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第2話 玉容丹の選択


侯(こう)の視線は最終的に次女の雲眠(うんみん)に向けられた。「雲眠、お前はどちらを選ぶ?」


一見問いかけているように見えたが、雲湄(うんめい)は父の心が常に雲妍(うんけん)に傾いていることをよく分かっていた。愛する孟夫人(もうふじん)の娘、彼がその娘を失望させるわけがない。


雲湄は静かに目を伏せ、争うことなく答える。「私は玉容丹(ぎょくようたん)をいただきます。」


この「理解ある」返答は、侯と孟夫人の思惑通りだった。


雲妍は誇らしげに眉を上げた。美しさなんて何になる?自分は前世の雲湄のように、多くの皇子を産み、後宮で誰にも揺るがされない存在になるのだ!


正殿を出ようとした雲湄の背後から、雲妍の刺々しい声が響く。「お姉さま、玉容丹を飲めば、もっと美しくなれるわ。最初に朝陽宮へ呼ばれるのは、お姉さまかもよ。チャンスを逃さないでね。」


雲妍は、入宮後の初夜に雲湄がどうなるか見るのを楽しみにしていた。


雲湄は振り返り、どこか不思議そうな目で雲妍を見つめ、最後にはただ静かにその背中を見送り、唇の端にかすかな笑みを浮かべて独りごちる。「もちろん、しっかり掴んでみせるわ。」


孟夫人は急いで雲妍の手を引いた。「なにを考えているの!もともと玉容丹を選ぶ約束だったのに。あんたの美貌と私が教えたやり方なら、皇帝の寵愛を得るのは簡単よ。なのに、なぜ子宝丹なんて無駄なものを……。調べさせたけど、どうも皇帝は身体が……。寵愛がなければ、どうやって子を授かるの?」


雲妍は前世の恐ろしい記憶を思い出し、思わず身震いした。今世では絶対に玉容丹には手を出さない。子宝丹こそが出世の道。彼女の顔には権力への強い欲望が浮かんだ。「心配しないで。皇帝には必ず子ができるわ。入宮したら、チャンスを逃さず皇子を産んで、誰よりも高い地位を手に入れるわ。そしたら、必ずお母様にも恩賞を!」


そんな栄光は本来、雲妍のもののはずだ。

雲湄が冷宮で朽ち果てる日を、彼女は待ち望んでいる。


屋敷の中は、二人の姉妹の入宮準備で大忙しだった。女中たちが行き交い、どこも慌ただしい雰囲気に包まれている。


雲湄が玉容丹を服用すると、一晩でその美しさは格段に増した。肌はむきたてのライチのように艶やかで、瞳は秋の湖のように澄んでいる。普段着でも、侍女たちが思わず見とれるほどだった。顔立ちは大きく変わらないが、雪よりも白い肌、黒髪、程よく整った体つきは、見る者すべてを圧倒した。


雲妍がそれを目にした時、嫉妬で歯ぎしりするほどだった。前世でも美しくなれたが、もともとの素地が違い、雲湄ほどの美貌には到底及ばない。しかし、いずれ皇貴妃、太后の座を手に入れるのは自分だと思えば、その嫉妬もすぐに消えた。


いくら美しくても、運命は自分のものなのだから。


入宮の吉日は半月後と決まり、冊封の勅命が午後に届けられ、侯府の者は皆ひざまずいて受け取った。


封号は前世と変わらず、雲湄は「雲常在」、雲妍は「楽答応」。宮中からは教育役の女官が送り込まれ、規則や作法を叩き込まれた。雲湄は前世で太后として君臨していたため、周囲は皆媚びへつらう者ばかり、礼儀などすっかり忘れていたが、今回は真剣に学んだ。


入宮当日、夜明け前に二人は輿で侯府を後にした。門の外では雲崇山と孟夫人が見送る。雲湄は黙って輿に乗り、雲妍が両親に「必ず帝の寵愛を独り占めしてみせる」と誓うのを、冷ややかに聞き流していた。


前世で敗れた者が、やり直したからといって運命を変えられると思っているのか?


雲湄がいる限り、この宮廷が雲妍のものになることは決してない。


輿の簾を少し上げると、遠くに霞む赤い宮殿の輪郭が見え始めた。その姿がはっきりしてくるにつれ、雲湄の心にも現実感が増していった。


輿が宮門の脇に着くと、侍女の芷児(しじ)と翠児(すいじ)が介添えして降ろしてくれる。小柄な宦官がすでに待っていた。低い側門を見つめ、雲湄は静かに息をつく。長く正門からしか宮殿に入ったことがなかった彼女は、少し戸惑いを感じていた。


雲妍は堂々たる宮門を見上げ、野心に満ちた目を輝かせた。いつか自分の息子が堂々とこの正門から入る日が来る、と強く思った。


雲湄が案内されたのは、すでに用意されていた住まい――蘇妃(そひ)が住む長楽宮(ちょうらくきゅう)の東側、牡丹軒(ぼたんけん)だった。前世で太后となった彼女は、皇帝の孝心により長楽宮全体を仏堂に改装させたことがある。今、初めて宮中に入った時の住まいを再び目の当たりにし、まるで別世界にいる気持ちになった。


調度品は当時のままだ。


芷児は落ち着いて周囲を見回し、翠児は感嘆の声をあげた。「宮殿って本当に豪華なんですね!」


長楽宮の主である蘇妃は静けさを好み、侍寝前の数日は雲湄も穏やかに過ごせた。


例により、侍寝前には自分の肖像画を御前に提出しなければならない。雲湄はわざと自分を平凡に描かせた。化粧を落とした後、翠児は思わず見とれて言った。「お側にいると、本当に綺麗です!肖像画よりずっと美しいのに、どうしてわざと濃い化粧で描かせたんですか?」


雲湄は微笑み、玉櫛を置いて髪をまとめ、白い首筋を見せた。「最初は控えめにしておいて、後で驚かせた方が印象に残るのよ。」


新人が多い中で、皇帝の心に残るのは、そうした工夫があってこそだ。


そして、侍寝の夜――


雲湄はやはり、新人の中で最初に呼ばれた。


新しい寵愛は妬みを招くものだが、ここで注目を集めることこそが、皇帝の心に残るためには必要だった。今夜、この舞台でこそ彼女は自分の力を発揮できる。


皇帝は決して女色に溺れる人ではない。美貌だけで選ばれたわけではないはず。前世では雲妍、今世では自分が選ばれたということは、選んだのは皇帝本人ではない。


――あの「懐かしい人」が、選んだのだ。


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