(これ、
バングルのホログラムモニターに映し出された買い出しリストにはスポーツ飲料やビタミン系の栄養補給ゼリーに始まり、リゾットやサンドイッチ、ジンジャースープにホットティーと体を温めるものまで書いてある。
この辺りは間違いなく唯舞の為のものなんだろう。
だがリストの途中から、生ハムにサラミ、チーズにスモークサーモンといった完全に酒のつまみが延々と並べられ、しかも最後には"ビール(六本入ってるやつね!)×2"と他のリストより大文字かつ太文字で書かれてあるから完全に飲み倒す強い意思を感じる。
それに気付いたエドヴァルトは乾いた笑いを浮かべ、カゴの中に六本パックのビールを二セット投げ込んだ。
「ミーアの奴すげー飲む気じゃん。2セットはさすがに重っ……!」
これ、カゴ一つじゃ足りないんじゃない? と追加のカゴを取りに行こうとしてエドヴァルトは良い道連れを発見してぱぁっと笑顔になる。
「アヤちゃん! ナイスタイミング!」
「断る」
まだ何も言ってないエドヴァルトにアヤセは至極嫌そうに眉を
「ちょ! ちょ! まだ何も言ってない! 俺、まだ何も言ってないからね?!」
「言わなくても大量にビールを買ってる奴の言う事なんてロクでもない。大方、飲みに付き合わされるんだろうが」
「うぐっ! ……さすがはアヤちゃん、よくお分かりで」
はぁ~とため息をついて座り込むエドヴァルトの足元にある買い物カゴには、ビールを始めとして、スポーツ飲料やビタミン系の栄養補給ゼリーが乱雑に投げ込まれている。それに気付いたアヤセの瞳が少しだけ細まった。
「……あの女のか?」
「"女"? ……あぁ、うん、ゼリー系は唯舞ちゃんのでつまみがミーアの。というか、いい加減唯舞ちゃんをあの女呼ばわりはやめなさいって」
「さっきミーア先輩から、"明日はあいつを休ませろ"と脅迫電話が来た」
「あー……うん、それはミーアから直接聞いたー。相変わらずアヤちゃんでもミーアには敵わないねぇ……」
「あの人を敵に回したら厄介だろう。…………いろんな意味で」
そういうとアヤセは諦めたように、ビールが入ったほうのカゴを持ってエドヴァルトに行くぞと声をかける。
意外そうな顔でエドヴァルトがアヤセを見つめた。
「え、もしかしてアヤちゃん付き合ってくれるの?!」
「……俺の物も一緒に買うのが条件だけどな」
「わーん! アヤちゃん好きぃぃぃ!」
「やめろ、気持ち悪い。30を越えたいい大人が抱きつくな、まだ買うものがあるのならとっとと持ってこい」
アヤセがぽいぽいとカゴに追加のつまみを入れながら隣の棚に向かう姿を見て、エドヴァルトは保護者目線で微笑む。
「ほーんと素直じゃないんだから」
彼との付き合いはかれこれ14年目だ。
初めて会ったのはアヤセが士官学校1年生の13歳で自分やミーアが最終学年6年生の19歳だった時。
士官学校の制度上、最終学年と新一年生がペアで行動することも多く、そんな中で、アヤセは"実力はあるがクソ生意気な後輩"だった。
だが、逆にそれを面白がられてエドやミーアらによる、通称・保護者組が蝶よ花よと事あるごとにうざがらみして可愛がってきたのだ。
お陰さまで、"実力はあるクソ生意気だが、ほんのり可愛げがあって身内には若干甘い後輩"には育ったと思う。
その証拠にこうやって文句を言いながらも、エドヴァルトとミーアに付き合ってくれるのだから可愛いものだ。
(あとは唯舞ちゃんの扱いだけだな~)
新しいカゴに残りの買い出し商品を入れながらエドヴァルトは少々悩む。
唯舞がこの世界に来て一カ月は過ぎたというのに、アヤセはいまだに唯舞の事を"あの女"呼ばわりだ。
もともとアヤセは警戒心の強い男だから、唯舞への警戒を解くのに時間がかかるのは承知の事だったが、保護者としてそんな口の悪さを許容するわけにはいかない。
それに、案外唯舞とアヤセの相性は悪くないとエドヴァルトは思っている。
唯舞は物覚えも早く、的確で、ミスも少ないし余計なことも話さない。
アヤセの容姿に騒ぎ立てる事もないし、まとわりつくこともしない。
淡々とした職務上の関係だけだが、逆にそれが今までのアヤセの周囲にいた女子とは違って珍しいことだった。
もしかしたらこれは、自分達保護者組の腕にかかっているのかもしれない。
「昔から手のかかる後輩だからね。ま、なんとかなるでしょ」
すっかり重くなったカゴを持って、遅いと文句を言うアヤセにエドヴァルトはごめんねと笑った。