目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第19話 動画タイトル:緊急イベント「魔界の扉が開かれた」とはなんだったのか。魔族プレイヤー視点から徹底解説!

 さて、魔族側では何が起こっていたのか。そもそもあのイベントはなんだったのか。

 丁度イチイの動画が更新されたのでそちらを見てみよう。


 「前回プレイヤーが魔族サイドにつけることを公表しただろ?そのあと少しイベント進めてまた動画撮ろうと思ったら、緊急イベント来てなぁ……。とりあえず道中の映像を見せるわ」


 画面が切り替わり、イチイと迷路が出発するところから始まる。


 「お待チ下サイ。魔界ニ行くのでしタラ、このコを連れていってクダサイ」

 「あ?」


 長老に声を掛けられ振り返ると、他の個体より少し小柄なゴブリンがいた。

 長老によるとゴブリンの中でも特殊な個体らしく、魔界にいくついでに鍛えて欲しいとのこと。育て屋じゃないんだが?


 まぁ、NPCからわざわざ頼み事をしてきたということは、なにか重要な役割があるのだろう。


 「よしじゃあ行くぞ〜」

 「お〜!」


 30分後……。


 「遠くね!?」

 「飽きた〜」


 敵と戦ったり多少のギミックを解いたりと、足止めはあるにせよ、それにしたって長い。地図を見ると、まだ3分の1ほどしか進んでいない。


 地図を確認する。

 ゲームとして考えるなら、ここからさらに難易度が上がるだろう。時間も相当かかると見て良いだろう。


 アイテムも減ってきている。

 今いるこの場所のように、安全地帯は所々にあるが、アイテムが補充できるわけでもなく、回復ができるわけでもない。


 魔族側は基本的にハードモードに設定されているのだろうな……とイチイは溜息をつく。


 「……迷路ってさ、いわゆる『縮地』……できる?」

 「はあ…?何?そういうスキルでもあんの?」


 いや、無い。

 縮地とは読んで字の如く地面を短縮したかのように移動する、中国に伝わる技術である。

 要するに瞬間移動だが、そのようなスキルは今のところこのゲームには存在しない。


 だが、このVR空間においては実現可能な技術だ。

 VRは現実の再現だ。技術の進歩も目覚しく、物理演算もほぼ現実と変わらない。

 だが演算は演算なので完全再現とはいかないし、ゲームであれば完璧な物理演算はむしろ不都合なこともある。つまり、現実とVR空間では物理法則が違うのだ。


 であれば、「最適な移動」も違う。

 ゲームによって違うものもあるが、ただ速く移動するという目的であれば、明確な答えがある。

 それが「TAS式歩法」だ。


 「一歩の踏み込みで、二歩分、三歩分の判定を生み出す……何言ってるかわかんねーと思うが、そうとしか表現のしようがない」


 本来、今ここを越えるために習得するような技術ではない。プロでも"偶然できるまでに"3日、使いこなせるようになるには早くとも3ヶ月の修行が必要と言われている。数時間で習得できる代物ではない。


 ……はずだった。

 やはり迷路は鬼才だった。ものの2時間で「TAS式歩法」を習得してしまったのだ。それも見る限り、完璧に使いこなしている。


 否、それだけであればまだ想像の内であった。迷路が異常であることは分かっていた。


 さらに異常なことが起こった。同行していたゴブリンすらもTAS式歩法を身につけてしまったことだ。


 「ウッソだろお前……」

 「動きをマネするのはトクイなものデ……」


 そんなレベルではない。迷路が2時間で習得したこと以上に異常だ。

 なにせNPCである。そもそも、プレイヤーが教えたことがちゃんとできる程の高度なAIを積んでいること自体おかしい。

 更に、TAS式歩法のような半ばグリッチのような手法をNPCが理解できているというのは、流石に異常にもほどがある。


 何はともあれ、楽になったのは間違いない。


 画面が切り替わる。


 さて、ものの数分で街に辿り着いたイチイたちは、ストーリーを進める前に街を探索していたところ、例の緊急クエストが発令された。


 「は!?急になに!?」


 モシュネーで連絡を取り招集しつつ、ルールを確認する。


 「異界の扉が開かれた。プレイヤーの指示で魔族を動かし、人間の街を襲撃せよ……と。扉が閉まるまでか、ボスが倒されるまでに、街の施設やら破壊したりプレイヤーを殺した数に応じてポイントが貰えると」


 画面にルール説明の画像が表示される。


 細かい指示をしている暇はない。大まかな陣形だけ組んで、あとは各々戦ってくれと支持する。


 「お、この戦闘でのポイントを自動でモンスターに振り分けられるのか……。ここで大量にポイントを溜めておきたいところだが、現状普通のゴブリンしかいない以上、ボスに設定したやつがすぐ死んでも困るし、一体にポイントを集中させる設定にしよう」


 実際、それにより途中でゴブリンが進化し、「ジャイアントゴブリン」となって、イワヒバが来るまではそれなりにキル数を稼いでいた。

 結果的に、ボスが誰かわかりやすくなって早期撃墜に至ったとも取れるが……。


 「よし、集まったな」

 「あたし1人だけだけどね!で、これなに?」

 「喜べ、人殺しの時間だ」


 いざ、開戦。


 今回はまともに戦うのは無理だと判断したイチイは、狙いを絞って作戦を立てた。

 大量の魔物で陽動しつつ、迷路が『影縫い』で侵入し、重要そうなNPCやオブジェクトを破壊するという作戦だった。


 結果は知っての通り。

 イチイ達の視点での映像がダイジェストで流れ、画面が切り替わる。


 「今回は急なことでなんも準備できてなかったから、あんまりいい戦果はなかったな。プレイヤーをそこそこ殺したからポイントは溜まったけど。つか、流石に次はもうちょい猶予期間くれない?流石に急すぎるわ」


 それについてはやはりイチイ以外にも不満の声が多く、参加できなかった者も多くいるなどの問題も含め、今後考えておくことにする。


 「それじゃあ進めますか!いざ、魔王城!」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?