キリアンをその場に残して、あたしはレティシアのもとへと向かった。
レティシアは多数の招待客と話をしていたので、行儀良く順番待ちをしてから話しかける。
「レティシア、みんなからのお祝いの言葉は終わった感じ?」
「ええ。全員からお祝いの言葉をいただいたわ。ありがたいことね」
ふわりと笑ったレティシアは、微笑みながらも瞳を鋭く光らせた。
「さっきキリアンさんと喋っていたわよね、マリッサ?」
「え、ええ。見てたのね?」
レティシアに見られていることには気付かなかった。
別にキリアンと仲良く喋っていたわけではないけれど、レティシアの目にあたしたちはどう映っていたのだろう。
もしかして楽しく話に花を咲かせているように見えてしまったのだろうか。
もしも会話内容を聞いていたら、とてもそうは思わないだろうけれど。
「いつの間にキリアンさんとマリッサは、お喋りをするような関係性になっていたの?」
あ。
そうだった。会話内容以前に、過去のあたしとキリアンは二人で喋るような関係ではなかった。
それが急にお喋りを始めたのだから、変にも思うだろう。
「ええと、あたしとキリアンさんは本来お喋りをする関係性ではないのだけれど……偶然と言うか、たまたま喋っただけと言うか……」
「ねえ、マリッサ。マリッサはまだ魔法使いとして認められていないわよね?」
レティシアが突然、棘のあることを言ってきた。
事実だから否定はしないけれど、あたしの年齢でまだ魔法が発現していないというのはかなりの崖っぷちで、話題に上げることすら躊躇われるものなのだ。
それをわざわざ口に出すということは、レティシアはあたしがキリアンと喋っていたことがかなり気に食わなかったのだろう。
しかも自分の誕生日パーティーでの出来事だから、なおさら腹が立ったのかもしれない。
全部キリアンのせいだ。
あたしはキリアンと話したくなんかなかったのに!
あの会話のせいでレティシアの行動が変わったらどうしてくれるのだ!
「ねえ、マリッサ。魔法認定委員会のキリアンさんの相手が非魔法民というのは、とっても良くないことだと思うの」
レティシアがニコニコしながら言葉を重ねる。
しかしよく見ると目が少しも笑っていない。
「キリアンさんとあたしはそういう関係じゃないわ」
「でも、マリッサはそういう関係になりたいのよね?」
「…………」
否定したいところだけれど、過去のあたしはキリアンに夢中で、それゆえにレティシアが罠にハメてきたのだ。
安易に否定するわけにはいかない。
あたしが黙っていると、あたしの代わりにレティシアが口を開いた。
「実はわたくし、魔法が使えるようになるすごい方法を知っているの」
過去のレティシアと同じ文言。
魅力的な甘い甘い悪魔の囁き。