カートンという大柄の髭のおじさんが、
西城路を歩いていた。
無類のタバコ好きで、
名前もそこからつけている。
どこかで煙管がもらえると聞いて、
このあたりをちょっとうろうろしているところだ。
洒落た煙管はいいものだ。
ただ、この町はまともではないから、
洒落た煙管がどうなっていることやら。
「おじさん」
不意に上から、声。
ネオンに紛れて、
おもちゃを使って飛んでいる少年が見えた。
「おじさんも九龍は初心者?」
「君は?」
「トラ」
「トラ君か。俺はカートンという」
「カートン。エイディーからうわさで聞いた。煙管探し?」
「ああ、変わった煙管と聞いている」
「んー、おじさんが気に入るかわかんないけどねー」
トラ少年はいたずらっぽく笑う。
「西城路に目を付けたのは正解だよ。おじさん」
「そうか、では店の中かな」
「そんなところ。集めるときりがないからね」
「きりがない?」
「コンプリートに何年もかかる人がいるってさ」
カートンは笑った。
「面白い町だ、ここは」
結局カートンは、
煙管とは思いにくいものをくわえる羽目になった。
トラはくすくす笑っている。
「おじさん、似合ってるー」
「そうさ、おじさんはタバコがらみならなんでも似合うんだ」
カートンが大真面目でいうものだから、
トラはさらに笑う羽目になる。
「おじさんはもう聞いたかな、イベントの噂」
「イベント?それはなんだい?」
「5月22日にね…」
トラはイベントの概要らしいものを説明する。
おかしな煙管をくわえたカートンは、ふんふんとうなずいて聞いている。
この町は、おかしなものに満ちている。
カートンはそんなことを思う。