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さようなら、達也さま
さようなら、達也さま
鋼の意志
現実世界現代ドラマ
2025年07月15日
公開日
5.8万字
連載中
名家・瀬川家に嫁いだ晴子。しかし華やかな日常の裏には、誰も知らない陰謀と愛憎が渦巻いていた。信じていた人たちの裏切り、禁断の関係、そして密かに仕組まれる罠。晴子は愛と憎しみの狭間で何を選ぶのか――

第31話 真実の嵐

藤原優美の目は泣き腫らして、まるで桃のように赤く膨れていた。

私の姿を見るや否や、彼女は怒りをあらわにして詰め寄ってきた。

「藤原晴子、あの鎌倉の海辺で達也さんを助けたのは、あなたなの?!」

「……そうだけど?」私は何気なく答えたが、ふと頭の中で考えが駆け巡る。

以前、彼女が高橋啓介と話しているのを盗み聞きしたことがある。瀬川達也が命の恩人に報いるために彼女と結婚した、と話していた。まさか――あの日、私が去った後で、彼女が再び瀬川達也に会い、その恩を自分のものにしたのでは?

もしそうだとしたら……。

だから瀬川達也が、藤原理恵親子と共に鎌倉に現れたのか!

「やっぱり、あんただったのね!達也さんが私との婚約を解消したのは、全部あんたのせいよ!」優美は憎しみを込めて叫んだ。

「ふうん?ずっと人のふりをしてたんだ?」私は冷たく笑い返す。「優美、私が怒る前に、あなたが騒ぐとはね。もともとあなたが盗んだものじゃない。」

その時、遠くから背の高い黒い影が近づいてくるのが見えた。

私は目を細める。チャンスが――来るかもしれない。

「もとよりあなたのものではないから、いずれ失う運命だったのよ。これは報いよ。」さらに彼女を挑発する。「昔、あなたの母親は金持ちになるために藤原家に嫁ぐよう仕組んだ。でも結局、得たものは何?」

「なんでよ?!あなたたちは裕福に暮らして、私たちはさまよい続けた!同じ父親の娘なのに、なぜこんなに冷たいの!」優美の顔は鬼のように歪んでいる。

「父さんは、あなたたちの欲深さを見抜いていたからよ。」

「ふざけないで!晴子、全部父さんのせいよ!あの日、私を藤原家の娘として認めてくれていたら、あなたを達也さんのもとに送る必要なんてなかった!これは自業自得よ!本来、一緒にいるべきなのは私だったのに!」

「はっ」と私は鼻で笑う。「それは残念だったわね。瀬川達也は藤原家よりもずっと裕福よ。あなたは命の恩人のふりをして信頼を勝ち取ったけど、その大きな“贈り物”を自分で手放すことになったなんて、本当に惜しいわね。」

「目が節穴だったのね。瀬川さんの息子があんな立派な人だとは気付かなかったのでしょ。ごめんなさいね、初めては私がもらっちゃったから。」

「この女!」優美は逆上し、私を叩こうと手を振り上げた――

だが、その手首は背後からがっちりと掴まれた!

優美は痛みに顔を歪めつつ振り返る。そこに立っていたのは瀬川達也だった。途端に彼女の顔から血の気が引いた。

「達也さん…わ、私は……」彼女はうろたえて涙を流した。「私は本当にあなたを愛してるの!あなたなしじゃ生きていけない!今までのことは……全部償うから……」

達也は彼女を振り払い、険しい眉で黙り込んだまま、顔は暗く曇っている。

怒り狂うかと思いきや、意外にも彼は冷静に耐えていた。

最後に、ただこう言った。「金は振り込んでおいた。もう生活に困ることはない。行け。」

優美は悔しさを滲ませながらも、立ち去るしかなかった。去り際に投げられた、毒を含むような視線に胸がざわついた。彼女はきっと、このまま終わることはないだろう。

それに、達也の態度もどこか不自然だった。彼は優美に何かしらの遠慮があるように思えた。

残されたのは私と彼、二人きり。

張りつめた空気が凍りつく。

さきほどの会話は、彼の耳にも届いていたはず――七年前、私は妹の恋人を奪ったわけでも、意図して彼と関係を持ったわけでもなかった。

冷たい風が吹きすさび、乱れた髪をかき乱す。

しばらく沈黙の後、彼がようやく口を開いた。

「俺の初めて、本当にお前が奪ったのか……?」

頬が一気に熱くなる。こんな場面で、そんなことを聞くなんて!

だが、心はすぐに沈んだ。

今さら潔白を証明したところで、何になるの――

私はもう、彼の義理の弟の妻なのだ。

彼も私の気持ちを察したのか、それ以上は何も言わず、そっと私の髪を耳にかけてくれた。

「夜も遅いし、寒い。早く戻れ。」

そう言って、彼は夜の闇へと消えていった。

私は一人、冷たい風の中に取り残される。胸の奥がじわりと痛み、墨汁が水に溶けるように、静かに広がっていった――

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