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第8話 まさか中嶋くんにアピールするためにキャラ作りしてるんじゃない?

「信じていいのかな?」小林茉里は疑わしそうに目を細めて、指で星野美友紀の腕を軽く突ついた。「中嶋陽介はディベート部の部長でもないのに、そんなにあなたが辞めるかどうか気にする理由ある?」


星野美友紀は口を開きかけたが、反論の言葉が出てこなかった。


ちょうどそのとき、先生が机をバンッと叩き、皆の注意が戻った。


「この時間は数学の小テストだ。準備して。」


言い終わるやいなや、教室中からため息と不満の声が上がった。


この名門校の特徴は、なんといっても生徒のレベル差が激しいことだ。


トップクラスの教育を求める者もいれば、ただ肩書き目的で入学した者もいる。


星野美友紀は入学当初は前者だったが、中嶋陽介を意識し始めてからは後者に近くなっていた。


テスト用紙が配られ、見慣れた問題の数々に思わず眉をひそめる。


彼女は昨日、再びこの時点に戻ってきたばかりだ。


戻ってきて最初にやったのは、現在の授業進度を整理し、知識をざっとおさらいすることだった。


もともと基礎はしっかりしていたし、前の人生では中嶋陽介と同じ東京大学の推薦枠を目指して、陰でかなり努力していた。


だからこそ、今こうして問題を解きながら、ふと感じてしまう。


高2の内容って、こんなに簡単だったっけ?


先生が「あと1分」と告げたとき、ちょうど最後の大問を解き終えた。


満足げにペンを置き、不思議なことに、今この瞬間の達成感は前世で初めて自力で投資して大金を得た時よりも強く思えた。


中嶋陽介の席に目をやると、そこは空席のままだった。


また来ていないのか。


小さく首を振り、彼女は静かに問題集を取り出して解き始めた。


中嶋陽介はすでに推薦が決まっている。


でも自分には、まだその道がない。


前世と同じく一般入試で入れればもちろんいい。でも――


今は新しい目標ができた。


午前の授業が終わると、星野美友紀は急いで昼食をかき込み、物理研究会の部室へと向かった。


ドアを開けた瞬間、機材の調整に夢中の渡辺雅彦と鉢合わせる。


気を利かせて黙ったまま、そっと一番遠い実験台へ歩いていった。


実験は集中が何より大事だ。


データの計算を終え、背伸びしようとしたその時、背後から声がして思わずびくりとした。


「そのやり方、誰に教わったの?なかなか面白いね。」


振り返ると、渡辺雅彦が真剣な表情でこちらを見ていた。


「渡辺くん、いつの間に来てたの?全然気づかなかった。」美友紀はさりげなく距離を取った。


その仕草を渡辺も見逃さなかったが、一瞬口元がこわばり、すぐに元に戻った。


「僕も、君がいつ入ってきたか気づかなかったよ。」彼は画面のデータを指し、「ここ、どうしてこういう発想になったの?」


まさか「前世で考えた方法だ」と言うわけにもいかず、星野美友紀はごまかすように手を振った。


「前に何となく試してみたら上手くいったから、そのまま使ってるだけ。」


渡辺は納得したようにうなずいた。


今回はたまたま半年間も休会していたから説明もつくが、もし物理研究会を辞めた直後に戻ってきていたら、説明が難しかっただろう。


「この方法、本当に見事だよ。」渡辺は感心したように言った。「ぜひ詳しく教えてくれない?」


星野美友紀はもちろん快諾した。


より多くの人に広まれば、物理の進歩にもつながるし、何より目の前の彼は大切なパートナーだ。


できるだけ分かりやすく説明したつもりだが、渡辺の理解力は抜群で、すぐに要領をつかんでいった。


そうしているうちに、昼休みはあっという間に終わった。


「考え方がすごく明快だね。」渡辺はにこやかに手を差し出す。


美友紀は戸惑いながら眉をひそめる。「えっと……?」


「ありがとう、美友紀さん。」


その照れくさい呼び方に、星野美友紀は思わず耳まで赤くなった。


「そ、そんな……やめてよ。」照れながら手を取る。「私こそ、いつも色々教えてもらってるし。」


「お互いさまだよ。」


……


午後の予鈴が鳴る頃、星野美友紀は慌てて物理研究会を出て教室へ向かった。


教室に入ると、またもやみんなの視線が集まった。


美友紀は首をかしげる。今日は中嶋陽介と何も接点なかったはずなのに。


なぜまた注目されてるの?


席についた途端、小林茉里が大げさに腕にしがみついてきた。


「ねえ美友紀、ひとりでこっそり勉強してるでしょ!」


何のことかわからずにいると、今度は誰かが机をバンッと叩いた。


現れたのは不機嫌そうに眉をひそめた人物。「星野美友紀、さっきのテスト、カンニングしたんじゃないの?」


突然の指摘に、美友紀はきょとんとする。「え、何のこと?」


「しらばっくれて!」相手は声を荒げた。「カンニングじゃないなら、どうして満点なんて取れるの?」


ここでようやく、なぜまた注目を浴びているのか理解した。


思わず苦笑する。


「じゃあ、クラスで満点取った人、他にいた?」


相手は言葉に詰まった。


そこで美友紀は、ようやく相手が誰か思い出す。


前世で夏川明佳を一番慕っていた子だ。


夏川家と中嶋家は提携関係にあり、夏川明佳は中嶋陽介の幼なじみ。


高1の頃から、二人は周囲に公認カップル扱いされていた。


でも夏川明佳は高1の途中で芸能界にスカウトされてからは、ほとんど学校に来なくなった。


高2の春に転校してきた美友紀はそれを知らず、中嶋陽介に惹かれてアプローチを始めた。


鈴木詩織は、夏川明佳の熱心なファンであり、中嶋陽介のことも思いを寄せている、いわば二人の最大の“推しカプ”だった。


当然、美友紀のことは面白く思っていない。


何かと嫌がらせをしてきたが、美友紀の義父の影響力もあり、最初のトラブルの後は、直接手出ししてこなくなった。


今回は、たまたま「証拠」を掴んだと思って、張り切っているのだろう。


でも――


相手が悪かったね。


「あら、そういうこと?」鈴木詩織は皮肉っぽく笑った。「まさか、“落ちこぼれからの大逆転”キャラを演じて、中嶋くんの気を引くつもりじゃないでしょうね?」


「満点の答案、どうせ先生から事前に答えをもらったんでしょ?」

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