「本当!? それってどういう方法!?」
あたしは過去の馬鹿なあたしと同じように、レティシアの言葉に食いついてみせた。
するとあたしの反応を見たレティシアは、過去の彼女と同じようにくすっと笑った。
過去のあたしは気付いていなかったけれど、レティシアの笑みには邪悪なものが見え隠れしている気がする。
「今ここでは話せないわ。それにパーティーの後も今日は家族と過ごす予定だから……来週のどこかでまたわたくしの屋敷へ来てくれるかしら?」
「あー、ごめんね。来週はずっと予定があるの」
過去のあたしと同じ轍を踏まないように、来週に会う話は断った。
過去のあたしはその日に、レティシアから闇魔法をそうではないものとして教わって、闇魔法グッズをもらうのだから。
同じ行動はいただけない。
「数時間で終わるけれど、それでも無理?」
「うん。ごめんね」
申し訳なさそうな顔をしてレティシアに謝罪をした。
するとレティシアはすぐに次の案を提示してきた。
「それなら再来週は? 数時間くらい空いている時間はあるわよね?」
「再来週も時間が無いの。ありがたい提案をしてくれたレティシアには申し訳ないのだけれど」
さすがにこれは苦しいだろうか。
ただの令嬢が、二週間先まで予定がぎっちりだなんて。
でもレティシアの策略をかわす方法が全然思いつかないから、少しでも長く時間稼ぎがしたいのだ。
「再来週もマリッサには予定があるのね……」
レティシアは、あたしの話を嘘だとは思わなかったようだ。
その代わりにとんでもない予想を立てていた。
「マリッサが忙しいのは、キリアンさんのせい?」
「へ? キリアンさん?」
「キリアンさんとデートをするから忙しいのかと思って」
勘弁してほしい。
キリアンとデートなんて、絶対にごめんだ。
どんなタイミングで手品の話をされるか分かったものではないのだから。
「違うわよ。キリアンさんとは関係無い用事で忙しいの」
「それならマリッサは再来週までにキリアンさんとは一度も会わないのね?」
「あー……一回二回は会うかも。可能なら一回だけにしたいのだけれど」
レティシア対策ももちろん重要だけれど、魔法認定試験の方も重要なのだ。
再来週までには再試験を受けておきたい。
そのためあたしの手品を魔法だとすんなり認めてもらえたら一回、またキリアンに難癖をつけられたら再々試験を受けることになるから二回、キリアンと会うことになる。
もちろん会うのは個人的にではなく、魔法認定委員会の認定員としてのキリアンとだけれど。
「……ふーん。マリッサにはキリアンさんと会う予定があるのね」
不満そうにそう言ったレティシアが、急にあたしの腕を掴んだ。
しかも木苺ジュースの入っているグラスを持った方の腕を。
そして、その腕を勢いよく自分の方へと引っ張った。
「キャーーーッ!」
「…………へ?」
気付いた時にはすべてが終わっていた。
レティシアのドレスには木苺ジュースがかかっていて、レティシアはすでにあたしの腕を離していて、けれどあたしの手にはジュースの入っていたグラスが握られていて。
そしてレティシアの叫び声を聞いた招待客たちの注目が集まっていて。
ああ。あたしはレティシアにハメられたのだ。
過去にはこんな出来事は無かったのに。
きっとあたしが闇魔法グッズの受け取りを先延ばしにしたからだ。
だからあたしの転落劇を待てなくなったレティシアが、すぐに効果の出る罠を張ったのだろう。
「レティシアお嬢様!?」
焦った様子の使用人と招待客たちがレティシアの周りに集まってきた。
「大変ですわ! ドレスが染みになる前に染み抜きをしませんと」
「レティシアお嬢様、早く屋敷の中へ」
「ううっ……わたくしが悪いの……わたくしの言葉が、マリッサの気に障ったせいで……」
上手い。
レティシアはあたしがジュースをかけたとは言っていないけれど、この状況ではそうとしか聞こえない。
レティシアが手で目元を押さえながら、顔を上げた。
本当は涙なんか出ていないだろうに、泣いているように見える。
何から何まで上手い。
「みなさま、申し訳ございません。わたくしは着替えてまいりますので、どうぞこのままご歓談くださいませ」
そう言い残して、レティシアは使用人とともに屋敷の中へと引っ込んでしまった。