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第12話 人力TASは明日のゲームの夢を見る

「もー!!おねーちゃんったら!夜遅くまでゲームしてちゃダメっていつも言ってるでしょ!!!」


多くのゲーマーがまだまだこれからだぜ!とゲームしている中、私がログアウトすると、カンカンに怒った我が妹兼マネージャーの芍子きょうこがお出迎えしてくれた。


「おねーちゃんは徹夜耐性ないんだから無理しちゃダメでしょ!!何回言えば分かるの!!」

「ちゃんと寝溜めしたし……」


ゲームならなんでもできると思われがちな私だが、徹夜耐性はない。ある意味健康的とも言えるが、まぁ単純に体力がない。

練習も1日にせいぜい6時間程度だ。プロゲーマーとしては少ない。


今日のβテストに参加している生粋のゲーマー達は、朝どころか次の日の深夜までプレイする人もたくさんいるだろう。徹夜耐性が高いというのは、ゲーマーにとって1種のステータスだ。


まぁ、こればかりは才能だから仕方ない。私には才能がないというと色んな人に怒られるから言わないケド。


「だいたい、おねーちゃんなら少しくらい出遅れても負けないでしょ」

「……はぁ、寝る」


そういうことじゃない!と叫びたいところだったが、今日はもう夜も遅いしそんな気力はなかった。


まったく、芍子ほどナンセンスな人間は見たことがない。

勝ちとか負けとか、そういう問題じゃない。βテストとは言え、発売日のゲームは配信直後にやるに限るっ!!


リリース直後のワクワクや熱気を共有できるのは、リリース直後しかない。それに乗り遅れるなんて、そんな勿体ないことできる訳がない。

……まぁ、理解されるとは思っていない。芍子はゲーマーじゃないし。


思えば誰かに理解されたことなんて1度もない気がする。


人力TASなんて呼ばれてるからなのか、それともいつも無表情だからなのかわかんないけど、ゲームする機械みたいな扱いをよく受ける。


ただゲームを楽しんでるだけのごく普通の女の子(24歳)なのに。


いや、1度も負けたことがないからって理由で、それを外野が騒ぐのは理解できる。

でもプロゲーマーさぁ、あの人らにまで畏怖の目で見られたら流石に寂しいんだけど。そういえば最近練習どころかパーティゲームとかすら全然誘ってくれないよね。一緒に遊ぼうよ。


……誘っても無視されること多くなってきたの、勝ちすぎたとか関係なく私の性格に問題があるんじゃ……いや、これ以上はやめとこう。


もはやいつも私の配信に謎の上から目線で指示厨コメしてくる指示厨君の方が、私に勝つことを諦めたプロゲーマーよりマシに思えてくる。たまに遊んでくれる時、めちゃくちゃハンデつけて負けてるのにめちゃくちゃ煽ってくるのがいい。プロゲーマー、ほのおタイプ弱点だから煽り芸とかしないんだよね。



ふぅ……。



……全然寝れないな。


もう1回ログインしたいなぁ。結構まず動きに全然違和感なかった。違和感なさすぎて逆に違和感って感じ。


アシストも弱めで自由度高いし、なにより初期リス地点の景色がよかった。

ついついストーリーそっちのけで山の頂上まで登ってしまった。


山を登ってもその後ろに岩壁があったからクライミングしてやったら、鳥のモンスターに襲われたのも良かった。無粋な透明な壁がないというのはそれだけで没入感が上がる。

まぁ、あの鳥達には当たり判定なかったから、実質的な壁ではあるか。


今日はなんだか眠れない。身体も脳も疲れているけど、イマイチ寝れない。スマホ見て寝るのが遅くなるのは分かっているが、まぁ適当にバズってる動画だけでもチェックしようかな。


む?聞いた事ないプレイヤーが話題になっているな。イワヒバ……ああ、そういえば身体の弱い人を1人テスターに呼んでるとか言ってたっけか。

いきなり長時間のプレイが必須のMMOをやらせるのはどうかと思うが、案外楽しめているようだな。


お、もう切り抜きが上がってるじゃないか。


なんとなくその切り抜き動画を見てみたが、そこには信じられない光景が映っていた。


「チート……?」


思わずそう口にしてしまったが、それはないだろう。

だが、私でもそう思わざるを得ない現象が映っていたのだ。

北の洞窟。多くのプレイヤーが最初に行くダンジョン。そのボス戦での出来事だ。


岩に閉じ込められたイワヒバが戦っている。ここまではいい。問題はここからだ。

アーツを使ったイワヒバの身体が止まり、すぐに防御に以降していたのだ。


アーツ。

使うと強制的に身体が動く。1部のゲームではなんらかの方法でバグを発生させモーションキャンセルをすることができることもあるが、今のはそうじゃない。


完全に気合い、根性で止めたのだ。


そんなことが有り得るのか?

疲れた頭で考える。いや、有り得ないことではないだろう。脳に電気を送って動かしているわけだから、それをほんの一瞬遮断すれば……私なら可能だ。ゲーム機との接続が切れる可能性もあるし、止めるだけならともかく、その後すぐに防御に以降できるかは正直怪しいが。


それに、それならその後すぐに強制ログアウトしたのも納得はいく。明らかな不具合だからな。


だが、もし見た目通り、気合いだけでどうにか動きをとめたとしたらどうだろう。

強制的に動かされる身体を、実質的な脳の命令に反して、身体を無理やり動かす……。


これも……多分、理論上は可能だろう。

でも敢えて言うなら不可能だ。そんなことをしたら、身体中に激痛が走ることは間違いない。



……まぁ、考えても仕方ないな。今日はもう疲れたし、寝たら事情聴取にでも行くか……。

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