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第3話 弟と繋がった夜を迎えて……

「本日は、誠におめでとうございます!」



 此処、【厄除師】の十二支本家である神龍時家から、徒歩で十五分に祀られている〈天龍神社〉。こじんまりとした神殿の拝殿内にて。

 只今、午前十一時過ぎの晴天。

 厳しく冷たい冬の風が通り過ぎ、優しく包み込む穏やかな春の陽気の中。


 俺、神龍時 海里しんりゅうじ かいりの心は、そんな穏やかで晴れた天気とは縁が遠く感じていた。

 目の前には、神へのお供え物として二段置かれている神饌。

 上段の左から季節の果物、餅、清酒、海鮮物である車海老。下の段には、左から、小皿に小さく山型に盛られた清め塩、根野菜、鯛がそれぞれ三宝に乗って祭られている。

 奥には、この地に祀られている土地神の像である、〈一体の伝説動物〉。

 約ニメートルの高さで座布団の上へ鎮座している。

 大蛇に似た背に八十一の鋼の鱗。照明の角度によって、一枚一枚七色のグラデーションが出来上がって、淡くも生命の燈のように煌めいていた。


 伝説の生物と〈蜃〉と同等と言われている空想動物。

 腹を下から見上げると、左から右へ、右から左へとくねらせており。天へ向かって力強く昇っている姿が表現されていた。

 そして前後に、虎に似た肉厚の各二本の足に五本の指。鷹のような鋭い爪。元々紅く染められていたのか、今は柔らかな朱色に変わっていた。

 駱駝よりスマートな顔つき。鬼のようなぎょろりした眼。その上に耳は牛、頭部に牡鹿の角に、皮膚は背から繋がっている鱗。加えて、駱駝に似た口元の中に鋭い牙がびっしりと作られたソレは、色んな動物が一つに集合体化された〈白龍〉そのもの。

 この地域で有名な空想動物の像が、この神社の土地神として置かれていた。

 それを、俺たち厄除師〈龍〉の一族である本家が管理をしている。


 口内に銜えられている水晶の珠は、反射でこの場の景色を映し出されている。

 昨夜の背徳感を見透かされそうで……、無意識に目を反らしてしまった。

 そして、鎮座している土地神の像の前に座っている俺の右側に、神龍時家。左側は、許嫁の竜泉寺家。それぞれの親族たちが席に座って出席している。

 その近くに神主が声を張ってお祝いの言葉を述べると、あぁ……始まってしまったと、ぼんやりと他人事のように思ってしまった。



 正直な話、嬉しいの一言。

 だけど、身体に刻まれた情事の痕で蘇ってくる記憶に、感情が追い付かないままである。

 迎えてしまった結婚式。俺の心は、罪の意識で縛られて沼へ沈んでいった。



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