九龍の町の露店街。
通称ニコニコとよばれる露店街に、
ノットマンは来ていた。
露店。
粗末なものだ。
台風でも来たら吹き飛んでしまうほどの。
でも、幸いにもこの町には台風らしいものは来ていなくて、
粗末な露店は今日も何かを売って繁盛している、ように見える。
粗末な屋根、ビニールシート。そして、柱が立っているだけ。
そこに人が集い、交流や流通が生まれる。
ノットマンは、不思議なものだと思う。
この通りも、何も置かなければただの道でしかなかった。
そこに、粗末な露店を作ったら、
そこに人が集って新たな流れができる。
人のつながり。
はじまりがどうだったかなんて、
古参の住民でも覚えているものは少ないだろう。
でも、はじまりがあって、今があり、
そして、未来がきっとある。
メイニィが言っていた。
私でありながら私だけでなく、と。
メイニィは少し前に姉を探して九龍にやってきた娘だ。
見つけられたのかはわからないけれど、
メイニィは言っていた。
私でありながら私だけでなく、と。
彼女と話していると、ふっとした瞬間、
人格が入れ替わるのともちょっと違う、
空気が少し変わる感じがある。
多分その時、姉のマオニィが出てきているんだろうと思う。
ノットマンがメイニィたちを思い出したのは、
イベントの時に会えるだろうかという、ちょっとした連鎖の思考だ。
ニコニコ露店街も、お神輿が通ったり、
ちょっと騒がしくなる。
そこで彼女に会えるだろうか、という、軽い連鎖がたぶん起きた。
ノットマンはため息を一つ。
ファイアの日に会える。
そう、イベントのその日に会える。
元気にしているならそれでいいけれど、
やっぱりいろいろな人に会いたいと、ノットマンは思う。