「ん……ひさしぶり。やってくよ」
【!?】
【突然きちゃ!】
【おいおいおいおい!!!!】
【もう大丈夫なの?】
【なにするの?】
「ん、げんき。ぴんぴん。きょうは……えーっと……たおすよ」
大岩の騎士、読めなかったらしい。
ということで、巨岩戦士のボス部屋前までやってきたイワヒバ。しっかり忘れず配信開始して偉いね。
しかし、何故また巨岩戦士と再戦をするのか。
もちろん再戦は何度でも出来るが、特に報酬はないはずだ。
イワヒバは多くを語らない。ただ1つ語った理由は「可哀想だったから」らしい。
ボス部屋の重たい扉が開く。
『巨岩戦士』
名前とHPバーが表示される。
小さな少女と大きな英霊。両者が一歩一歩、ゆっくりと近づく。
両者の間合いに入り、睨み合う。
実は、このゲームのボスは1度倒されたプレイヤーの記憶を保持している。
つまり、大岩の騎士はイワヒバのことを覚えている。
1人は大岩。何者にも屈しない強靭さを持つその姿は、大きさと重さこそ強さだと人々の本能に訴えかける。
1人は幼女。病が身体を蝕もうとも決して屈しない強さを持つその心は、強靭な肉体をも凌駕する何かがあると英霊の本能に訴えかける。れ
だから──最初に動くのは英霊の方だった。
そう、恐れてしまったのは英霊の方だ。ただそこに居て戦うだけの存在がそれでも本能で恐れ、すぐに潰そうとした。
だがイワヒバに攻撃を当てた数瞬後、衝撃。小さな身体からは想像もできないほどの重さが大岩の騎士を襲う。
単身自分に挑む者は居た。中には勝つ者も当然いた。
もはや敗北への恐怖はなく、勝利への渇望もとうに消え失せた。そう思っていた。
勝ちたい。
相手を打ち倒す為ではない。正々堂々殴り合い、自分が上だと示す為の、互いの矜恃を掛けた闘い。
プレイヤーとNPC、両者の想いが今一致した。
『特殊行動:【
大岩の騎士の鎧がパージされ、真の姿が解放される。
鉱石種。鉱石を食べて取り込み、鍛え、どんどん硬く大きくなる種族。その姿は比喩ではなく大岩そのもの。
殴る。殴る。
叩き潰す。掬い上げる。
勝ちたい。負けたくない。しかし避けない。
意地と意地がぶつかり合う。力と力がぶつかり合う。
嗚呼、なんて楽しいのだろう。
闘いが、ゲームが、こんなにも楽しい。
殴る、殴る。殴る、殴る。
ただひたすらに繰り返す。殴る。避けるのではなく耐える。また殴る。
そこに技術はない。そこに戦略はない。もはや勝ちたいという欲、負けたくないという欲もない。
闘志だけがそこにあった。
「ぅおおおおおおおりゃあああああああああ!!!」
最後の一撃を当てたのは──イワヒバの方だった。
大岩の騎士の身体が崩れ落ちる。表情は分からないが、どこが満足気に、成仏するかのようにポリゴンの粒子となって消えていった。
「ォォオオオオオオオオオオオ!!!」
咆哮。小さき身からは考えられないほどの声量で、ゲーマーとしての産声をあげる。
『【大岩の騎士】の魂を解放しました』
『【大岩の闘志】を入手しました』
『称号【大岩砕き】を入手しました』
そして。
『【ワールドアナウンス】魔界の扉が開かれる…』