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第34話『美少女たちからの弁当は天か地か』

「――なるほど」


 学園長へ気を失っている彼を手渡した後すぐ、事の顛末を報告し終えた。

 初めて見る険しい表情は、これから先の難しくなりそうな展開に思考を巡らせているのだろう。


「それはそれとして、いろいろとお疲れ様。キミが学園に居てくれたことが奇跡としか言いようがない。もしものことを考えたら、誰も対処できなかっただろうから」

「【アーティファクト】を盗んで、リーゼと婚約して国まで自分のものにしようとしてたとは。傲慢にもほどがある」

「そこら辺のことはしっかり報告しておく。だが、両親も共犯だった場合はどうなるのかわからない」

「権力によって真実が握り潰される可能性、ですか」


 別におかしな話じゃない。

 権力者たちが、その優位性をどういかしているかなど、全員ではないにしろ生徒たちを見ていたら大体は予想がつく。

 しかし権力社会とは多方面で恐ろしい。

 誰かが誰かより権力を有しているという構造は、どう転んでも変わらない事実。

 だからこそ、リーゼやアリシアのような実力と権力の両方を備えている人間は、言ってしまったら権力者の中でも頂点になる。


「さて、難しい話は置いておいて。結界、お望み通り全力以上で対応したが……」

「ごめんなさい」

「まあなんというか、まあ……なんというか。謝罪するのはこちらもではある」


 微妙な空気になってしまったのは、視界一帯に広がる真っ黒く染め上がってしまった光景があるから。

 反省に反省を重ねて反省しなければならないのが、【アーティファクト】との力比べにワクワクしてしまって――暴走はしなかったものの思い通りに制御できていなかった事実は消えない。


 そして学園長が額をかきながら罰の悪い表情をしているのは、全力以上を出してもなお、学園の一部の壁が燃え炭となってしまっていたからだ。

 幸いにも学生が行き来するような場所ではない感じがするから、それだけがせめてもの救い……だと思う。


「本当にごめんなさい」

「難しいことは大人に任せておきなさい。これからも大変なことは起きるだろうし、その都度頼らせてもらうかもしれないから。キミは学生らしく、年相応な学園生活を送るんだ」

「……ありがとうございます」


 憐れんでいるのか、同情してくれているのか。

 僕は今まで、大人からここまで親身に接してもらったことがない。

 子供らしく喜んだりしたらいいのだろうか、とも思うけど、でも心のどこかで今までの経験から完全に信用できていない自分も居て言葉が詰まってしまう。


「あ、そういえば。【アーティファクト】って人格を乗っ取ることってありえるのですか?」

「――私の知識を辿る限りだと、そんなことはないね。まさか」

「はい。対峙しているとき、明らかに人格の変貌が見えました。その人が別の人格を宿している、ということじゃない限り」

「ちなみに彼は、キミに接していた態度そのままな人間だよ。試験のときもそうだったから」

「先生方も大変ですね」

「まあとりあえず、こちらで対応をしておくよ。キミの帰りを待っている友人たちのところへ戻りなさい」

「――はい。いろいろとありがとうございました」

「こちらこそ学園の危機を救ってくれてありがとう」


 僕は軽く頭を下げた後、振り返って教室へ走り出す。


 3人がどこに居るかはわからないけど、なんとなく居るような気がする。

 明確な理由なんて思い浮かばないけど、とりあえず弁当を食べた感想を伝えなくちゃいけないし。


「――」


 それはそれとして。

 進むにつれて騒ぎが起きていないということは、学生が生活する圏内に被害がなかったということだろうし、学園長が張った結界のおかげだ。

 かなり疲れ果てた顔をしていたようにも見えたし、「全力以上を出す」、ということを実行してくれたのは本当だと思う。

 結界の強度を上げる、というより発現させる魔法の量を増やしたのかな。


 何はともあれ、よかった。


 そしていざ、建物内に入っても行き交う人は焦っている様子はなく、談笑していたり何かの準備をしていたり。

 時間に余裕があるわけじゃないけど、まだ昼休みの時間は残っている。

 廊下は走らずに教室へ向かおう。


 でも少しだけ困ったな。

 予想通りにみんなが待っていてくれたとして、スレンは大丈夫だと思うけど、リーゼとアリシアが取り乱し始めたらどうしよう。


「――ふぅ」


 入り口から教室までの距離はそうないから、あっという間に到着。

 騒ぎにならないよう祈りながら呼吸を整え――。


「お待たせ」


 たぶん、スレンは空気感に耐えられず逃げたんだろう。

 僕の机にリーゼとアリシアが居て、自席から持ってきたであろう椅子に座っていた。

 ついでに聞こえてくるのは、「おい、サボり野郎が戻ってきたぞ」「よく何事もなかったかのように入ってこれるわね」といった辛辣な言葉の数々。

 聞いていて心地良いものではないけど、自分たちに危害が被っていた可能性を把握していないのだから仕方がない。


 こんな状況を、騎士のアリシアが許すのか、暴れ始めないのか心配になりながら席に到着したのだけど。


「おかえりなさい主様」

「おかえりアキト」


 予想していた反応並びに周りへの反応を示す、という心配していた状況とは真逆な態度を貫いている。

 腹の中が煮えくり返ってるのを必死に抑えているのだろうか、と思いながら椅子に腰を下ろす。


「ささささあ、お弁当を食べましょう」


 ああ、なるほど。

 初めての弁当もとい料理を人に食べられるからと緊張しているのか。

 僕もやったことがないから、逆の立場にならなくてもわかるかもしれない。


 そして、既に用意されている2つの弁当を開ける。


「おぉ、上手にできてると思う」

「そ……そう、かな」

「当然ね。わたしが教えたのだから」

「物凄い自信」


 料理名は残念ながら、何もわからない。

 もしかしたら庶民的だったり一般家庭的な料理なのかもしれないけど、僕は両方の弁当の中身を知らないし、高級料理だったらなおのこと初見だ。

 とりあえずで言える感想としては、色鮮やかな中身になっていることだけ。

 包まれていた布がないから、どちらがどちらの弁当かわからないけど……たぶん左の赤い入れ物がリーゼで、右の青の入れ物がアリシアだろう。


「いただきます」


 まずは左の弁当から。

 リーゼは上目遣いして気恥ずかしそうに見てくるし、アリシアはいつも通りに姿勢正しく自信満々の様子。

 どちらにしても、食べる姿をそうまじまじと見られるのは勘弁してほしい。


 じゃあ、野菜や加工食品より――料理で作ったであろう卵焼き。


「甘い感じで美味しい」

「本当……?」

「うん。美味しいよ」

「一緒にクレープを食べたとき、美味しそうに食べていたから甘い感じにしてみたの」


 次に肉を焼いた感じなのはわかるけど、たぶん味付けは自分でしたのだろう茶色いソースがかかっている。


「何これ、旨っ」

「そっちも甘くしてみようかと思ったけど、さすがにくどいと思ってしょっぱい感じにしてみたの」

「これが初めての料理なんて、凄すぎる。これだったら毎日でも食べられる」

「えっ!?」


 そんな感じに食べ進めていくと、アリシアから「こほんっ」という咳払いという名の『わたしのも食べて』という催促を受ける。

 時間もないし、と青い入れ物のアリシア製弁当へ。


「その自信、試させてもらおう」

「どうぞ、召し上がれ」


 料理が初めてなリーゼに指導しながら作ったのだから、あの結果を踏まえれば自信が満ち溢れているのは理解できる。

 同じく色鮮やかな中身になっているけど……じゃあ、ゆで卵から。


「ん!?」

「あまりにも美味しくて歓喜の声が漏れてしまったのね。嬉しいわ」


 訂正、全て訂正――これ、凄い。

 半分に切ってあったからよかった。


「アリシア、まず初めに。ガリッ、っていう触感は間違いなく殻だよね」

「あらごめんなさい。ちゃんと全部取れたと思っていたのだけれど」

「ん? ねえ、今全部って言った?」

「ええ。ちょっと力が入りすぎてしまって、殻が入ってしまったの」


 おいおい、1欠片ぐらいの話じゃなくて散乱した複数枚の殻を、って話をしているってこと?


「そして次。あまりにもしょっぱすぎる。塩辛い。いや辛い。舌がおかしくなりそうだ」

「あら。砂糖を入れてしまったと思って、甘いものが好きというリーゼから得た情報を元にドバドバかけてみたの」

「塩だよ塩。全部塩。白身のところが全部塩でできているんじゃないかって錯覚するほどの塩だぞ」

「まだ焦る時間じゃないわ。別の料理も食べてみて」


 まあたしかに、アリシアは料理人でもないわけだし失敗は誰にでもある。

 強烈な喉の渇きを感じつつ、少しでも水分がありそうな何かで包まれているであろう肉らしきものへ。


「うわ辛っっっっ」

「え?」

「鼻が、鼻がぁっ。痛い痛い痛い」

「おかしいわね。わたしに料理を教えてくれていた人は、黄色い調味料を肉料理に使うと美味しいと教えてくれたのに」

「入れすぎなんだろぉ!」


 拷問を受けているのかと錯覚するほどの激痛が口の中と鼻に突き刺さり続け、鼻に抜けていく空気が新しい武器にも感じてしまう。

 ここが教室じゃなかったり、この弁当が作ってもらったものじゃなかったら間違いなく吐き出している。

 からいしつらいし痛い。

 座ったまま地団太を踏むしかないし、このままどこかへ走り去ってしまいたいとさえ思っている。


 てかさ、この流れ……アリシア、こんなに自信満々な態度を気取っているけど――料理ができないやつだ!

 そんでもって初心者のリーゼは料理ができるやつ!

 だったらどうやって料理を教えたんだよぉおおおおおおおおおおっ!


「はっ」


 苦しんでいると視界に入る時計。

 あと2分で昼休みの終了となってしまう。


 キラキラな目線を送ってきているリーゼと、ヤバい料理を作った自覚がないのか自信満々の姿勢を崩さないアリシアを見ていると、弁当を残すことはできない。

 食べるしかない、いや、流し込むしかないぞ。

 リーゼの弁当とアリシアの弁当を交互に食べたらなんとかなるはずだ。


「凄い食べっぷり」

「感謝の気持ちも忘れないようにね」


 急げ急げぇええええええええええええええええええええっ!

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