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第11話 限界突破

「はあああああああ!」


大岩の騎士。

体長3mを超える人型のボスであり、魔物というより英霊と言うのが正しい。

かつての英雄、大岩と呼ばれた騎士のその魂がダンジョンという形になっている。


そんな大英雄の魂の攻撃を耐えることは、普通は無理だ。勿論、不可能というわけではない。

イワヒバの武器である大槌などのデカイ武器は、重装備を着ることで、相乗効果が期待できる。例えば、通常攻撃にスーパーアーマーがついたりなどだ。


防御力が高ければ高いほど、スーパーアーマーの効果も増すし、スーパーアーマー中のダメージも少し軽減される。


だが、大岩の騎士の攻撃は生半可な攻撃ではない。

スーパーアーマーというシステムの補正だけに頼っていると簡単に吹き飛ばされる。

今の段階で攻撃を耐えるには相当な、それこそ本当に命懸けで戦っているくらいの「気合い」が必要になる。それはあまりにも現実的ではない。


だが。


「こんのぉおおおお…!」


現に目の前では、大岩の騎士と幼い戦士のタイマンが繰り広げられていた。お互いに怯むことなく、回避はもちろん防御すらすることもなく、ただひたすらに攻撃をし続ける。


「すっごい気迫ねぇ♡」

「とはいえ、このままだと押し負けるのはイワヒバちゃんの方ですね」

「なら、みんなで攻撃すればいいじゃない?♡」

「僕らの入る隙なんてあるように見えます?」


そう、もはや誰かが入る隙など微塵もなかった。

いつ入っても、どちらかの攻撃に当たる。どちらの攻撃も当たればひとたまりもないのは明白だ。


そして遠距離からの攻撃も、状態異常:沈黙によって魔法やアーツを封じられた今はできない。

弓でも用意していれば良かったのだろうが、後の祭りある。そもそも大したダメージ源にはならないだろう。


ステータス画面を開く。

状態異常は残り約2分……どうにか交代できる隙があればいいのだが。


……いや。

何故かすべての攻撃がしっかり通っているイワヒバと違い、フクロウ達ではまさに名前の通り、岩のオブジェクトに攻撃しているのと同じだ。焼け石に水を掛ける方がまだ有意義だろう。


「というか回復できればいいならアイテムを使えばいいじゃん」


なんとなく今まで、戦闘中に回復アイテムを使っていなかったので失念していたが、ポーションは投げて味方に当てても使える。


「よし、全力投球」


よく分からない掛け声とともにポーションを投げると、あの足踏みとともに、隆起させた地面をイワヒバの後ろに発生させポーションを防がれてしまった。


「だめか〜♡」

「このゲーム上手すぎだろ!」


やいのやいのと騒いでいるうちに、敵のHPが半分になり、周囲の地面を隆起させ、大岩の騎士とイワヒバのいるごく狭い空間を岩で囲ってしまった。


「あ、これ詰みましたね。なに2人だけの空間作ってやがんだ」

「でもあと30秒だよ!♡あたしのスキルなら囲われてても入る!」

「くそっ…イワヒバちゃん!どうにか持ちこたえてください!」


この場の命運は小さな小さな戦士に任された。

互いの攻撃のヒット音だけが聞こえる。


依然、HP的には『大岩の騎士』の方が有利である。この手のゲームでは、パーティメンバーが増えるほど、敵のHPも少し増えるものだ。

もしかしたらイワヒバ1人で来ていたら勝てていた可能性すらあるのでは。


「あと10秒♡8、7、6……♡」


急にカウントダウンボイスが始まった。いやスキルを使うヒメがカウントダウンを始めるのはごく自然なことだが、何故かいやらしく聞こえるのは何故だろうか。


「5、4、3……♡」


イワヒバのHPは残り1割もない。間に合わないか…!


「2、1……『いたいのいたいの飛んでけー』♡」


恐らく、ヒメのカウントダウンが聞こえていたのか、HPの減りを見るに、最後の最後で防御をしたのだろう。どうにかヒメのアーツが間に合った。


ヒメのスキル『応援』は、効果こそ低いものの、とある特殊な使用がある。それは、「声さえ聞こえれば効果がある」ということだ。


魔法はバフデバフや回復などであっても、攻撃魔法と同じように狙って当てる必要がある。攻撃魔法よりホーミング性能が高いが、防がれてしまうこともあるわけだ。


だが、応援というのは、つまるところ言葉によって人に力を発揮させるものだ。ある意味で根源的な、「正の呪い」と言えるかもしれない。


「うおおおおおおりゃああああああああ!!!」



パリィン!!



何かが割れるような音と共に、囲われていた岩も崩れる。3人が見たのは、鎧が割れ、鉱石で出来た身体を晒された『大岩の騎士』だった。


鎧を剥がされたことで、気絶状態に入っている。いわゆる「ピヨる」というやつだ。


「イワヒバちゃん!ここで決めろ!」

「イワヒバちゃーん!『がんばれ』〜♡」


ヒメの『応援』により、イワヒバの攻撃力が少し上がる。


言われなくとも、ここで決める予定だったのか、既にあの構えをとっていた。

大槌をバッドのように構え、無駄に長い溜めを必要とする技──!


「『全力ホームラン』ッッ!!」


カッキーン!


鎧が剥がされ、防御力が下がったのもあるのだろう。2割もあったボスのHPが一気に削れ、気持ちのいい音と共に、ボスが撃破された。


【『大岩の騎士』を撃破しました】


「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」


この場にいる者だけではない、配信を見ているものも、異口同音にそう言った。

4人中2人は配信をしていて、さらに姫の囲い達も噂を聞きつけてどちらかの配信にきていた。その視聴者数を考えれば、日本全体が一体になったと言ってもギリ過言ではないだろう。


「へへ…やってやった、ぜ」

「いやほんと、よくやったよ。おつかれ」

「……んへへぇ」


にへぇ、と笑う姿がフクロウのカメラに映し出される。この時、ただでさえ他国と比べて多い疑惑のある日本のロリコン総数が増えた。


「……えと、ごめん。がんばりすぎた。またあとで」

「「「えっ」」」


それは一体どういう……。

その疑問を口にする前に、イワヒバの身体が消えた。


「イワヒバちゃーーーーん!?!?」


強制ログアウト。

VR機器では身体に突発的な不調があった時、警告や、場合によっては強制ログアウトの処置をされることがある。

イワヒバは特に身体の調子も悪いので、ちょっとした不調でも強制ログアウトされるように設定されている。


すぐに戻ってくるだろうと待っていたが、1時間経っても戻ってこなかったので、その場はお開きになった。



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