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第9話 一時の平穏な時間①

 ふと思い出した、幼き頃に教えて貰った記憶の一部。そのおかげか、火照ってしまった熱が落ち着いてきた。


 今思えば、神前式で良かったと安堵するばかりだった……。この五つ紋付羽織袴のおかげで周りに気づかれなかった痴態。もし、そうでなかったらと思うと背筋が凍る。

 なんとか荒ぶりかけた熱を抑制できたことに、俺は内心ほっとしてしまった。

 そんなアクシデントに抵抗している間、いつのまにか……修祓、斎主一拝、祝詞奏上が終え、次は三々九度に流れになった。

 ふと、自分の身内側からひそひそと小声が聞こえてきたので耳を傾けると、


「うわぁ~、巴さん。本当に綺麗よね。

私もいつか……彼氏とこんな風に結婚式を挙げられたらなぁ」

「お姉ちゃんッ!?え……ダメだよッ、あんな老け顔なんかと!やめた方が良いよ!?色々と穢れちゃうからッ!!」

「くもりお兄ちゃん!老け顔なんて言ったら、お姉ちゃんの彼氏さんに失礼だよ。あッ、くもりお兄ちゃんもバイクに乗せて貰ったら?優しい人だって分かるよ」


「ちょっと、三人とも五月蠅いよ!今、挙式中だから静かにしなよ」



 六つ子の四番目である妹の風羅から始まった、巴さんへの誉め言葉と彼氏との結婚を願望の一人言。

 それに即反応した五番目である弟のくもりは、見た目は女子。世の中でいう、シスコンに属しているのか幼少期から今日まで風羅にベッタリだ。

 そんな、幼稚な発言をした兄に必死になだめようとした末っ子の大地。最近は、妹の彼氏からバイクに乗せてもらってから懐いているらしい。

 最後に、鋭い発言でこの雑談の幕を締めた次男の宇宙そら。端から見たら常識人の発言。


 だが、実際はトラブルメーカーなんだよな……アイツ。

 現実、十二支が集まる当主会議の終了後に各当主からクレームを貰う確率が高い。いや………、多すぎる!非常にだ。

 最近だと━━…


⚪︎一人目は、

「お宅の次男さんから、高額の案件を横取りされた」

⚪︎二人目は、

「アンタのところの次男坊さ、アレ何なの!?

私と下品ひつじ女のことを〈牧場コンビ〉って親友扱いで言いふらして、

迷惑なんですけど!!おかげで社長から超仲良し大親友として確定されちゃったじゃないのよ!!」

⚪︎三人目は、

「海里くん、貴方が悪くないのは承知しているのよ。

ただね………、あの媚入り駄犬と親友扱いされたり。その誤解で社長から〈牧場コンビ〉って汚名で認定されたり。

私の彼氏と別れて優秀な人とお付き合いした方が良いと言ってきたり………。

どうしたら良いか分からないのよ、アレには」

 そして、最後は………



「海里にいさん!宇宙にいさんに伝言お願いしても良いですか?

先日、ご要望頂いた〈マフィアの一人息子×任侠跡取り養子〉の挿絵なんですけど………特典の《男嫁さんの蜂蜜がけの●●間近シーン》のイラストを描きました、と伝えてください。

あ!コレ、コピー原画を渡してくれれば大丈夫です☆」


 あ…………、最後はクレームじゃなかったな。どう考えても俺がセクハラを受けた方だな。

 子島は、イラストレーターとして仕事で言ってきただけだから、悪気ないのは分かっているが。

 普段、あの気弱な瞳の奥から…… 一等星を眩しいほど輝かせてくると。ボーイズラブ好きな腐男子、そのものだ。


 そんなことを思い出した俺。

(なんで……、俺の周りってこうもトラブルだらけなのか……?)

 平穏な日々とは遠いこれからの日々に、新たな頭痛が生まれたのは言うまでもない。

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