「足を、もう少し高くして。」
「もっと開いて。」
紅い薄絹の帳が揺れ、冷たい空気が部屋に流れ込む。
激しい痛みが雲湄(うんび)を突き刺し、彼女ははっと目を覚ました。誰かに両足をしっかりと掴まれている。
このあられもない姿――しかも一糸まとわぬ裸身。雲湄は思わず鋭い声をあげた。「何をしているの!早く手を――」
言い終える前に、ひんやりとした器具が突如体の奥に押し込まれ、全身が激痛で震えた。
二人の年配の女性が優しく声をかける。「二女様、もう少しの辛抱ですよ。」
二女様――?
嫁いでからは長く耳にしなかった呼び方だ。深宮で何年も「太后様」とだけ呼ばれてきた自分が、なぜ突然また二女様なのか。
視線を足元に落とすと、掴まれているのは若く美しい、滑らかな肌の足。雲湄の心に衝撃が走る。
違う――!あのしわがれた肌ではない。これはまさに、若かりし頃の自分の姿。
まるで雷に打たれたように、雲湄は気づいた。
生まれ変わったのだ――!
異母妹とともに宮中へ入る前、屋敷で身体検査を受けた、あの日に戻っている――
思いが巡る間もなく、年配の女性が彼女の足を離し、丸みを帯びた腰元を入念に見て、満足気にうなずいた。「細い腰に豊かな尻、美しい体つきでございます。」
外では、侯爵家の女たちが結果を静かに待っている。
張(ちょう)女中が満面の笑みで孟夫人に告げた。「二女様はしなやかで、三女様はすらりと美しい。お屋敷もさぞお幸せでしょう。お二人が宮中入りすれば、きっと陛下のお気に召しますよ。」
雲湄は、やはり自分は一度死んで、再び人生をやり直しているのだと確信した。
女中たちが去った後、着替えを済ませた雲湄は、隣室から出てきた雲妍(うんけん)とともに本館へ向かう。
すれ違いざま、雲妍が意味ありげな笑みを浮かべた。
父である雲崇山(うんすうざん)がすでに居間に座っている。
二人は恭しく頭を下げた。「お父様。」
雲崇山は椅子に腰かけたまま言った。「身分検査は問題なかった。二人とも宮中入りの資格がある。」
「侯爵家は代々の功績と先帝からの恩恵がある。今回は選抜を免れ、直接宮中へ入ることができる。家に跡継ぎがない今、侯爵家の栄華はお前たちが宮中でどれほど信頼を得られるかにかかっている。」
「もうひとつ、お前たちの助けになるものがある。」雲崇山が執事に目配せする。
執事が二つの錦袋を捧げ持ってきた。「家伝の秘薬だ。一つは子宝に恵まれる“生子丹”、もう一つは絶世の美を保つ“玉容丹”。好きな方を選びなさい。」
「私は生子丹が欲しい!」
雲妍の声が、雲湄の思考を遮った。
驚いて顔を上げると、雲妍が孟夫人の慌てた視線も気にせず、生子丹を素早く自分の懐にしまい込んでいた。
前世では、雲妍は玉容丹を選んだはずだ。「子を産んでも無駄。いつまでも若く美しい方が、陛下に忘れられないわ」と言っていた。
宮中に入ったばかりのころ、雲妍はその美貌で一気に寵愛を受け、最初の夜から朝陽殿に上げられた。しかし間もなく重い病にかかり、皇帝によって遠くの離宮に移される。雲湄が人を遣わせたが、消息は絶えた。自分が太后となった後、ようやく雲妍が冷宮で狂気に陥っていたことを知った。玉容丹の効き目など、彼女には何一つ現れなかった。
一方、雲湄は生子丹を服用し、何度か皇帝の寵愛を受けたあと、子のなかった皇帝に第二皇子、第三皇子、第五皇女を次々と授けた。その功績で“常在”から“貴人”、“嬪”へと昇進し、最終的には皇貴妃として副后の地位まで上り詰めた。皇帝崩御後、宮中の混乱を乗り越え、自らの子が皇位についたことで、ついには誰もがひれ伏す太后となった。
冷宮で不遇をかこつ異母妹は、雲湄の幸運を知ると狂ったように嫉妬し、宮女を買収して面会を申し出た。雲湄は最後の血のつながりを思い、会いに行ったが、雲妍は命を賭して襲いかかった。
「なぜ私だけがこんなに惨めなの?あなたばかり太后になって……私が死ぬなら、あなたも道連れよ!」――鋭い刃が胸に突き刺さる直前、雲妍は悔しさに満ちた絶叫を上げていた。
幸い雲湄は運よく助かり、半月後に目を覚ましたのだった。
「お父様」雲妍がか細い声で言う。「お姉様は健康だから、玉容丹を飲んでもきっと子供を産めるはず。でも私は体が弱いから、玉容丹を選んだら宮中に入る前に倒れてしまうかもしれません……」
孟夫人は何度も目配せしたが、雲妍は知らぬ顔。やむなく孟夫人も口添えする。「ご主人様、嫣児(えんじ)が生子丹をもらえれば、子を産んで寵愛を得られます。眠(みん)はもともと美しいのだから、玉容丹を服用すれば魅力は群を抜くでしょう。一人は子を、一人は美を――これで侯爵家の娘たちは宮中で安泰です。」
雲妍は潤んだ目で雲湄を見つめる。「お姉様、生子丹は譲ってくれるわよね?」
孟夫人は手にしたハンカチをきつく握りしめる。今の皇帝は即位してまだ二年、子がいない。生子丹がどんなに効いても、寵愛がなければ意味がない。もともと生子丹は雲湄のものだったのに……
雲湄は口元にかすかな微笑みを浮かべ、母娘の執念と警戒が入り混じった様子を見て、すべてを悟った。
生まれ変わったのは、自分だけではなかった。
雲妍もまた戻ってきたのだ。
だからこそ、こんなにも早く自分の前世の成果を奪おうとしている。
だが、皇帝に子を授けたからといって安泰な道が約束されると思っているのなら、なんと愚かなことか。
いいだろう、そこまで欲しいのなら譲ってやる。
やがて知るだろう。後宮で生き残ることの苦しさ、そして絶え間ない出産の痛みに耐え続けることの恐怖を。
前世で自分が太后まで上り詰めたのは、決して子供の力ではなく、自分自身の力だ。もし女が帝位につけるのなら、太后に甘んじることなどなかった。出産による数々の苦難と、寵愛を失い恨みを買う日々――二度と味わいたくない。
しかも、あの皇帝のことを思うと……雲湄の心に冷たいものが広がった。