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第12話


 あたしとキリアンが言い合いをしていると、シャーリーに求婚をしているらしいローガン・ドレイユ侯爵が、あたしたち……と一緒にいるシャーリーのもとへとやってきた。

 シャーリーの近くに男性であるキリアンがいるのを見て、シャーリーに悪い虫が付きそうなのではないかと心配になったのかもしれない。


「やあ。シャーリー嬢もこのパーティーに来ていたんだね」


「ローガン様!」


 ドレイユ侯爵が現れた途端、シャーリーの目がキラキラと輝き始めた。

 それを見て安心した。

 貴族令嬢の宿命ではあるけれど、幸せではない政略結婚も多いから。

 シャーリーの目の輝きを見る限り、二人は気持ちの面でも上手くいっているらしい。


「お取込み中だったかな?」


「いえ、取り込み中なのはこちらの二人で、私は暇をしていました!」


 いともあっさりとシャーリーがあたしを切り捨てた。

 シャーリーはあたしたちとではなくドレイユ侯爵と話をする気満々だ。


「そう? それならあっちで話せるかな、シャーリー嬢」


「もちろんです!」


 シャーリーはドレイユ侯爵の問いかけに即答をすると、あたしに向かってひらひらと手を振った。


「そういうことだから。私はローガン様とお話をしてくるわね」


「あっ、シャーリー!?」


「そっちはそっちで楽しんでね、マリッサ」


 ああ。シャーリーは完全にあたしとキリアンが良い感じなのだと誤解をしているようだ。

 ということは、シャーリー的にはあたしを切り捨てたのではなく、あたしに気を回したつもりなのだろう。

 まさかシャーリーの優しさを憎らしく感じる日が来るなんて……!




 予想はしていたけれど、残されたあたしの前からキリアンは立ち去ってはくれなかった。

 ここからは一対一でキリアンと話さなければならないのか。

 気が重い。


「ヴェノワ伯爵令嬢。魔法認定試験を受けている最中だということは、友人に話しているんですか?」


「どうしてそんなことを聞くのですか」


「触れられたくない話題を勝手に出して嫌われたくはないので」


 嫌われたくないのなら、手品を見破ろうとしないでほしい。

 キリアンにとってはそれが仕事だから、仕方がないと言えば仕方がないのだけれど。

 それにキリアンがこんなことを言う意味が分からない。


「あたしに嫌われたところで、キリアンさんにとって損はないでしょう? キリアンさんの仕事は、あたしに嫌われたところでどうこうなるものではありませんから」


「そうだとしても、他人に嫌われるのは良い気分がしません。それがヴェノワ伯爵令嬢なら特に」


 もし過去のあたしなら、今のキリアンの言葉に舞い上がっていたことだろう。

 過去のあたしは、我ながら単純な人間だったから。


 しかし今のあたしを単純な人間とは思わないでほしい。

 もうそんな言葉に浮かれる小娘ではないのだ。


「キリアンさんはこの前まで、あたしのことを迷惑がってましたよね? それならあたしからも嫌われた方が楽なのではありませんか?」


「何度も言っているように、前は前、今は今です。今の俺は、あなたに興味が湧いたんです」


「あたしはキリアンさんに興味を持たれるような面白い人間ではありません」


「十分面白いと思いますよ。あんな魔法もどきを使った魔法認定試験は初めてでした」


 そうでしょうね。

 魔法の存在するこの世界では、手品なんて技術は広まっていないから。

 一方で手品の普及していたパラレルワールドでは、魔法が存在していないようだった。

 きっと魔法の使えないあの世界の人々が、それでも魔法に憧れて生み出したものが「手品」なのだろう。


 ……と、それはさておき。

 魔法認定試験に関してはキリアンに口止めをしておいた方が良いだろう。

 キリアンのように、あたしの手品を見破ってやろうと近づいてくる人物が他にも出てきてしまうかもしれないから。


「その話、他の人には言わないでください」


「あなたがそれを望むなら」


 そう言って、キリアンが首を縦に振った。


 おや。意外とあっさり口止めが出来てしまった。

 対価を要求されたらどこまで許容できるだろうか、と考えていたのに。


「キリアンさんの言葉を信じてもいいのですよね?」


「安心してください。もともとあの魔法もどきの話を他人にする気はありませんでしたから。あなたとの会話のとっかかりとして言ってみただけです」


 ……キリアンはこう言っているけれど、あまり信じすぎない方が良いかもしれない。

 ニコニコしながら優しい言葉で処刑台までの道を歩かせてくる、レティシアのような人間もいるのだから。


 そうだ、レティシアだ。

 あたしはこの誕生日パーティーで、レティシアに闇魔法の話をされないといけないのだった。

 闇魔法グッズを受け取る日程は先延ばしにするにしても、レティシアには過去と同じ行動をとってもらわないと困るのだ。


「そろそろ失礼します。あたしはレティシアと話をして来たいので。レティシアには、お祝いの言葉をもっと伝えたいですから」


「俺を避けることは自由ですが、魔法認定試験には必ず俺が行きますからね。俺とは仲良くしておいた方が得だと思いますよ」


「ご助言ありがとうございます。前向きに検討いたしますね」





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