「昨夜は楽しかったなぁ~、か・い・り兄ちゃん♬」
俺しか聞こえない小声。ほくそ笑み、無邪気に嬉々とする声色の弟。万年筆の件はワザとだ、と確信得た時には時既に遅しだった。
無理矢理忘れようと、蓋をしていたのに。コイツのせいで黒い記憶の扉が、再度開かれてしまった……。
声と反して、目尻が下がった無関心そうな瞳の奥は瞳孔が開いていた。獰猛な捕食者を連想させる、この鋭さ。
あぁ……、━━マタ 喰ワレテ シマウ
咄嗟に頭の中で浮かんだ言葉。
(このままじゃ、マズイ……早くコイツと距離と取らなくてはッ!)
何故か、分からないけどそう思ってしまったのだ。
強いて言うなら、直感、本能、と言うべきか。
なのに……
一度受け入れたところは………別の生き物のようにわななき、目の前の雄を欲している。
欲しくて、欲しくて、堪らない、というくらい。━━━俺の気持ちと反してだ。
早くこの弟から離れなくては!と、最後の抵抗に思考を切り替える。そして、手の中に収められて万年筆を手放し、重ねている掌を引っ込めた。