目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第14話 手慣れ過ぎてる!



「あの麗奈って子、理沙への敵意が半端なかったな。理沙から寝取ったばっかりの男を連れているってのに、まっすぐ俺のとこに来るとか神経疑うわ」

「そうだね、いくらなんでもあからさま過ぎてびっくりした。でも男の人は無邪気で可愛いと思っちゃうのかな?」

「まあ、男が望む女の子らしい見た目に騙されるヤツは多いだろうな。なんつーか、そういう奴は性格とかも勝手に理想をはめ込むから、無邪気な子だと思いたいんだろ」


 麗奈にどこまで裏があるのかは分からない。理沙自身も、最初の彼氏の時は可愛い子に心変わりする彼が悪いと思っていたが、大学での彼女の振る舞いで麗奈は無邪気などではなく、明確な悪意を持って近づいてきていると感じた。

 だが、天真爛漫といった振る舞いをする麗奈に対して悪意があると非難したところで、周囲の男性たちはまず信じないだろうし、むしろ理沙が悪者扱いされてしまう。

 圭司のように麗奈を警戒してくれる男性は珍しい。

 だからこそ、今日の圭司の対応は麗奈にとって屈辱的だったはずだ。それが理沙の彼氏となれば、彼女は躍起になって圭司を落としにかかるだろう。


「麗奈はまだ圭司がどこの誰だか知らないだろうけど、どうにかして探し出すだろうね」

「高校ん時のつながりで見つけられるとは思う。俺プライベートではSNSやってないから、人を通して連絡してくるか、もしくはどっかで張り込みとかしそう。なんかそれくらいやりそうな執念感じる」

「本当なら、計画通り麗奈が食いついてきたんだから喜ぶべきことなんだろうけど……なんか、嫌だな」

「俺の隣にあの子が来た時、理沙真っ青な顔してたもんな。初対面なのにあんな距離の詰め方してくるとか、ちょっと不気味に思った」

「うん……手が圭司の肩に触れそうになった時、なんか怖いっていうか、すごく嫌だった」


 幸生も、過去の彼氏も麗奈に会うまでは浮気をするような人には見えなかった。

 熱烈な恋人同士ではなかったけれど、お互いを思いやって仲が良かったはずなのに、麗奈と会ってから急に心変わりしてあっさりと理沙を捨てた。

 だから偽装彼氏を引き受けてくれた圭司も麗奈に直接会ったら過去の彼氏たちのように彼女に惹かれてしまうのではという疑念がどうしてもぬぐえない。

 偽装なのだから、もしそうなっても理沙が傷つくことではないはずなのに、圭司が麗奈の元へ行ってしまうかもと思ったら急に怖くなってしまった。


「大丈夫、何も心配いらない。理沙を傷つけて楽しんでいるあの女に、これ以上いいようにさせない」


 不安に飲み込まれそうな理沙の震える肩を圭司はぎゅっと力強く抱きしめてくれた。

 その力強さが嬉しくて、引き寄せられるままに身を預ける。

 胸に抱きこまれて、そのまま何も言わずにお互いの体温を感じていた。

 それだけで不安で凝り固まった気持ちが解けていくようだった。


「……なんかエロい気分になってきた」

「えっ、びっくりした。急に冗談言うのやめてよ」

「だって理沙抱き心地いいし、反応しちゃうのはしょうがないだろ。な、ちょっと触っていい?」

「ちょっとって何⁉ ダメでしょ! 私たち偽装なんだから!」

「えー、偽装でも付き合ってることには変わりないでしょ。それに、理沙のために頑張っている俺にちょっとくらいご褒美があってもいいじゃーん。恋人らしい雰囲気づくりにもスキンシップ大事だよー」


 そう言われるとそうなのかなという気がしてくる。理沙がなんと言葉を返そうか迷っていると、圭司の手がするりと背中を撫ぜた。


「ひゃっ!」

「可愛い反応。背中弱い?」


 するすると指を滑らせ、理沙の長い髪に指を差し入れてきた。首筋から後頭部にかけて圭司の指が髪をかき回す感触に背筋に震えが走る。


「理沙の髪、触るの癖になりそう。あー、キスしながら髪をかき回したい」

「んっ……ちょっと、恥ずかしいこと言わないで。もう駄目だってば」

「理沙も俺の髪ぐしゃぐしゃにしてよ。ね、ホラ腕回して」


 優しく腕をひかれて首に回される。待って、と言おうとした声は圭司の唇にふさがれた。

 最初は触れるだけ。すぐに唇を軽く食むように、角度を変えてチュッと音を立ててキスをして、ゆっくり離れていった。

 真っ赤になって口がきけない理沙に、圭司はちょっと気まずそうに眉を下げる。


「……ヤだった?」

「や、っていうか……さすがに付き合っていないのにダメじゃないかなって……」

「でも気持ち悪いとかはないんだよね? イヤじゃないなら……もうちょっとだけいい?」


 返事を待たずに圭司はもう一度唇を重ねてきた。理沙の髪に手を差し入れ、かき回す。後頭部を撫ぜられるたびにゾクゾクと痺れるような感覚に襲われ、思わず吐息が漏れると、その隙間からぬるりと熱い舌が入ってきた。


「んっ! んう」


 声が漏れると圭司の手に力が入るのが分かり、もっと深くキスをされる。舌を絡められて理沙はもうされるがまま、口の中を文字通り蹂躙された。


「ん、あっ……」


 キスに翻弄されてしまって、圭司が背中をまさぐっているのに気づかなかった。

 パチッという音とともに、胸元がすっと緩くなったのを感じて、ブラのホックを外されたのだと分かりカアッと顔が熱くなる。

 唇をふさがれているからダメと言えずにジタバタと動くしかできない。素肌に手のひらが触れる感覚がして、ビクッと背中が跳ねる。

 するすると肌を撫でながら圭司の手が上ってくる。

 理沙の大きな胸をすくい上げるようにその手が触れた瞬間、唇が離れた。


「……脱がしていい?」

「だ、だめ! もう、圭司は手慣れ過ぎ!」


 ホックを外すのなんて自分でももたつくことがあるのに、一瞬で外す圭司が手慣れ過ぎていて怖い。どれだけ女の子のホックを外してきたのか。

 ずっと唇を重ねられて息も絶え絶えな理沙とは雲泥の差で、余裕たっぷりな様子が悔しくて涙目で睨んだら、さすがに謝ってきた。


「ごめん、やりすぎた。あんまりにも理沙が可愛い反応するからつい。止められなかったしいいのかなーって」

「ずっとキスされて喋れなかったんだってば。窒息するかと思った」

「え? ちょっとキスしただけじゃん。というか理沙、キスあんま慣れてない?」

「そ、んなことないけど! あんなに長くキスしていたら息継ぎできないでしょ……」


 圭司とこんないやらしいことをしてしまって大混乱中の理沙と違い、圭司は途中で止められてもけろりとしている。昔から周囲に女性が絶えなかった彼からすると、これくらいの触れ合いはよくあることなのかもしれない。


「ごめんごめん、もうしないから許して」


 軽い調子で謝罪する圭司を見ていると、たかがこれくらいの触れ合いでムキになるほうがおかしいのかという気になってくる。それなりに彼氏がいたのに、経験が少ないような反応をするのも恥ずかしかった。


「……いいよ。怒ってないし。偽装とはいえ、こ、恋人だしね」

「良かった。じゃ、今度はもっとエロいキスしよー」

「あれより激しいキスがあるの⁉」

「まじで理沙って高校生みたいなこというよな。歴代彼氏が皆へたくそだったのかな。それともキス嫌い?」

「うーん、あんまり好きじゃないと思ってた。けど圭司とは何か違う感じがして……」


 理沙だってキスくらいしたことはあるが、そういえばいわゆるディープキスみたいなのは苦手で、舌を入れられることに抵抗があったから過去の恋愛ではやんわりと避けていた。

 性的な触れ合いも、恋人なんだから求められたら応えなければという義務感でしていた部分が大きく、自分はそういう行為があまり好きじゃないのだろうと漠然と考えていたが、もしかしたら違ったのかも……と思ってしまった。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?