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第10話 砕けぬ大岩

ボス部屋の前にある燭台セーブエリアにたどり着いた。


「ひとまずここで休憩にして、装備とかも確認しときましょ」

「さんせ〜♡あたし一旦落ちるね♡」

「……装備のかくにん?」

「うん。このダンジョンは打撃系の武器が強いのかなって」


敵MOBはゴブリンのせいで増えていた土塊人形の他にもいたが、ほとんどが打撃が弱点だった。つまり、ボスも打撃弱点なのが筋だろう。唐突に打撃無効とかされたらキレていい。


カラケイでは武器の切り替えはできるが、事前に色んなものを用意しておく必要がある。

まず武器スロットに武器を設定しておくこと。

スロット1の武器はモシュネーを掴むだけでいいが、その際にスロット2という事で武器の変更ができる。


そしてただ武器をセットするだけではあまり使い物にならない。

武器にはオーブをセットするスロットがあるからだ。

「スキルオーブ」と呼ばれる、スキルやアーツが入ったオーブを武器にセットすることで、スキルの効果やアーツが使える。あるのとないのとでは威力が変わってくるし、アーツによっては立ち回りも変わる。


ゲームがある程度進んでくれば、武器ごとにあらかじめオーブを付けておけるだろうが、それにも限度はある。結局はエリアや敵によって適切に使い分けるために、事前に準備しておく必要がある。


「ヒメさんがバフをやるので他は全員アタッカーでいいかもですね」

「……みんなでいっしょに攻撃すると、じゃま」

「え……ああ、まぁ確かにそうですね」


イワヒバは特に大槌を武器に、弟氏も普段は大剣を使っていた。フレンドリーファイア、つまり味方に攻撃があたる危険性を考えると、かなりやりづらくはなる。


「このダンジョンは複数人前提だ。問題ない」

「……そうですね。味方同士でぶつかったりしないように、ボスは大きくなってるので大丈夫ですよ」

「ならいい。あんしん」


弟氏、喋れるんだ……という言葉は飲み込んだ。大人だからね。

さて、ヒメも帰ってきて準備も完了。ボス部屋の扉を開く。



【大岩の騎士】



「人型じゃねえか!!」


人型、といっても3mはある。あるが、ヒメを除いた3人で攻撃するには少し小さい。

大岩、というが鉄の鎧を着込み、巨大な棍棒を持っている。大岩のように大きな騎士ということだろうか。

ともかくここは作戦を建て直して慎重に……


「ちっちゃいね」


イワヒバがそう呟き単身突っ込む。

イワヒバとしてはチュートリアルボスの巨人と比べてのことなのだろう。

だがそう甘くはない。


穿つ。


大槌の扱いにも慣れてきたイワヒバの攻撃は、そう表現するのが適切なほどになっていた。

だが、イワヒバが感じた感触は──「壁」。


間違えて壁を殴ったあの感触。殴ったこちらがよろめくほどの"強さ"。このゲームで初めて、イワヒバに動揺が走る。


「あぶねえっ!」


敵の棍棒が振り下ろされる直前、どうにかイワヒバを掴みスライディング回避する。冷静に考えれば、イワヒバはそれなりの重装備、かつ防御や回避も間に合う程度には上手い。

しかし何故かフクロウには必要以上に脅威を感じたのだ。


「ごめん!物理攻撃はあんまりかも!距離を取って魔法で──」


ドスン。敵が地面を踏みつけると地面がフクロウたちのいる地面が隆起する。


「グハッ…!」


イワヒバとフクロウが隆起した地面に吹き飛ばされる。防具を着込んだイワヒバは平気だが、フクロウはHPが半分以下になったことを示すように、モシュネーが黄色く点滅している。


「こっちだ…!来いっ…!」

「えーっとえーと♡『痛いの痛いの飛んでけー!』あとは〜、『ニスム』!」


倒れる2人に歩み寄る敵に攻撃し、どうにかヘイトを奪う。その隙にヒメがアーツで回復し、さらに赤魔法『焚き火』で徐々に回復するフィールドを貼る。


「みんな戻っておいで〜♡フクロウくんとキミは先に攻撃しておいで♡」

「はっ!」

「わかりました」


1度体勢を立て直させながら、ヒメが指揮を執る。


「イワヒバちゃんはしばらくあたしを守って♡合図したら攻撃しにいって♡」

「ん、りょーかい…」


2人が両側から攻める。

左右から同時に攻撃すればどちらかは入るはずだ。だが左右同時というだけではダメだ。縦の軸もズラす必要がある。

フクロウの武器は取り回しやすい片手棍棒。跳んで上からの攻撃を仕掛ける。対して弟氏は打撃属性のついた両手斧で掬い上げるように攻撃する。


攻撃を先に当てたのはこちらの方だ。だが、ビクともしない。だがこれしきで動揺する2人ではない。すぐに回避行動を──


ズンッ!


攻撃を当てた瞬間、吹き飛ばされていたのは2人の方だった。


攻撃を確実に当てる方法は、相手が直接攻撃してきた瞬間を狙うことだと、かの人力TASは語る。

究極の後出しジャンケンに成功し続ければ、確かに勝てるが、現実的ではない。人と人との戦いであれば読み合いになる。


では読み合いにしないためにはどうすべきか。

先手必勝?いいや、後手必勝だ。


攻撃をしてきた瞬間ではなく、攻撃を当てた・・・瞬間。それこそが人が最も隙を晒す瞬間である。どんなに鈍重な攻撃であってもそれは、必ず当たってしまうのだ。


「えっと…い、『いたいのいたいの──きゃっ!」


ヒメのアーツに反応したのか、追撃をやめ、また地面を踏みつける。

襲いかかる隆起した地面からイワヒバが庇う。


「いったーい♡」

「…ダメージはないよ」


うん、そうだね。

ともかく、すぐに回復しないといけない。今度こそアーツを使おうとすると、今度は敵が真上にジャンプした。


ドスン


重さを感じさせるように、地面が、部屋が揺れる。

同時に、隆起する地面が円形に襲いかかる。


「ここで全体攻撃かよ!みんな!どうにか避け……いやガード!」


全員、どうにかガードに成功する。ヒメは武器が杖なのでガードの性能はかなり弱いが、どちらにせよ大した威力ではなかった。


「いったぁい♡……って、なにこれ?♡」


全員の身体に暗い黄色のエフェクトがまとわりつく。

嫌な予感がしてモシュネーを開くと【状態異常:沈黙】の文字。


■■■■■■■■

【状態異常:沈黙】アーツ、魔法の使用不可(1:51)

■■■■■■■■


「また厄介な……!見た目より小賢しいですよこいつ!」

「最初のボスでこれとはな……悪いが俺はヒメを抱えて逃げるから2人でどうにかしてくれ!」


事実上、2分間ヒメが機能停止している。ヒメのプレイヤースキルでは逃げ切るのは難しいだろうと、弟氏がヒメを抱える。


「イワヒバちゃん!どうにか2分持ちこたえるよ!」

「……?たおすんじゃ、なくて?」

「ダメージ自体は入るけど、スーパーアーマーが厄介。攻撃は慎重にしないとこっちがやられる!」


ダメージは確かに入っている。しっかり弱点の打撃属性で攻撃しているのもあり、理不尽に硬いということはない。

しかし厄介なのはやはりスーパーアーマーだろう。恐らく通常攻撃では怯むことはない。攻撃当てた瞬間、防御が最も薄くなる瞬間に敵の攻撃が当たるのだ。


であれば、慎重に、後隙の少ない攻撃を重ねていくのがベターだろう。


「むう、わかった」


ジリジリと慎重に、敵を挟むように距離を詰める。


ジリジリと……


ジリジリと……


ええーーーい!めんどくさーーーい!


「イワヒバちゃん!?」


慎重だかなんだか知らないが、こんなものは殴れば壊れるのだと言わんばかりに、イワヒバが殴り掛かる。

大振りの攻撃、確かなダメージが入るがすぐに反撃され、吹き飛ばされ……


「うおおおおおりゃああああああ!!!!!」

「耐えた!?」


軽装備のフクロウは勿論、重装備だった弟氏ですら吹き飛ばされた攻撃を耐え、さらに二撃目を与えた。

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