星野美友紀は眉をひそめ、高野明徳の根拠のない自信に戸惑いを隠せなかった。
「どうして自分が一位になれるって、そこまで思い込めるの?」
高野明徳は伸びをしながら、椅子の背にもたれて気だるげに微笑んだ。
「先生が僕のことを覚えている理由、分かる?」
星野美友紀は素直に首を横に振った。
「去年のコンテストで、僕は二位だったからさ。」
「そういうことか。」星野美友紀は納得したようにうなずいた。「じゃあ今年は、優勝を狙ってるの?」
ただ雑談のつもりで言った一言。
だが、その言葉がどこか彼の逆鱗に触れたのか、高野明徳の表情には少しだけ寂しさが浮かんだ。
「もちろん一位を目指してるよ。だからさ、次のクラス分けテスト、僕と勝負しない?どっちが一番になれるか。」
星野美友紀は、彼の自信の理由をようやく理解した。
去年の物理コンテストで二位。実力も十分ある。
それでも、一つだけ分からないことがあった。
なぜ、高野明徳は自分にまで、こんな根拠のない自信を向けてくるのだろう?
「どうして私と勝負したがるの?Sクラスには強い人がたくさんいるのに、別に……」
「美友紀!」彼女の言葉を遮るように、高野明徳が強い口調で呼びかけた。
「もしかして、僕を全然相手にしてないんじゃない?」
怒りを浮かべる高野明徳を見て、星野美友紀はますます訳が分からなくなった。
Cクラスとはいえ、集まっているのは各校の優秀な生徒ばかりだ。
彼らのやり取りに、教室の集中した空気が乱され、周囲から不満そうな視線が集まる。
「もうちょっと静かにして。」星野美友紀は気まずそうに声を落とし、彼の腕を軽く叩いた。
高野明徳も空気を読んだのか、渋々顔をそむけて声をひそめた。
「僕が君を気にしてないって?……そもそも、僕たちそんなに親しかったっけ?」
その一言で、高野明徳はまるで火がついたように反応した。
「無視してるって自覚ないの!?僕、去年二位だったって言っただろ!」
興奮気味の彼を前に、星野美友紀はさらに戸惑う。
「知ってるよ。」
「去年の優勝者――それ、君だ!」
星野美友紀は一瞬、固まった。
前世の記憶が鮮やかによみがえり、去年自分もコンテストに出場し、優勝していたことを思い出した。
そのとき、ようやく高野明徳がなぜ怒っていたのかを理解した。
さっきの自分の言葉は、もし立場が逆だったら、確かに屈辱的に感じただろう。
「ごめん……忘れてた……」
言い終える前に、またしても高野明徳の顔がさらに曇るのを見て、星野美友紀は心の中でため息をついた。
でも、仕方のないことだった。
二度目の人生を生きている彼女は、すでに去年自分が優勝したことすら忘れていたのだ。
さっきは「たかが二位で、何度も言わなくても」と思っていた。
まさか、彼が自分に思い出させようとしていたとは――。
「本当にひどいよ!」高野明徳は、歯の隙間から絞り出すような声で言った。「でも、いいさ。今年こそ君に勝つ!」
拗ねたような彼を見て、星野美友紀はそっと唇を引き結び、口を開いた。
「今年のコンテスト、たぶん……私はもう勝てないかも……」
「どうして?」高野明徳は本の陰から顔を出し、疑問を浮かべる。
「もう半年も物理研究会を辞めてて……この半年、ほとんど物理に触れていないの。」
高野明徳はそれを聞いて、口を開いたものの、どう慰めればいいのか言葉が出てこなかった。
ただ、小さくつぶやいた。
「だからCクラス……だったのか。てっきり、わざと実力を隠してるのかと思ったよ。」
星野美友紀は小さく首を振った。
ちょうどその時、先生が教室に戻ってきて、二人の会話は中断された。
「みんな、理解できたかな?そろそろ新しいポイントを説明するよ。」
一瞬で、皆の注意が先生に向けられる。
星野美友紀も集中しようとした矢先、後ろからまた軽くつつかれた。
「ごめん、そんな事情知らなかった……でも、僕たちなら、次のテストできっと……」
高野明徳の慰めは途中で途切れた。
ドアの向こうでノックの音が響いた。
「先生、失礼します。」
聞き覚えのある声に、星野美友紀は思わず顔を上げた。
そこには渡辺雅彦が立っており、後ろには数人の教師が続いている。
星野美友紀は眉をひそめた。
これは……
「何か用ですか?」邪魔をされた先生は、不満そうな顔を浮かべた。
だが、彼女は目の前の人物を覚えていた。去年の大会で、彼はある少女とペアを組んで優勝した。
その時、彼女は二人を称賛した記憶がある。
リーダーたちの顔を見て、先生の表情も引き締まった。
もしかして、高野明徳の白紙答案が問題になったのだろうか?
「今回のクラス分けテストの成績について、再審査の過程でいくつかの問題が見つかりました……」渡辺雅彦は落ち着いた声で言った。
先生は緊張した面持ちで口を開いた。
「リーダー、高野明徳が白紙で答案を出したのは問題ですが、彼は去年の二位で、実力は……」
高野明徳は先生が自分をかばってくれたのを感じ、急いで立ち上がって頭を下げた。
「先生、僕が悪かったです!寝不足で……次のテストは必ず……」
「君のことじゃない。」渡辺雅彦は優しくも断固とした口調で遮った。
彼は先生たちを引き連れて講壇に上がり、まっすぐ星野美友紀を見つめた。
教務の担当者が一歩前に出て、厳粛な表情で話し始める。
「今回のクラス分けテストの採点において、星野美友紀さんの答案が、第三者によって意図的にすり替えられていたことが判明しました。そのため、成績が大きく歪められ、試験の公正さが損なわれました。」
「この重大なミスについて、全生徒の皆さんに心よりお詫び申し上げます。今後は再発防止のため、体制を強化します。関係者はすでに処分済みです。今後、このようなことが二度と起きないよう、試験の公平を守ることを約束します。」
「また、再度採点した結果、星野美友紀さんが今回のクラス分けテストで――全体の一位でした。」
星野美友紀の耳には、他の声はもう届かなかった。
「一位」というその言葉だけが、はっきりと響き続けていた。
つまり――
彼女の実力が足りなかったわけではなかった。
誰かが答案をすり替えたから、Cクラスに落とされたのか?
でも、誰が、どうしてそんなことを?
いくら考えても答えは出なかった。
「美友紀、Sクラスへ行こう。」
渡辺雅彦が手を差し伸べる。
その時、後ろから強く背中を突かれた。
高野明徳が、悔しそうにささやいた。
「すごいじゃん!さすが、前の席!」