き消えた。