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第24話 逆転の序章

「それでは、クラス分けの結果に従い、それぞれの教室へ移動してください。教室にはすでにクラス札が掲げられています。次回のクラス分けテストは一週間後ですので、引き続き努力してください。」


先生は資料をまとめて退室しようとした。星野美友紀はバッグを手に立ち上がろうとしたが、そのとき渡辺雅彦が勢いよく立ち上がり、はっきりとした声で言った。


「先生、試験の答案を見せていただきたいです。」


そのひと言で、教室中の視線が一気に集まった。


「君の名前は……?」先生は眼鏡を押し上げ、彼を見つめた。


「渡辺雅彦です。」


その名を聞いた先生の表情に、少し笑みが浮かんだ。


「渡辺雅彦、君のことはよく覚えているよ。考え方が明快で理解も深い。君はSクラスだが、何か問題でも?」


教室でSクラスに入れたのは、たった三人だけ。


「渡辺雅彦」という名前は、みんなの心に強く残っていた。


彼の発言に、誰もが興味津々でその場を動かなかった。


「自分の答案を見たいわけじゃありません、僕は……」


渡辺が言い終える前に、星野美友紀がそっと彼の手首をつかんだ。


「もういいよ。」彼女は眉をひそめ、顔をうつむかせる。「私は大丈夫……」


「でも、僕は納得できない!」渡辺の声は熱を帯びていた。「今回の問題、僕たちがまとめた資料とほとんど同じだった!君の実力なら、そんなはずないって……」


「おかしくないよ。」星野の声はかすかで、肩が小刻みに震えていた。


彼女が顔を上げると、目には涙が浮かんでいた。


「先生の手を煩わせないで。ここには優秀な人ばかりだし、私が調子を崩しただけかもしれない。もうこれ以上、皆の前で恥をかかせないで……お願い……」


そう言って、彼女は皆に軽く会釈し、足早に教室を出て行った。


野次馬たちも見どころがないと悟り、次々と席を離れていった。


先生は一度口を引き結び、しばらく考え込んだ後で言った。「どうしても見たいなら、見てもいい。」


渡辺は拳を握りしめ、そのまま彼女の後を追って教室を出た。


遅れて教室に到着した星野美友紀は、Cクラスの教室で良い席をすでに取られていた。


黙って後ろの窓際の席へと向かい、静かに腰を下ろした。


荷物を整理し終えたとき、背中を誰かにトントンと軽く突かれた。


「やあ、よろしく。」


振り返ると、いたずらっぽい目が彼女を見ていた。


「高野明徳って言うんだ、よろしく。」


差し出された手を、星野は少し迷いながらも握り返した。


「星野美友紀です。」


簡単に名乗り合ったあと、星野はまた資料に目を落とそうとしたが、高野が声をかけてきた。


「なんだか元気ないね、どうかした?」


星野の指先が、握りしめた紙で白くなっていた。


「……この成績が、どうしても受け入れられなくて。」


背後から、小さな笑い声が聞こえた気がした。


「それだけ?」高野は軽い調子で言う。「スタートが一番下なら、そこから全部追い抜いていく方が、むしろ面白いと思わない?」


「最下位からトップに上がる方が、実力を示せるってことだよ。」


星野には、その考えがどこから来るのか分からなかった。


それでも、高野は明るく続けた。


「どのクラスも授業の内容は大体同じ。Sクラスがちょっと速いだけで、Cクラスは一番ゆっくり進むんだ。」


「だったら、この一番遅いクラスからSクラスを追い越してみるのも、悪くないでしょ?」


なんとなく、星野はうなずいてしまった。


確かに、そうかもしれない。


でも、どうして彼は、初回でCクラスになった自分が次はSクラスに上がれると思うのだろう?


彼の自信の根拠は、どこから来ているのか。


みんな必死で頑張っているのに、本当にそんなことができるの?


星野が疑問を口にする前に、教室のドアが勢いよく開いた。


「高野明徳!お前、何を考えているんだ!」


星野は驚いて、高野の方を見た。


たしか、さっき自己紹介でそう名乗っていた。


先生は教卓に本をドンと音を立てて置き、教室は一瞬で静まり返った。


「君が優秀なのは分かっている。でも、ここがどういう場か考えなさい!君の学校は、君が白紙の答案を提出したことを知っているのか?」


星野は黙り込んだ。


彼は本当に白紙を出したのか?


この才能ある生徒たちが集う場所で、少し気を抜けばすぐに追い抜かれるというのに、彼はそんなことをして平気なのだろうか。


「今、先生が知ったじゃないですか。」高野は悪びれずに笑った。「心配しないでください、先生!昨日は試験前に寝不足で、次はちゃんと寝てから受けます!」


先生は呆れた顔で彼を指さし、それ以上は何も言わなかった。


彼らはそれぞれの学校の代表であって、先生の生徒ではない。


怒るだけ無駄なのかもしれない。


でも、星野はその才能がもったいないと痛感した。


「約束は守りなさいよ!」


先生は少し落ち着いてから、柔らかな声で続けた。


「これから学習ハンドブックを配ります。一人一冊です。私は三日間かけてこの本を全部説明します。残りの三日間は自習。日曜日に次のクラス分けテストがありますので、自分を超えるつもりで頑張ってください。」


「では、まず一ページ目を開いてください。」


生徒たちは順番に本を受け取り、すぐに勉強に集中し始めた。


Cクラスに入ったからといって、先生の実力が低いわけではない。


むしろ、今回は先生のくじ運が悪かっただけだ。


毎年、競技の講師は過去の物理オリンピック優秀者か、研究で実績のある人ばかり。


Cクラスの先生もその両方を持ち合わせていた。


星野のくじ運が少し悪かったせいで、Cクラスになったにすぎない。


わずか四十五分で、先生はまるまる一単元の内容を分かりやすくまとめてくれた。


「では、残りの時間は自分で復習してみてください。」


星野が知識を整理しようとしたとき、また背中をトントンと突かれた。


「どう?一緒にやってみない?」

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