黄色いエプロンをかけた、
ホァンおばさんが、老人中心にいた。
点心のおいしい店があったのを思い出して、
歩いたはいいけれど迷子になったらしい。
たまたま、ロックが見つけて、
点心のおいしいお店の見当もつけたところだ。
「きっと西城路のお店じゃないかな」
「さいじょ…うろ?」
「ああ、通りも頭に入ってないか。しょうがないな」
「ごめんねぇ、おばさんは物覚え悪くて」
「いいんだ。それにしても、なんでここまで?」
ホァンおばさんは、
大飯店のシャックーのお手伝いを主にしているはずだ。
料理はホァンおばさん。
軽い料理までならシャックーでもどうにかなるけれど、
割と本格的なものまで、
ホァンおばさんのレシピは網羅している。
「ロックには笑われるかしら」
「どうだろう?」
「イベントがあるらしくてね、それに向けて点心のレシピを…」
「ああ、なるほど。そういうことなら笑わないよ」
ロックは九龍的であることには寛容だ。
まだ、九龍的であることを模索している最中ではあるけれど。
「とにかく戻ろう。シャックーがてんてこまいしてるよ」
「シャックー泣いちゃうかしら」
「その前に、ですよ」
「はいはい」
ホァンおばさんは、老人中心の建物の中を、ぐるりと見る。
「なんで老人中心なのかしらね」
「昔ここで老人たちがダンスをしていた、らしいですよ」
「誰が言ってたの?」
「エイディー」
「そうなんだ」
「ホァンさんはまだ老人じゃないんですから」
「どうかしらね」
「この町は老人も若者も、みんなひとくくりで住人ですから」
ホァンは笑った。
「私、そんな町で料理を作りたかったの」
「そりゃよかった」
「新入りが料理を作ってもいいものかしら」
ロックはにやりと笑った。
「すでに九龍の住人が何をおっしゃる」
ホァンはキョトンとして、そのあと、大きく笑った。
さぁ、大飯店に戻ろう。
シャックーが泣き出す前に。