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第6話 新生活・マリア

次の日の朝。

今日から私の新しい学校生活が始まる。

濃紺のブレザーに袖を通すと気持ちもなんだか引き締まる。

姿見でチェックしてからリビングに降りた。

「おはようみんな!」

リビングにはもうみんな来ていた。

「おはようマリア」

「おはよう」

新聞を見ながらパパが。

コーヒーを注ぎながら神尾先生が声をかけてくれた。

「お姉ちゃん、やっぱウチの制服似合うね!」

「へへっ… そう?」

瑞希が感激したように言った。

自分でもまんざらじゃないと思ってたんだよね。

「まあ、馬子にも衣装ってやつだな」

詩乃が小馬鹿にしたように言った。

「なんだって?」

眉をしかめる私。

「マリアも詩乃ももう高校生なんだからじゃれ合うのもいいかげんにしなさい」

「なんか瑞希に褒められてその気になってるからさ」

鼻で笑うように言う詩乃。

「てめえ!まだ言うか!?」

カッとなって腕をまくると詩乃が身構えて席から立つ。

すると瑞希が笑いながら

「まあまあお姉ちゃん、許してやってよ。小学校とかでよくあるじゃん?好きな子にはいじわるするってさ」

と、私と詩乃の顔を見比べて言った。

「は?ガキに言われたくねえし」

「私はガキじゃない!」

怒って立ち上がる瑞希。

今度は瑞希VS詩乃。

「ううん!」

神尾先生の咳払いで殺気立っていた私達はビクッとなって静かになった。

「お食事は静かにいただきましょうね」

「はい…」

「すんません」

「ごめんなさい」

3人それぞれ謝って座りなおした。

「それからマリア」

「はい」

「女の子なんだから“てめえ”はないでしょう?行儀よくしなさい」

「はい…」

朝っぱらから怒られるとは……

「へっ。怒られてやんの」

横から茶化す詩乃をキッと睨んだ。

「ううん!」

またも神尾先生の咳払い。

私と詩乃はシャンと背筋を伸ばして、それから借りてきた猫のように大人しく朝食をとった。

「それにしてもマリアが帰ってくると食卓が賑やかになるな」

パパが笑いながら言う。

なんとも小っ恥ずかしい。

朝食を済ませて私達は学校に向かった。

家は住宅街から少し離れた高台にある。

朝陽が降り注ぐゆるやかな坂道を詩乃と瑞希と3人で歩いて行った。

「う~ん… 大丈夫かな?おかしくない?」

「全然おかしくないよ!似合ってるって!」

さっきの詩乃の言葉が気になったわけじゃないけど、改めて瑞希に聞いてみた。

「大丈夫だよ。さっきのは冗談だからさ」

軽く笑いながら詩乃が言う。

「じゃあなんであんなこと言ったのよ?朝からずいぶんじゃん?」

「刺激だよ。刺激」

「刺激?」

「向こうじゃチヤホヤされてきて刺激が足りなかったんじゃないかなって」

「余計なお世話!こんなヤツにお土産あげるんじゃなかった。行こう!瑞希」

そっぽを向いて足を速めると瑞希が慌ててついてきた。

そんな私を見て詩乃はククッと笑うように肩をゆするとガムを噛み始めた。

詩乃は昔から私をからかったりする。

それで私が怒る。

瑞希が止める。

もう慣れっこで半ばお約束みたいなもん。

坂道を降りると広い道に出た。

これは私が昨日、車で通ってきた川沿いの道だ。

昨日は夕陽。

今日は朝陽を浴びた水面が銀色に輝いている。

「綺麗ね。こんな景色見ながら毎日通えるなんて素敵じゃない?」

私が立ち止まって言うと詩乃が首を振りながら

「川はいいけど向こうの街がな。薄汚いせいで+-0だ」

と、吐き捨てるように言った。

「そうかな?」

私には別にそうは思えない。

「スラム街みたいなもんだよ。住んでる人間も質が悪いしな」

「そういう言いかたって良くないよ」

「は?」

「住んでるところで人を差別したらダメだって」

詩乃の顔をじっと見て言った。

「わかったよ。でもそういうことは向こうの連中を見てから言ってくれよな」

学校にいる不良連中のことか。

「それとこれとは別!」

「わかったよ」

詩乃はお手上げのポーズをとると歩き出した。

不良は不良。

住んでる人はまた違うって。

3人で歩いていると同じ制服を着た子が何人も目に映ってきた。

瑞希の友達と思えるような子達が声をかけてくる。

笑顔で応える瑞希。

「ここをまっすぐ行くと俺達の学校だよ」

詩乃が指さす先に大きな橋があり、さらに先にそれらしい白い建物が見えた。

学校に近付くにつれて歩いている生徒の数も増えてくる。

何人かの女子は遠巻きに詩乃を見ながら騒いでいた。

詩乃は気付いているのかいないのか見向きもしない。

「詩乃って人気あるんだね」

「別に」

私が冷やかすように言っても素っ気なく返してきた。

「詩乃はウチらの学校じゃ女子の人気を二分するほどなんだから」

瑞希が兄を誇らしく言う。

「二分?じゃあライバルがいるんだ?」

興味深そうに私が聞いた。

「よせよ。ライバルなんていねえって。そういうの関心ないから」

「ふうん… もしかして真壁郷?」

「おいおい!止してくれよ!あんなのと一緒にしないでくれって!」

うわっ……。

ほんとに嫌そう……。

「2年の白神聖也先輩。高等部の生徒会長」

瑞希が私に言う。

「1年で生徒会長になるくらい人望があってカッコよくて頭もいい完全無欠の先輩!」

「へ~そんな人いるんだ…」

「詩乃とはまたタイプが違うからさ、上手くバランスが取れてるのよ」

「ふうん…」

瑞希は歩きながら白神聖也のことを私にいろいろと教えてくれた。

白神聖也。

両親はいずに施設から学校に通う、私の一個上で17歳、高校2年生。

成績は全国模試で常に上位に入るくらい優秀。

スポーツも万能で、おまけに誰にでも優しく分け隔てない。

「へ~絵に描いたような優等生ね」

どんな人なんだろう?

まだ見たこともない白神聖也に少し興味がわいた。

そうして話している内に学校の手前にある大きな橋の手前に来た。

橋の向こうからはぞろぞろと毛色の違う生徒が歩いてくる。

これが昨夜、詩乃が言っていた“川向うの連中”姉妹校の不良達か……

制服の着こなしもラフというかだらしないというか…

制服すら着ていない者もいる。

そして爆音とともに歩いている生徒の間を縫うように走ってくるバイク。

「あれっていいの?バイク通学とか」

「いいんだよ。あいつらは敷地が一緒ってだけでウチの生徒じゃないんだから」

詩乃が吐き捨てるように言った。

ちょっと奇妙なのは橋と私達の歩いている道が合流しても、こっちの生徒にちょっかいだすのがいないってこと。

「なんでちょっかい出してこないか教えてやろうか?」

私の疑問を見透かしたように詩乃が言ってきた。

「こっちには自警団がいるのさ」

「自警団?」

「ああ。ウチの生徒にちょっかい出さないように生徒会が有志を募って結成したんだよ」

詩乃の話しだとボクシング、柔道、レスリング、剣道、その他腕に覚えのある生徒が一団を結成して多くの生徒を守っているらしい。

「そのリーダーが白神先輩!詩乃も参加してるんだよね!」

瑞希が教えてくれた。

ふうん……。

同じ学校、敷地で真っ二つに分かれてるんだ……

まるでこの街みたいだ。

川で中央から二つに切り裂かれた世界。



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