そんな先日の出来事を思い出しつつ……視界に入ってきた自分たちの兄弟のやり取りに呆れたが、どこかホッとしている部分があった。
昨日のことは、夢だったのだろうと思えるくらいに。
「本当に、仲がよろしいのですね。海里さんのところのご兄弟は。私も今日から家族になれると思うと嬉しいです」
隣からこっそりと小声に柔らかい笑みを零す、妻の巴。そんな彼女から香る白梅の心地良い香りに、包まれる。
「私、どんな海里さんも好きですよ。こうして、一緒の時間を過ごせることを幸せに感じますもの」
この言葉に感極まった。
(忘れよう、昨夜のことを。━━これからは、巴さんと一緒に家族として生きていくのだから。昨日の嵐は、何かあって精神的に不安定だったのだろう………)
罪の意識が薄れていくのを感じた今。俺の中で、炭酸の泡のように消えていく黒く染まった心情。そんな気持ちにさせてくれた奥さんに静かに感謝をした。
だが、この時の俺は気づかなかった。
ある視線に、━━━睨まれていることを。