手品の練習を重ねたあたしはついに両親に、魔法が発現した、と告げた。
すると予想していた通り、数日後には屋敷で魔法認定試験を受けることになった。
屋敷にやってきた魔法認定委員会の認定員たちの中には、当然のようにキリアンもいた。
運が良ければキリアンは来ないのではないかと期待していたのだけれど、そう上手くことが運ぶわけがなかった。
しかも屋敷にやってきたキリアンは若干不機嫌に見える。
過去のあたしは気付いていなかったけれど、キリアンはあたしの猛烈なアピールにうんざりしていたのかもしれない。
過去の自分の行ないのせいとはいえ、何から何までツイていない。
「魔法が発現したというのは、マリッサ・ヴェノワ嬢で間違いありませんね?」
屋敷にやってきたキリアンが、さっそく本題を切り出した。
早く認定試験を終わらせてとっとと帰るつもりなのだろう。
「紅茶を用意していますので、まずはお話を」
「ありがたい申し出ですが、ご遠慮させていただきます。このあと別の屋敷へも行かなくてはならないため、時間が無いのです」
魔法認定委員会に少しでも良い印象を持ってもらおうとお母様がお茶をご馳走しようとしたけれど、あっさりと断られてしまった。
実際にこの後のスケジュールが詰まっているのか、それとも早く帰りたいために適当な理由を述べただけなのかは分からない。
とにかく魔法認定委員会としては、早くあたしの魔法の可否を判断して、屋敷から帰りたいということだろう。
その思惑のために雑な認定をしてくれるのであれば、こっちとしても願うところなのだけれど。
あたしはティートローリーを押してきたエスターに近づくと、お母様の代わりに指示を出した。
「エスター、紅茶を振舞う代わりに彼らにお土産を用意してちょうだい。並べる予定だったお茶菓子を包んで人数分用意するのよ」
「かしこまりました」
あたしの指示を受けたエスターは、ティートローリーを下げながらキッチンへと向かった。
これでエスターがあたしの認定試験中に庭に来ることはないだろう。
あたしは魔法認定委員会の認定員たちを、さっそく庭へと案内した。
屋敷内よりも庭での方が、彼らと距離を取ることが不自然ではないと判断したからだ。
「ではみなさまは、そちらのテラスでおくつろぎくださいませ」
あたしは丁寧に魔法認定委員会の面々をテラス席へと誘導する。
その間キリアンはあたしのことを警戒した表情で眺めていた。
あたしが無理やりキリアンの腕に自身の腕を絡ませるのではないかと考えていたのかもしれない。
しかし、おあいにく様。
今世のあたしはキリアンになど興味は無いのだ。
むしろ処刑される一因であったキリアンには近づきたくもない。
一因と言っても処刑に関してキリアンは何もしていないけれど、キリアンに執着をした結果、あたしはレティシアにハメられたのだ。
キリアンに近づくことに慎重にもなる。
「少し距離が遠いのではないかね?」
魔法認定委員会の面々をテラス席に案内した後、彼らからしっかりと距離を取るあたしに、認定員の一人が首を傾げた。
「確かに。もっと近くから確認をしないと判定が難しいかと」
別の認定員も目を細めながらあたしのことを眺めている。
この反応は想定内だ。
だからもちろん答えも用意している。
「実はまだ魔法が不安定なのです。万が一が起こるといけませんので、みなさまには安全のために距離を取っておいていただきたいのです。これくらいの距離があれば、万が一が起こった場合でも、優秀なみなさまには防御や回避が可能だと思いますので」
もちろん万が一など起こらないけれど。
だってあたしは魔法が使えないのだから。
「うーむ。ヴェノワ伯爵令嬢が魔法を使ったように見せかけて、どこかに隠れている別の人間が魔法を使う可能性もあるのでは? こう遠くては、あなた自身が魔法を使っていることを見極めづらいので疑ってしまうな」
「そのような不正が起こらないように、広い庭の中心で魔法を披露させていただくつもりですの。ほら、周りに誰もいないことは明らかでしょう?」
両手を広げて、庭にいるのが自分一人であることを強調した。
ちなみにお母様は、ハラハラしながらテラス席の後ろであたしのことを見守っている。
「……まあいいでしょう。発現したという魔法を披露してください」
あたしの説明に納得したのかしていないのか、キリアンが魔法の使用を促してきた。
ここが正念場よ、マリッサ・ヴェノワ!
華麗に魔法認定委員会の認定員全員を騙すのよ!!