ザワついていた親族たちから驚愕交じりの悲鳴が聞こえてきた。
嵐の髪で視界が覆われ、閉ざされた周りの景色。周りの状況はどうなっているか分からないが…………、耳に入ってきた情報で嫌でも分かってしまう。
この神聖なる本殿で、しかも神前でのあるまじき行為。
本家、分家だけじゃなく、進行側の神主たちの呼吸と娯楽で演奏者していた者たちの音色が死んだように無音になる。
「え……、かい………りさん。え、なんで?え、え、何で弟さんと、キスを……??どうして…………?意味が分から、な……ぃ……」
後ろから巴さんの悲痛な言葉。最後は、声の灯が徐々に小さくなっていく。最後、途切れ途切れになった言葉の中に、聞こえてしまった絶望に満ちた妻の涙声。
契りを交わす直前の出来事。有り得ない事故に出くわしてしまった結果がコレだ。
(いや……、もう事故で片づけられるレベルではないな。コレは)
こんなアクシデントは、結婚の破談だけで済まされるわけがない。
「………んぅ、はぁ、海里。かいり……、もっと」
周りが、大混乱している状況でも夢中に、”くちゅり、くちゅり”と熱を帯びた舌で俺の唇をしゃぶるように味わっている、ポンコツ。というか……
(そもそもの原因は、━━━コイツだ!)
それなのに挙式をめちゃくちゃにした責任を取ろうとせず、今でも自分の世界に入っている。
そんな状況下。俺だけが、この場の混乱をどう対処するべきかと焦っているという現実に、ーーーー腹が立った。無性にだ!
それに数分前に、コイツと仲直りしようとした考えを持ったことに対してもだ。全てに恥じた、その一言である。
一方的に注がれている愛撫による快楽を投げ捨てるように、目の前の原因物の舌を思い切り噛みついてやった。
「ーーーー痛ッ!!」
予想外の行動だったのだろう、相手の身体は俺が与えてやった痛覚で身体が一瞬跳ね上がる。
この一瞬で、電池が切れたように止まった嵐。すぐに文句の視線で睨んできた。
自分のペースを狂わせるのが嫌いなコイツに、ざまァみろ、と心の中で嘲笑う。そして、すぐに切り替え怒りをぶつけた。
「…………いい加減にしないと、縁を切るぞ。嵐」
俺からの反抗憤怒。本気で思った一言。
コイツのマイペースに振り回されてメンタルを病んでしまったり、
昨夜は、いきなり組み引かされ、一方的なことをされ、
今日から嫁に来てくれた彼女との新しい門出を邪魔されて……
(━━━冗談じゃないッ!もう、それだったら、疎遠になっても構わない!!こんなヤツに人生を滅茶苦茶にされたまま、これから過ごすくらいなら縁切りをした方が良い!!コイツが、実家に居座り続けるなら俺が出ていけば良いだけのことだ)
俺たちの中で出来上がった、一触即発の間。発言した後でも、感情のまま睨み続けて数分間。
こちらの本気度が伝わったのだろう。名残惜しむように小さなリップ音を立て、弟の唇が渋々と離れていく。
そして、嵐との間に距離が出来上がった今。
やっと解放されたと理解した途端、わななき始める足腰。
これは、怒りなのか、嵐からの愛撫による歓喜の残骸なのか…………?
いや、憤怒と痛恨によっての震えだッ!
そうだ!そうに違いない。そう思わないと、蜜壺から流れている粘液で、認めざる負えなくなってしまう。
絶対に違う!!俺の身体が、こんなヤツの手で造り替えられるなんてッ!!
俺の恋愛対象は、女性だ!!
だから、あの時……離れ際の時に見えてしまった、嵐のとても幸せそうな表情。
俺の胸の奥が甘酸っぱい気持ちになったのも、
(━━絶対気のせいだッ!!)