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第10話 涙の理由・マリア

美羽が開いてくれた歓迎会はとっても楽しかった!!

あれからみんなでファーストフードに行った。

少し遅れて瑞希も友達2人を連れてきて合流した。

私はみんなに留学先のこととか聞かれた。

代わりにみんなは学校のことをいろいろ教えてくれた。

あまりにも楽しすぎて時間が経つのも忘れたくらい。

解散した時は6時を過ぎていた。

こんなに楽しい気分は初めて!!

でも家に帰るとあることを思い出した。

おかげで食事のときもどこか気持ちが晴れない。


晩ご飯をすませて、テレビを観て……

3年いない間にずいぶん変わった番組と出演者について瑞希がいちいち説明してくれた。

でも私は半分、上の空だった。

パパは仕事の都合で帰りは夜中になるだろうとのことだった。

「さっ!明日の予習でもやるかな!」

「えっ?もう上行くの?これ面白いのに」

瑞希がテレビ画面を指して言う。

「ん~ ごめんね」

瑞希に謝って二階に上がった。

教科書とノートを開いたがいまいち集中できない。

結局、30分も机の前にいられずベッドに横になった。

今日一日のことをいろいろ思い出してみる。

楽しかったな……。

ある一事を除いては。

どうしても私の思考は、あのとき――

郷を叩いたとき、そして流した涙にいきついてしまう。

なぜあんなに感情が昂ったのか自分でも理解できないでいた。

どうしてだろう……。

考えているとドアがノックされた。

「マリア。ちょっといい?」

神尾先生の声だ。

「は、はい」

返事をするとベッドから飛び起きた。

ドアが静かに開いて神尾先生が顔をのぞかせる。

「勉強はどう?」

「ちょっと集中できなくて」

ベッドに座った体勢の私は苦笑いしながら答えた。

クスッと笑うと神尾先生は部屋に入って後ろ手にドアを閉めた。

「学校でなにか気になることでもあった?」

ドキッとした。

「どうして?」

「だって瑞希と話してるときも半ば上の空だったじゃない」

神尾先生は優しい口調で言った。

自分の中のモヤモヤしたものが何なのか?

聞いてみようと思った。

神尾先生なら何かしら答えてくれるかもしれない。

昔からそうだった。

「ちょっと… 相談っていうか聞いてほしいことがあるの」

「いいわ。話してみて」

神尾先生が私の横に腰かけると、今日の出来事を話した。

友だちができたことが無性に嬉しかったこと。

そして郷を叩いたときに涙したこと。

自分でも感情の動きが説明できないことを話した。

「それは初めてマリアが“友達”というものを体感したからじゃない?」

「体感?」

「留学したときは独りの寂しさと緊張、言葉が違うという環境で実感する暇もなく友達がいつの間にかできている状況になってたんじゃない?」

「そうだったかな…」

言われてみれば目一杯な状態だったかもしれない。

「でも今日は、その時と比べてはるかにリラックスできてたからじゃない」

「確かに、詩乃もいたしね…」

それに純という友達もできていたし。

余裕があったのは事実だ。

「だから“友達”ができたことを実感できたし安心したからよ。もっと小さい頃は嬉しくても疑問なんか起きなかったでしょう?」

「そっか… じゃあ郷のことは?」

神尾先生はちょっと真剣に考えてるような表情をしてからニッコリ笑って言った。

「マリアがその人のことを好きだからでしょう」

「ちょ、ちょっと待ってよ!なんで私があんなヤツ――!!」

「落ち着いて」

思わず立ち上がってしまった。

腰を降ろしたけども気持ちは収まらない。

何を言ってるの?

「神尾先生、それは違うって」

「私が言ってるのは恋愛の“好き”じゃなくて友達として好意を持っていたってことよ」

ああ… そういう意味ね……

「昨日の夕食の時から、マリアはどちらかというと彼に対して肯定的だったわ」

「そうだったかな?」

「詩乃が言うことにフォローをいれてたじゃない」

そんなこと言ってたかも。

「どうして彼に対して肯定的だったの?私も彼の印象はあまり褒められてものじゃないわ」

「確かに郷は不良で傲慢な感じはしたけど噂されてるほど悪い人じゃないと思うの」

「それは?」

「だって私に対して手を上げなかったじゃない?ほんとうにワルだったら黙ってないと思ったから」

そこまで言うと神尾先生はうなずいてから口を開いた。

「だからこの人も自分の友達になれるんじゃないか?良い人なんじゃないかって期待してたのよ。それが裏切られたと感じたから涙が出たんじゃないかな」

私が裏切られた……

それって超身勝手じゃないんだろうか?

勝手にイメージして期待して、違ったからって引っ叩くなんて!!

身勝手というより、痛いヤツ?

恥ずかしい――!!

恥ずかしさと同時に悪いことをしたという気持ちがあった。

「私、謝った方がいいのかな?」

「それはマリア自身が決めることよ」

やっぱそうだよね。

そこまでは人に聞くようなことじゃない。

「マリアがその人と仲良くしたい、関わりたいと思うならお詫びをするのもいいし、そう思わないなら謝る必要なんかないでしょう?だって詩乃がやられてんだから」

「うん……」

私の中ではもう答えは出ていた。

「ありがとう神尾先生!私、かなりスッキリした!」

「そう。それは良かった」

微笑むと神尾先生は立ち上がった。

「スッキリしたなら今日は寝なさい。これから勉強してたんじゃ肌に悪いわよ」

「はい」

私も笑顔で返事をすると急に思いついたように神尾先生が言った。

「ねえマリア」

「ん?」

「ほんとうのところはどうなの?真壁郷って人に恋愛感情みたいなのがあるの?」

「な、ないって!さっきも言ったじゃん!」

神尾先生は私の反応を見て笑うと、優しい口調で語り出した。

「マリアも普通に恋愛してもおかしくない年齢じゃない。もしかしたら相手の人は今日会った、これから出会う友達の中にいるかもしれない、全く違う出会いがあるかもしれない」

急にどうしちゃったの?

突然、恋愛の話しになるから私は軽く驚いていた。

「フフッ、こう見えてもマリアが思ってるよりは恋愛経験が豊富なの。だからアドバイスしてあげようと思って」

「えっ!?そうだったの!?」

神尾先生はたしかに綺麗で女性の私から見ても素敵だと思う。

でも「恋愛経験」が「豊富」ってイメージはなかった。

「これからマリアは恋をすると思うの。戸惑ったり迷うこともあると思うわ」

「うん」

「そして恋から愛に変わる時が来るでしょう。でも多くの人は愛というものを実感することなく、恋と愛を勘違いしてる」

「わかった!恋っていうのは軽くて愛は重いってことでしょう!」

私が得意そうに言うと神尾先生は笑って首を振った。

「恋は相手に求めること。愛は相手に与えること」

「ちょっと… よくわからないな…」

正直、神尾先生の言っていることがわからなかった。

私は恋より真剣なのが愛ってくらいに考えてたから。

「それってダメな男に貢いじゃうみたいな?」

「それは状況に酔って思考がストップしてるだけ。与えるっていうこととは違うわ」

笑顔でそう言うと私の手を軽く握った。

「もしマリアが相手に求める以上に与えたいと思えたら…… あなたはきっと、その人を愛してるってことよ」

「う~ん… 実感わかないなぁ…」

「いずれわかるわ」

神尾先生はそっと手を放しながら言った。

そして部屋を出る時に振り返って

「好きな人ができたら真っ先に教えなさいね。みんなには内緒にしてあげるから」

と、からかうように言ってドアを閉めた。

神尾先生とは今までいろんな話をしてきた。

でも恋愛、とくに愛についてとか話したのは初めてだった。

好きな人か……

今はそういう相手がいないんだから考えても仕方ないな。

それよりも、さっきまで感じていたモヤモヤがなくなったこと。

それが大事だった。

とりあえず自分の気持ちもスッキリしたし。

明日に備えて寝るかな!!




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