目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第25話 暗流と冠

星野美友紀は眉をひそめ、高野明徳の根拠のない自信に戸惑いを隠せなかった。


「どうして自分が一位になれるって、そこまで思い込めるの?」


高野明徳は伸びをしながら、椅子の背にもたれて気だるげに微笑んだ。


「先生が僕のことを覚えている理由、分かる?」


星野美友紀は素直に首を横に振った。


「去年のコンテストで、僕は二位だったからさ。」


「そういうことか。」星野美友紀は納得したようにうなずいた。「じゃあ今年は、優勝を狙ってるの?」


ただ雑談のつもりで言った一言。


だが、その言葉がどこか彼の逆鱗に触れたのか、高野明徳の表情には少しだけ寂しさが浮かんだ。


「もちろん一位を目指してるよ。だからさ、次のクラス分けテスト、僕と勝負しない?どっちが一番になれるか。」


星野美友紀は、彼の自信の理由をようやく理解した。


去年の物理コンテストで二位。実力も十分ある。


それでも、一つだけ分からないことがあった。


なぜ、高野明徳は自分にまで、こんな根拠のない自信を向けてくるのだろう?


「どうして私と勝負したがるの?Sクラスには強い人がたくさんいるのに、別に……」


「美友紀!」彼女の言葉を遮るように、高野明徳が強い口調で呼びかけた。


「もしかして、僕を全然相手にしてないんじゃない?」


怒りを浮かべる高野明徳を見て、星野美友紀はますます訳が分からなくなった。


Cクラスとはいえ、集まっているのは各校の優秀な生徒ばかりだ。


彼らのやり取りに、教室の集中した空気が乱され、周囲から不満そうな視線が集まる。


「もうちょっと静かにして。」星野美友紀は気まずそうに声を落とし、彼の腕を軽く叩いた。


高野明徳も空気を読んだのか、渋々顔をそむけて声をひそめた。


「僕が君を気にしてないって?……そもそも、僕たちそんなに親しかったっけ?」


その一言で、高野明徳はまるで火がついたように反応した。


「無視してるって自覚ないの!?僕、去年二位だったって言っただろ!」


興奮気味の彼を前に、星野美友紀はさらに戸惑う。


「知ってるよ。」


「去年の優勝者――それ、君だ!」


星野美友紀は一瞬、固まった。


前世の記憶が鮮やかによみがえり、去年自分もコンテストに出場し、優勝していたことを思い出した。


そのとき、ようやく高野明徳がなぜ怒っていたのかを理解した。


さっきの自分の言葉は、もし立場が逆だったら、確かに屈辱的に感じただろう。


「ごめん……忘れてた……」


言い終える前に、またしても高野明徳の顔がさらに曇るのを見て、星野美友紀は心の中でため息をついた。


でも、仕方のないことだった。


二度目の人生を生きている彼女は、すでに去年自分が優勝したことすら忘れていたのだ。


さっきは「たかが二位で、何度も言わなくても」と思っていた。


まさか、彼が自分に思い出させようとしていたとは――。


「本当にひどいよ!」高野明徳は、歯の隙間から絞り出すような声で言った。「でも、いいさ。今年こそ君に勝つ!」


拗ねたような彼を見て、星野美友紀はそっと唇を引き結び、口を開いた。


「今年のコンテスト、たぶん……私はもう勝てないかも……」


「どうして?」高野明徳は本の陰から顔を出し、疑問を浮かべる。


「もう半年も物理研究会を辞めてて……この半年、ほとんど物理に触れていないの。」


高野明徳はそれを聞いて、口を開いたものの、どう慰めればいいのか言葉が出てこなかった。


ただ、小さくつぶやいた。


「だからCクラス……だったのか。てっきり、わざと実力を隠してるのかと思ったよ。」


星野美友紀は小さく首を振った。


ちょうどその時、先生が教室に戻ってきて、二人の会話は中断された。


「みんな、理解できたかな?そろそろ新しいポイントを説明するよ。」


一瞬で、皆の注意が先生に向けられる。


星野美友紀も集中しようとした矢先、後ろからまた軽くつつかれた。


「ごめん、そんな事情知らなかった……でも、僕たちなら、次のテストできっと……」


高野明徳の慰めは途中で途切れた。


ドアの向こうでノックの音が響いた。


「先生、失礼します。」


聞き覚えのある声に、星野美友紀は思わず顔を上げた。


そこには渡辺雅彦が立っており、後ろには数人の教師が続いている。


星野美友紀は眉をひそめた。


これは……


「何か用ですか?」邪魔をされた先生は、不満そうな顔を浮かべた。


だが、彼女は目の前の人物を覚えていた。去年の大会で、彼はある少女とペアを組んで優勝した。


その時、彼女は二人を称賛した記憶がある。


リーダーたちの顔を見て、先生の表情も引き締まった。


もしかして、高野明徳の白紙答案が問題になったのだろうか?


「今回のクラス分けテストの成績について、再審査の過程でいくつかの問題が見つかりました……」渡辺雅彦は落ち着いた声で言った。


先生は緊張した面持ちで口を開いた。


「リーダー、高野明徳が白紙で答案を出したのは問題ですが、彼は去年の二位で、実力は……」


高野明徳は先生が自分をかばってくれたのを感じ、急いで立ち上がって頭を下げた。


「先生、僕が悪かったです!寝不足で……次のテストは必ず……」


「君のことじゃない。」渡辺雅彦は優しくも断固とした口調で遮った。


彼は先生たちを引き連れて講壇に上がり、まっすぐ星野美友紀を見つめた。


教務の担当者が一歩前に出て、厳粛な表情で話し始める。


「今回のクラス分けテストの採点において、星野美友紀さんの答案が、第三者によって意図的にすり替えられていたことが判明しました。そのため、成績が大きく歪められ、試験の公正さが損なわれました。」


「この重大なミスについて、全生徒の皆さんに心よりお詫び申し上げます。今後は再発防止のため、体制を強化します。関係者はすでに処分済みです。今後、このようなことが二度と起きないよう、試験の公平を守ることを約束します。」


「また、再度採点した結果、星野美友紀さんが今回のクラス分けテストで――全体の一位でした。」


星野美友紀の耳には、他の声はもう届かなかった。


「一位」というその言葉だけが、はっきりと響き続けていた。


つまり――


彼女の実力が足りなかったわけではなかった。


誰かが答案をすり替えたから、Cクラスに落とされたのか?


でも、誰が、どうしてそんなことを?


いくら考えても答えは出なかった。


「美友紀、Sクラスへ行こう。」


渡辺雅彦が手を差し伸べる。


その時、後ろから強く背中を突かれた。


高野明徳が、悔しそうにささやいた。


「すごいじゃん!さすが、前の席!」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?