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第3話 ネタネームが禁止されているオンラインゲーム


「わかったから、離れてくれ」



 義経がそう答えれば、少女は「本当ですか!」と立ち上がる。命の危機を脱したといったふうに安堵する表情に、そこまでかと義経は突っ込みそうになった。


 目をキラキラさせながら、少女は何度もお礼を言っている。苦労していたのだろうと察した義経は、まず少女にステータス画面を出すよう指示した。



「お前、プレイヤー名は?」


「あ、サキです」


「……本名じゃないだろうな」


「え、ダメなんですか?」


「ダメに決まってるだろうが、アホ」



 名前を隠すというのは自衛である。どんな些細なことから特定されるか、今の世の中わからないからだ。


 ネット初心者かと突っ込めば、名前だけですし……と口を尖らせている。それでも危険なことに変わりはない。


 義経はプレイヤー名をまず変更するように言う。このゲームはプレイヤー名を変更することが可能だ。


 ただし、一度変えたら一週間は変更できない。ステータス画面を指さしながら教える。


 変更画面に移動して、サキは悩んでいた。どうやら名前が決まらないらしい。まぁ、最初はそうだなと義経も悩んだ経験があったので理解できた。



「あ、あのお兄さんのプレイヤー名って……」


「義経だ」


「あれ、それって歴上の……」


「歴史人物図鑑を適当に捲って最初に目に留まった名前だ」



 義経の名前の決め方は適当だった。まず、ゲームをプレイする前に名前を決めようと、近くにあった歴史人物図鑑を手に取って捲ってみた。


 そこで目に留まったのが義経である。語呂もいいし、これでいいかと決めたのだ。


 そんな適当でとサキが驚いている。自分でも適当に決めてしまった自覚はあったが、それを誤魔化すように「変なプレイヤー名じゃなければいいんだよ」と義経は返した。



「このゲームはネタネームが禁止されてるんだよ」


「ネタネーム?」


「ほら、よくいるだろ。呼びづらい名前のやつ」



 セリフだったり、ネットスラングだったり、際どい名前だったり。名前とは言い難い言葉をつけるプレイヤーは、オンラインゲームなら一定数いる。


 だが、このVRMMOではプレイヤーが呼びづらいものや煽るもの、名前とは言い難いものは運営から警告がでるようになっていた。



「プレイヤー名で遊べなくなったと批判もあるが、呼びづらいものよりはいい。変なものにしなければいいんだ」


「な、なるほど……」



 サキはうーむと暫く考えてステータス画面をタッチした。これにしますと言ってみせてきたのは、こまちという名だった。


 本名とかすりもしないのであれば問題ないので、義経はいいんじゃないかと返す。



「では、今日からこまちでプレイします! よろしくお願いします!」


「あぁ……」



 元気よく挨拶をするこまちに義経はテンションの差が激しいなと思った。彼女はキラキラした瞳を向けてくるものだから、指摘するのをやめておく。


 まず、どうしたものかと義経は考える。ひとまずはこの場所から離れるほうがいいだろう。先に傷ついた彼女にアイテムを使い、体力を回復させておく。



「とりあえず、まずはこの場所を移動する。ステータスやらは城下町に行ってから教える」


「は、はい!」


「だが、先にお前の装備だ」


「え?」



 こまちは「装備?」と自分の服を見る。ぼろぼろの初期装備で城下町を歩くというのは目立つものだ。パーティーを組むにしても、まずは装備をどうにかしなくてはならない。


 義経は歩きながらこまちに説明する。ディーヴァの防御力は低い、防具でカバーしても紙耐久なのに変わりはない。


 それでもないよりかはマシで、今のままではとてもじゃないが戦闘に出すことはできないのだと。



「お前の今の守護獣はなんだ?」


「え、えっとムーンシャドウドラゴンです」


「はぁ?」



 義経は思わず聞き返す、彼女はなんと言ったと。義経はこまちのステータス画面を覗き見る。武器の項目にムーンシャドウドラゴンとしっかり記載されていた。


 ムーンシャドウドラゴン。それはディーヴァの武器である守護獣の中で、Sランククラスのものになる。


 どうしてそれを持っているのだ、驚いていればこまちはチケットでと話した。


 このゲームは初回のみ応援パックというのが配布され、その中にガチャチケットが入っている。


 B以上確定のチケットであり、低確率でSランクのアイテムも手に入るようになっていた。こまちはどうやら、その低確率を引き当てていたらしい。


 けれど、ディーヴァという職業の性質上、プレイヤーのレベルが上がらなければ守護獣は強くならない。いくらSランクであっても、育たなければ意味がないのである。



「それはディーヴァの守護獣で上位の強さだ。武器に関しては気にしなくていいな。あとは装備だけか……。素材はあるか?」


「その……ないです……。あ、でもプレイ開始時にもらえるお金は、まだ一度も使ったことがないのであります!」



 友人とパーティーを組んでいた時も、報酬を分けてもらえなかったらしい。だが、ゲーム開始時にもらえる金銭には手を付けていなかったとのこと。


 このゲーム、初心者応援パックの内容が良いため、下級装備ならばすぐに購入できる。これなら大丈夫かと、義経は心配の一つが消えて安堵した。



「とりあえず、それで装備を買え。つうか、最初っから買え」


「だって、どれがいいのかわからなくて……」



 ゲーム初心者によくある、どれがいいのか分からない現象であった。困ったふうに見つめてくるこまちに、アドバイスしてやるからと義経は返す。


 そうすれば、ぱっと表情を明るくさせた。なんとわかりやすいのだろうか。



「あぁ、そうだ。とりあえず、フレンド登録。パーティーを組む時に便利だからな」


「え、えとフレンド登録……」


「これだ」



 義経はそう言ってステータス画面を操作し、こまちにフレンド申請を出した。こまちは慣れない手つきでフレンド登録をする。


 今できることは此処までだ。あとは城下町に行かなくてはできない。これからがまた大変だろうなと義経は目を細めた。


 何せ、初心者に一から教えなくてはならないのだから。




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