ワントンルーという商店街がある。
萬灯路でワントンルーだと思われる。
リュイはその通りをつらつらと歩いていた。
ホァンおばさんの料理に、不思議な点心が加わった。
西城路でレシピを見つけたと言っていたけど、
西城路って向こう側かな。
よく行けたものだなとリュイは思う。
リュイは飴玉を口に含みながら、ワントンルーを歩く。
飴玉でいいの、と、リュイは思う。
苦い固い種のない、甘いだけの飴玉でいいの。
リュイはいろいろなところで、いろいろな経験をした少女だ。
彼女から話すことはあるまい。
ただ、だから、か。
リュイはいつも微笑んでいる。
恋に恋する少女の純粋さを、演じている。
いや、リュイは純粋な恋、それだけはしたことがないのかもしれない。
生きることは飴玉を転がすことで構わない。
甘いだけでいいの。
とろりとろり、飴玉からほどかれる、甘い甘い物語。
際限なく甘く、優しすぎて、
居場所を忘れそうになる。
ここは九龍。
こきたない町だけど、
住民はたいてい親切で、
飴玉のような優しさを思い出す。
だめだなぁ。
リュイは微笑みの顔のまま、思う。
真実って、こんなに甘いものだっけかと。
痛みだらけの真実。
ここにはそれがない。
おいしい点心と、おいしいカクテルと。
不思議な飴玉。
誰がくれたんだっけ。
そう、飯店のどこかで誰かと会って…思い出せない。
生きるなんて甘い飴玉でいいの。
リュイの考えは元に戻る。
飴玉でいいの、飴玉でいいの。
そう何度も唱えるのに、
ワントンルーの明かりは、彼女の涙を時折照らす。
リュイはそのことに、目を閉じた。
知らない、ふりをした。