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第6話 プレイヤーキラー、黒牙イチイ

「『全力ホームラン』…っ!」


『全力ホームラン』。

イワヒバが使った棍棒系のアーツにより、敵のHPが吹っ飛ぶ。

えげつない威力と「カキーンッ!」という音が最高に気持ちいいが、所謂「バッターの構え」をとる所までがモーションなので発生がえげつなく遅い。脅威の102F。ほぼ2秒である。対人では勿論、敵MOB相手でも使いにくい。


が、イワヒバはこの技を大層気に入ったようで、道中で見つけてから使い続けている。

まぁ、使うタイミング自体はむしろ上手い方なので何も言うまい。


「2人とも、助かった」


あの後、誘導通り北へ、フレイの兄であるビーラッドを探しに行くと、オークの群れと戦っているところを発見し共に討伐したのだった。


「……あんなでっかいのが、たくさんいたらたいへん」

「大型モンスターが群れ作るの反則ですよね」


確かに、ゲーム的にはある程度以上大きいモンスターが群れで出てくるのは珍しい。それも10体以上いれば尚更である。

オークでイメージされる通り、豚顔のデブ……巨体のモンスターであり、火力もHPも決して低くない。鈍重な動きだから一体なら対処は楽だが、群れられるとかなりキツイ。

今回も、ビーラッド含めて3人いたからなんとかなったようなものだろう。


「このあたりでオークが群れで行動しているのを見るのは俺も初めてだ。これも龍の影響だろう」

「……?龍と、なんの関係、が…?」


龍により、この世界が乱れたというのは知っているが、魔物の発生と何か関係があるのだろうか。


「ああ、眠っている龍の魔力の影響を受けてか、魔物も凶暴化するし数も増えてな」

「え?眠っている…?」


フクロウも驚く。ここまででまだ出ていない情報だ。てっきり災害のように通り過ぎてこの辺り一帯を焼き付くし、そのままどこか遠くに通り過ぎたのかと思っていたが……。


「なんだお前ら、フレイから聞いていないのか。龍ならほら、この大地を囲んで・・・・・・・・眠っているだろう。ご迷惑なことにな」


そう言って指差した先には山々……ではない。その奥・・・にある、山々を優に超える壁。


そう、壁だ。不自然な岩壁。

山々の途中からでも無理やりに不自然にそびえ立ち、VRという無限の世界を無粋にも囲う、大きすぎる壁。


いわゆる「透明な壁」の一種であり、一応世界観的な説明がどこかでされるのだろうと思っていた。

まさかアレが龍だとは考察勢のフクロウとて、予想出来る訳がなかった。


「あんなんどうしろと…」

「どうも出来ん。だから調査して、最低限暮らしていけるようにする術を見出すのだ」


根本的な解決ではない。だが、アレを見てしまえば誰しもが根本的な解決──龍の討伐を諦めるしかないだろう。

ダメージを与えるどころか、攻撃をして気付かれるかどうかすら怪しい。


「はは、そうですよね」

「……この先の洞窟に調査に行く。フレイによればあそこには何かがある……らしいからな」

「フワッとしすぎだろ。まぁ行きますけど」


ビーラッドが立ち去る。遠目に見えるか見えないかくらいのところで消えた。

追いかけていくとどうなるのか検証したいところだが、今はそれどころでは無い。


もし。

もしもだ。

アレがあのままの大きさで、敵として立ちはだかるのであれば。そんな嫌な予感が駆け巡る。だってあの発言完全にフラグだったもん。


フクロウは色んなゲームをやってきた。だからわかる。あの大きさのまま敵として出す訳がない。世界観のフレーバーとしてか、敵にするにしても「敵」として認識できる形で出すだろう。

しかし、まぁ、有り得ないことだが、万が一そのまま出るのであれば言っちゃ悪いがクソゲー……少なくともクソボスではあるだろう。


迫力があるとして、大きいモンスターを出すことは勿論ある。そんなモンスターは何体でも屠ってきた。だがアレはないだろう。

自分が人間大の大きさで戦うのであれば、精々が恐竜程度だ。

何故か。大きさによる迫力にも限度があるからだ。


ビルを見上げれば高いとわかるが、地面からエベレストを見たところで、山道があるだけ。それを「高い山」だとは認識できない。

モンスターも同じ。デカイモンスターと戦っているのか足と戦っているのか分からないような大きさでは、迫力どころではない。

ましては山よりデカイ龍だ。

考えてみて欲しい、何やら地響きを鳴らす、動く壁・・・をひたすら叩く作業を。それは楽しいだろうか?否だ。


そこまで考えて、とりあえず嫌な予感は杞憂ということにした。よく考えれば、自分からフラグ発言をしたような気がしないでもない。「ありえない」という結論でいいだろう。


「さて、どうする?このまま先進んじゃう?」

「ん……。きょーは調子がいい」


であれば進めるうちに進んでしまおうと、一歩踏み出すと、


「痛……」


突然のダメージ。

周囲をキョロキョロと見渡すと、飛んでくる矢。今度は身をかわし避ける。

その先を見ると、人影。プレイヤーだ。


フクロウが剣を頭上で一回転させ、敵を指す。火の玉が放たれる。

『火の玉』という魔法。アーツと同じく、特定の魔法を武器にセットしておけば詠唱をせずとも簡易的な動作で魔法を放つことができる。


魔法を避ける敵を追い詰めるように、2発、3発と撃ち込んでいると、その敵が消えた。

否、消えたように見えただけだ。


「消えたように見えただけ」という現象、ゲームなら2つある。1つはスキルによる透明化。自分が知らないだけであるのかも知れないが、そういう消え方ではなかったように見えた。

拠点へのワープはエフェクトがあって外からでもわかるため割愛。上手く身を隠せる場所があればそう見えなくもないかもしれないが。

2つ目、物凄いスピードで移動した。


そういうスキルがあるのかもしれないが、大抵エフェクトがつくものだ。なんのエフェクトもなく、つまり自力でそんなことをやってのけるプレイヤーは、そう多くない。


その中でこんなこと・・・・・をする人間といえば──


「うわでた」

「……だれ?」


「荒らし系のゲーム実況者」という、絶滅危惧種どころかもうとっくに絶滅しているはずの存在。いつの間にか後ろにいたその少年は不敵に笑う。

その名を「黒牙イチイ」と言った。


「彼はねぇ、こういうオンラインゲームでプレイヤーを殺し回ったり、嫌がらせをする動画を投稿してる、迷惑な人だよ」

「……じゃあ、てき?」


正直、イワヒバにはそんなことをする意味が分からなかったし、人同士で争う想定はしていなかった。

人に攻撃しちゃいけないよ!と事前に言われていたからだ。

少し戸惑ったが故に聞いたのだ。アレは敵かと。


かくして、フクロウの肯定と同時に、まずイワヒバが動く。


「おっと、好戦的なガキだな。嫌いじゃねえぜ!」


だが、遅い。

いや、仕方ないのだ。むしろ一般人の中ではかなり動けている。イチイが速すぎるだけだ。

イワヒバの身の丈ほどの棍棒を、大きく振り下ろす。

当然当たらない。余裕をもってギリギリで躱す。


「おいおいwどうしたwそんなんじゃあたら──おっとw」


フクロウの『火の玉』も避け、煽りながら戦う。

このままではまずい、動画のネタにされる…!


「ちょ、イワヒバちゃん!10秒耐えて!」

「…?わかった」


わかっていない。というか聞く余裕はない。

よく分からないが、敵は倒した方がいい。なので倒す。イワヒバにはそれしかない。

敵を倒すには武器を振るうしかないのだ。


そして事実、イチイは少し苦戦していた。

ひたすら避けて煽って、舐めプしているように見えるが、攻める隙が見当たらないのだ。

イチイは人のミスに敏感だ。人のミスを指摘しながら反撃に転じる瞬間が一番楽しい。

だからわかる、無茶苦茶に見えるこの動きには隙がない。型として完璧、かつ予想もつかない。


だが、制限時間は10秒。仕掛けるなら今しかない。


「『クイックステップ』」


基礎的な回避技。無敵判定と共に一瞬の高速移動。人間程度の大きさであれば、瞬時に後ろに回り込むことのできる良い技だ。


無論この技を知っていて、予想できていれば反応は容易だ。しかしイワヒバは知らない。見てから反応するのは現実的ではない。

完全に後ろを取った、と思った。


起爆。


足元が光り、数瞬後爆発する。

爆発をモロに食らったイチイは吹き飛ぶ。


「君相手に正確な情報を与えるわけがないだろう?『簡易爆破陣』、持っておいてよかったよ」


『簡易爆破陣』。置いた位置に魔法陣を敷き、誰かが踏むと爆発するマジックアイテムだ。

10秒、というのは行動を焦らせるためのブラフ。実際はこのアイテムを置くのに2秒も掛かっていない。


「クソっ…!次はねーからな!!!」

「あ……にげた……」


最初に襲ってきた時のような物凄いスピードを、今度は逃げに使い、その場を立ち去った。


「……ふぅ、つかれた」

「お疲れ、よく頑張ったよほんと」

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