パタンと扉を閉めてミーアは
元々体調が悪かった唯舞は、すぐに泣き疲れて眠ってしまった。
とりあえず、次に唯舞が目を覚ました時に食べられそうなものでも買いに行くか、とミーアが階段を降りれば、壁にもたれるように待ってたエドヴァルトと遭遇する。
「……悪かったな、唯舞ちゃんを任せて」
「ほんとよね。カイリでもいれば話は別かもしれないけど、残りのアルプトラオムは気の利かない男ばっかで嫌になるわ。あ、ちょっとエド、外寒いからあたしの代わりにコンビニ行ってきて。えっと、とりあえずこれね。ついでにあたしの分も買って。もちろんアンタの金でよ?」
「
「あーちゃんにはもう連絡してる。明日は休ませるからそのつもりで。……いろいろとギリギリだったわよ、あの子」
バングルを操作して浮き上がったホログラムからミーアはエドヴァルトに買い物リストを送信する。
実のところ、ミーアに唯舞の様子を見てきて欲しいと頼んだのはエドヴァルトだった。
体調が悪いのなら、異性の自分達よりも同性のミーアのほうが気が抜けるだろうと、それとなく終業後に顔を出してやってくれと馴染みの同僚に声を掛けたのだが、さすがのミーアである。
(普段はガサツなのに、こういうところは頼りになるんだよなぁ……)
苦笑いを浮かべたエドヴァルトはミーアに言われるままにリストを確認してぎょっとした。
「ちょっと待って、ミーア。これはさすがに多くない?」
「は? どこが。金ならたんまりあるでしょーが。つべこべ言わずに買ってきて」
「えぇぇぇぇ? 俺一人で?」
「その無駄についてる筋肉を有効活用する時! さっさと行った行った! 私の分を買い忘れたら承知しないからね!」
そう言って背中を押すようにエドヴァルトを追い立てて、ミーアはバタンと思い切り玄関扉を閉める。
彼女も本来であれば、エドヴァルトと同じく実戦部隊に配属予定の士官候補生だった。
しかし、士官学校の卒業試験で致命的な怪我を負ったミーアは前線に立つことは叶わず、最終的に選んだ仕事が趣味でもあった服飾系の制服管理庫の仕事だ。
重力に身を任せるようラウンジのソファに体を沈め、誰もいないホールをぼーっと眺めながらミーアは唯舞の姿を思い出す。
あの表情の薄さに誤魔化されがちだが、とても生真面目で繊細な異界人の女の子は、ミーアのように話すのが得意じゃなさそうだ。
(定期的にガス抜きしてやらないと、ありゃ潰れちゃうわね)
今いるアルプトラオムの連中にそれが出来るとは思わない。
可能性があるとしたらリアムか、一万歩譲ってエドヴァルトだろうが、それでも今回のように異性相手だと難しい部分もあるだろう。
(あーちゃんも……うーん、彼女がいなかったわけでもないんだけど)
六学年離れてるとはいえお姉さんのネットワークを甘く見てもらっては困る、とばかりにミーアは白銀のクールビューティーな後輩の姿を思い浮かべた。
とは言っても、アヤセの交際が一カ月以上続いたことはなかったし、大体は女の子のほうが先にキレて別れていたのだが、それでも一応恋人とよばれる存在はいたはずなのに。
「……ほーんと、みんな図体ばっかり男になっちゃって。全員、まとめてミーアおねーさんの"世界一分かりやすい女の子の扱い方と女心"の授業でもしたほうがいいのかしら?」
想像しただけで、あまりのアホさ加減になんとなくミーアの溜飲も下がって笑みが浮かぶ。
もちろん高額な受講料で講師を務めるのは
ご機嫌になったミーアは鼻歌を歌いながら、勝手知ったるように宿舎のキッチンを漁り、高級ワインの栓を遠慮なく抜くと、ついでとばかりにつまみをいくつか強奪していく。
エドヴァルトのものはミーアのもの。ミーアのものは、もちろんミーアのもの。
そんな決まりが昔からあるのだ。……一方的に。
そんな理不尽さでつまみのチーズを口に投げ入れると、ミーアはソファにふんぞり返りながらエドヴァルトの帰りを待つことにした。