突然、とろんと熱を帯びた視線に変わった嵐。
昨日の深夜と同じ、瞳。━━━情欲に満ちた視線、と言えば正確だろうか?
まるで、発情期の雄のような…………
その憂いに帯びた瞳に見つめられただけで、カァッと顔だけじゃなく体内の血液が沸騰したように熱が迸る。
それに便乗し、━━するりと抱きしめるように反対側の手で腰に当ててきた、弟。後にぐッと更に相手側に引き寄せられてしまった。
それは惹かれ合うように、徐々に根深く濃厚に絡み合っていく、この世界間。俺たち二人だけ時間、というべきか。
ゆっくり、ゆっくりと動いているように感じてしまうほどに…………。
サンダルウッド調のスパイシーな香りが、先ほどより俺の嗅覚を刺激してくる。刹那、脳内にブワッ、と歓喜に満ちた多幸感が拡がった。
このまま蜂蜜のような甘く蕩ける感覚に包まれ、落ちていく。
(………距離がさっきより違くないか?)
頭の芯が、ぼぅとする中。上手く回らない思考内で出た、やっとの言葉がコレだった。
この疑問の答えは、すぐに理解することになる。
(あぁ……距離がだんだんと縮まっているのか………)
他人事のような感想。
そのまま身を委ねていると、嵐の肩くらいまである鴉色の髪が俺の頬にさらりと触れる。
触れた瞬間に、柔らかい熱が帯び。ピクリと小さく身体が跳ねてしまう。
もどかしい、もっと触れて欲しい。
こんな、生殺しのような触れ方じゃなくて
もっと、モット……、あの時のような━━━…
これも、媚薬のような香りのせいで脳内が麻痺したんだ……
そうに、違いない。
そうじゃなければ、
こんな…………馬鹿げた考えが生まれない。
消えかけている理性の炎が消えないように、思考内で戦っている中。
いつのまにか、顔全体に覆いかぶさり影が出来上がる。今でも近づいてくる嵐の顔。同時に、互いの視線が深く、根深くと、絡まり……熱い吐息がぶつかる。
荒けずりな甘い呼吸音が響き。
そして、俺の唇は熱いモノで塞がれた。
━━━距離が〈0〉へとなった、瞬間だった。
唇に触れているしっとりとした柔らかいものは、軽く啄み、離れ、そして覆うように深く合わせてきた。
口付けられている。
ここで、やっと理解した時には手遅れだった。