隣に座っている、親同士で決められた三つ年下の許嫁。チラリと横目で見ると、華奢な身体を纏っているオフホワイトな白無垢姿。正絹から作られた生地には七宝柄が天の川のように刺繍されており、彼女のきめ細かい色白の肌をより美しさを際立たせている。
撫で肩なのか、しなやかな曲線が綺麗に演出されていて、裏地が見えるように仕立てられた紅ふきは、さらに白の存在を清らかに映す。
そして、綿帽子から控えめに出ている、桜色の唇が奥ゆかしい。
本日から、俺の妻になる彼女の名は〈竜泉寺 巴〉。一言で言うと、純白華憐なお嬢さんだ。
厄除師十二支の龍の分家にあたる一人娘さんである。昔、父親同士が酒の席で決めたらしい。
今のご時世のことを考えて、酒の席での話は白紙にして本人同士で決めようかという話に変わった。
その流れで、三ヶ月前に俺は竜泉寺のおじさんに
「もし、お嬢さんの都合悪いようなら遠慮なく断っても問題はありません。このご時世に、本家、分家などのしきたりに縛られる必要性はないので……。よかったら、お嬢さまにお伝えください」
━━と、自分の意思を伝えた。
これは、相手のためにでもある。まあ、断られるだろうと、予想していた。
それは、そうだろう……。こんな、目つきが鋭くつまらない男の元へ嫁いできたら人生地獄以外なにもない……。
そんな予想と反して、返ってきた答えがこの結果だ。
すると、俺の視線に気づいたのか巴さんはこちらへ小さく振り向き、にこりと笑みを零した。
「海里さん……、今日から私たち夫婦になるのですね。ふつつかな者ですが末永くよろしくお願いします」
周りに聞こえないように、嬉しそうに小さく言葉にする彼女。
「あ、あぁ……。こちらこそ、よろしく頼みます」
そんな相手に、胸の奥からじんわりと温かい歓喜が生まれる。それなのに、上手く言葉が出てこない。
「正直、嬉しいんです……。私、海里さんと幼少期に会ってからお慕いしていたんですよ」
ここで初めて知った、妻の本音。
濁りなき澄んだ瞳で、こちらを真っ直ぐと見てくる中。自身の脳に鈍器で殴られた感覚が強く鈍く広がっていく。
俺を慕って、嫁に来てくれた相手。
それなのに……、昨夜に犯してしまった過ち。
濃密な罪を重ねてしまった互いの身体。しかも、━━弟とだ。
昨日の蕩けるような夜が、一瞬脳内に駆け走り甦る。
そんな無垢な彼女と、今から始められる和装婚にジワリジワリを罪悪感の虫が自身の良心を食い破ってくる。
それなのに身体は気持ちに反して、火だるまのように火照っていく。
それだけだったら、まだしも良かった。
ここで小さな違和感が生まれた。
視界に入れなくても分かる、ごぽりッ……、と湧き水の如く一粒溢れていく潤い。
恥ずかしさで一瞬顔を俯かせてしまう。
昨夜の罪の味を知り、快感を覚えてしまった後ろめたさに、心が泣きそうになってしまったのだ。
「━━━━只今より、ご両家のご婚儀を執り行いたいと思います」
神主から続けて張りのある言葉に、我に返った俺。無理やり思考を切り替え、前方へと向き直した。