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第14話 闇縫の一族

 「…ま、一匹だけにしちゃがんばったろ。検証は終わりだな」


 プレイヤーたちのいる巨大な岩壁の外。イチイが転移してきたゴブリンたちの集落はそこにあった。

 PKの果てにたどり着くこの地で『魔族』となったイチイは、ゴブリンたち魔族側として人類の敵となったのだった。


『魔族』とは人類の敵だ。

 人を殺し、奪い、支配するために生まれてきた文明を持つ魔物。

 プレイヤーは魔族として、して仲間の魔族や罠を設置ことでプレイヤーの邪魔をすることが目的となる。


 魔族の世界では力こそが全てだ。プレイヤーを倒すことでKPキルポイントが貯まる。

 KPはお金であり、ある種の経験値だ。買い物の他に、KPを一定までためれば人類側のプレイヤーと同じように「スターオーブ」を手に入れることができる。

 人類側と魔族側のプレイヤーでは、大分ゲーム性が変ってくるらしい。


「やはりワレワレだけでハ、戦力になりませんネ……」

「自己肯定感が低いなこいつら。10人も殺せりゃ充分だわ」


 ゴブリンたちは高い知能とそこいらの人類を超える魔法の技能の割に妙に卑屈だ。

 生存には役立つのかもしれないが、ゲームの駒としては扱いづらい性格だ。勇気と無謀は違うというが、命も強さという価値もないNPCという駒に慎重さはいらない、というのがイチイの思想である。

 ゴブリンたちの性格以上に、クエストを進めて他の魔族の仲間も集めろというゲーム的な誘導もあるのだろう。


「……そろそろかね」


 しかしイチイはまだ集落を出ようとしない。何かを待っているかのように、SNSを眺めている。


「やられた!!……って、あれっ?ここどこ!?」

「来たな」


 ニヤリと笑いながら待っていたプレイヤーを出迎える。とはいえ、別に知り合いではない。

 イチイが牡丹によってキルされた後も、プレイヤーキラーの被害は絶えなかった。

 キル数を考えれば、そろそろこちらに来てもおかしくはないと待っていたのだ。


 リスポーンしてきたのは中学生くらいの見た目のツインテールの少女。目付きが悪い。

 プレイヤーネームは『闇縫迷路』。闇縫という苗字はどこかで聞き覚えがあるが……どこかのアニメキャラだろうかと思考を止める。


 「……あんた誰?誰でもいいわ!死になさい!!」

 「うおっ!?なんでだよ!!話聞け!?」


 咄嗟に少女のナイフを躱し、イチイも武器を構える。互いにジリジリと間合いを図り、目線が交差する。


 ──強い。

 それが、互いが互いに抱いた感想だった。


 先手必勝。イチイが速攻をかける。一気に距離を詰めナイフによる突き──と見せかけてナイフを投げてバックステップ。

 ガードも出来ず当たれば素人、反応できる玄人であっても反撃は出来ない完璧な距離感。

 さあ、どう対処すると見ていると、一瞬にしてイチイの視界から迷路が消える。


 ──見失った。だがそういう時は大抵後ろにいるものだと落ち着いて攻撃する……が、いない。

 振り向いた直後、一閃。首筋に凍えるような冷たい感触が刺さる。


 「『レッドナイフ』」


 少女の攻撃により、少しの間当たった箇所が弱点になる。次、首の後ろ側に攻撃されたらかなりのダメージになるだろう。

 1度態勢を立て直そうとインベントリからアイテムを取り出すイチイだったが、その隙をこの少女は見逃さない。

 アイテムを取り出しながら距離を取るイチイを追うようにスライディング。転倒したイチイの首筋に溜め攻撃をぶち込んでゲームセット。



 「お前、何者だ?」


 リスポーンしたイチイは思わずそう聞いた。

 圧倒的な強さ。だが、ゲームが上手いという感じではない。むしろ現実で戦い慣れている者の動きだった。

 そしてなにより、どうやって消えたのか……。アーツであれば、自動的に技名を叫ぶようになっているはずで、それがないということは自力で消えたようにみせたということか。


 「……どこまで知っているの?」

 「……?いいや?オレはなんにも知らないぜ?だが、ただのゲーマーじゃないな?」


 妙に真剣な、何かを過剰に警戒するような口調に違和感を覚えるも、イチイは至って普通に感じたままを答える。


 「そう、そこまで分かっているならもう誤魔化せないわね……!」

 「あ…?」

 「私の名前は闇縫迷路。殺し屋一家、“闇縫の一族”の1人よ……!!」


 ばばーん。

 ドヤ顔でそう言う迷路の背後から、そんな効果音が聞こえた気がした。


 「いや、知らんが……」

 「え?」

 「は?」


 タダモノではない、と言っただけで別に殺し屋がどうとか疑ってすらいなかったのに、勝手に喋りだした。


 「や、やらかしたーーーーー!!!!」

 「さてはお前アホだろ」


 闇縫の一族。

 一部では都市伝説として語られる存在自体が胡散臭い殺し屋集団である。

 曰く、神出鬼没。どんな厳重な警備もかいくぐり、突如として現れ、抵抗する間もなく殺される。監視カメラにすらその姿はハッキリとは映らない……その他めちゃくちゃな噂が語られているが……ともかく、存在自体はホンモノのようだった。


 「こ、殺すしか……あああぁでもゲームの中だから殺せないんだったどどどどーしよ〜!!」

 「落ち着けよ……。オレだって巻き込まれたくねえし、言いふらしたりしねぇって。お互いなかったことにしよう。な?」

 「そ、そうね……」


 アホすぎて不安になるイチイだったが、ともあれ戦闘能力としては頼もしい味方ができた。


 「ところで、ここどこよ?」

 「ゴブリンの村だ。プレイヤーをキルしまくるとここに飛ばされて、魔族になる。要は正式にプレイヤーたちの敵になるわけだ」

 「つまり……人を殺して殺して殺しまくればいい!ってことよね!?」

 「お、おう……多分な……」


 趣味で人殺すタイプの殺し屋らしい。生配信じゃなくて心底良かったとため息を吐きつつ、当初の目的へと進む。


 「どこ行くのよ!!あたしもついていくわ!!」


 殺す準備をしにいくんだよ、といいながら二人は魔族たちの住まう街、魔界へと旅立ったのだった。




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