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第20話 魔族へようこそ

 魔王城に行く前に一通り街を探索しておきたかったのだが、どうにもまだ魔族からの対応が冷たく、店なども利用できない状態なのでそのまま魔王城へ。


 「なんつーか……」

 「全体的に黒いわね」


 西洋風の城、ではあるのだが黒い。

 黒を基調とした、とかではなく、ただひたすら黒かった。艶のある黒を漆黒と言うが、光すら吸い込むかのようなこの黒さはさしずめ純黒といったところだろうか。


 イチイがすぅーーーーーーーーーっと息を吸い、


 「たぁぁぁのもおおおおおおおおおおおおお!!」

 「うっるさ……」


 大声で叫びをあげる。


 「誰も文句言わないってことは入っていいってことだな!おじゃましまーす!」

 「『トマレ』」


 荒らしらしくヘラヘラと陽気に1歩を踏み出すと、どこからか声が聞こえ、一瞬、身体の操作が効かなくなる。



 「困るんだよね。魔王城は君らみたいなのが来るとこじゃないんだ」

 「じゃあ門の前に看板でも立てとけや!『俺らみたいなのは立ち入り禁止』ってなあ!!」


 威勢よく前を睨みつける。

 異形という言葉を聞いて思い浮かべる姿は人によって様々だろうが、その姿を見て思い浮かべる言葉は「異形」の一言だろう。


 人の形を雑に模したようなのっぺらとした姿、色んな絵の具を混ぜたような、強いて名付けるなら混沌色とでもいうようなぐちゃぐちゃの色、迷路の2倍はある出で立ち。モンスターや魔族というより、バケモノという方が正確だろう。


 「アンタを倒さないと城に入れないってならそーするけど?アタシら強いわよ?」

 「なんでお前そんな好戦的なの?こえーよお前」

 「フン……入れるつもりはなかったけど……いいよ。ボクを倒せたら入れてあげるよ」

 「よっしゃナイスだ迷路やっぱゲームはこうでなくちゃあなあ!!」


 イチイの熱い手のひら返しと共に、勝負が始まった。


 スライム……と言っていいのだろうか。スライム状の混沌の塊とでもいうべき名状し難いソレをじっと見つめる。別にSAN値が減ったりはしない。

 しかしこういう不定形のモンスターはコアのような弱点があったりなかったり……まずは相手のモーションを見るため投げナイフを投げてみる。


 ヒット。防御をする様子もない。ダメージ自体は間違いなく受けているのだが、痛がる様子ダメージモーションもない。


 ふらり、と迷路が動く。

 決して速くはない、しかし蜃気楼のようにとらえどころのない動きで近づく。

 流れるような動きで首(?)を刎ねる!


 「よしっ…」

 「絶対まだだぞ、目離すなよ〜」


 イチイの言葉通り、真っ二つに斬った身体はすぐにくっついて元通りになってしまった。


 「ヤレヤレ、この程度かい。たった2人で魔王城に攻め込んでくるからどんなものかと思えば……」

 「攻め込むってか、協力しに──」

 「アア!?やってやろうじゃない!殺すわよイチイ!」


 ブチギレた迷路が攻撃を仕掛ける。

 ……一応、攻め込みに来たわけではないと言おうとイチイが口を開きかけたが、ブチギレ迷路に遮られた。殺し屋というよりチンピラの精神である。


 「いやもう勝手に戦ってくれ……」


 数分が経った。

 迷路の動きは見事なものだったが、異形はそれを軽くあしらっているようにも見えた。


 「はい、終わり終わり。魔王様から許可が出たから入っていいよ」

 「はぁ!?ちょっとアンタ!逃げんじゃないわよ!殺すわよ!!」

 「落ち着けよ。お前なんで今日そんなチンピラなの?あとあいつのHPバー偽物だからお前には無理」


 HPバーは着実に減っている……ように見えたが、よく見るとスライム状の身体をHPバーに見立ててそう見せていただけだった。実際にはほとんどHPは減っていない。


 「ウザ!いつか絶対殺してやる!!」

 「騙されるマヌケなお前が悪い。さっさと行くぞ」

 「アンタも殺す!!!」


 閑話休題。


 ──魔王城、内部。


 「コホン……ようこそ我が城へ」


 聞こえてきたのは、幼い声。

 顔を上げると玉座には5歳ほどの少年の姿があった。

幼い可愛さを持ちつつも、その振る舞いや目付きには、どこか威厳を感じさせるものがあった。


「ショタ枠かぁ……」

「……」


イチイとしてはゲーマーなので、別に魔王が恐ろしげな姿でなかったとしても今更驚くことはない。ショタ魔王は意外と珍しいかもしれないが。


一方迷路はというと、驚くでもなく、じっと相手を相手を睨みつけて警戒している様子だ。


「ふむ。人間……それも転移者の協力は歓迎だが、遊び半分でやってもらっても困る。お前たち、1歩前へ」


イチイは、素直に前に足を踏み出す。

ここで従わない選択肢はない。従うか、従わないか、それを考えようとすらしなかった。

当然だ。反抗する理由はないし、セリフや表情に含みもなかった。だから考えるまでもなく、自然に、その1歩を踏み出した。


その瞬間、イチイの中で何かが膨れ上がった。

それは、一定以上魔法を使いすぎた時のペナルティである『龍罰』であった。通常、魔法を使うごとに内部でゲージが溜まり、身体中をバチバチと電撃のようなエフェクトが徐々に大きくなっていき最後には爆発してしまう。

しかし今回は、なんの前触れもなく突如として爆発してHPが全損したのだ。


「うむ、お前は合格」


ニヤリ、と魔王らしく妖しく笑う。

何かを感じ取ったのか、迷路は1歩も動かず龍罰を喰らわなかったのだ。


「フン……殺気がダダ漏れなのよ」

「ほう。我では従うには不満か?」


ジッ……と、しばし睨み合う。


「……流石にそんなにバカじゃないわ」

「そうか。直接力を示してやるのも面白いと思ったが」

「やめておくわ。なんだか……禄な目に合わなそうだし」


ようこそ魔族へ。ようこそ魔王城へ。

ここからが真の魔族のゲームである。


……ちなみにイチイには別で修行クエストが課せられたのはまた別のお話。





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