「――ふははははははは! やった! こ、殺したぞ!」
宝石のように光り輝く、無数の水魔法の雫が広範囲に降り注ぐ。
その威力は誰もが想像する滴り落ちる水とは似て非なるもので、1滴1滴が地面を抉り、人体に触れようものなら小さな穴が開くほどのもの。
相手との実力差が明確なものであれば訪れる未来は残酷なもので、後に残るのは無残にも蜂の巣の死体だけ。
【アーティファクト】も本領発揮し始めていることから、正面に立っていられる人間はそう多くはない。
「俺様に歯向かうから死んだんだ! さっさと身を引いていればよかったものの! これで俺は将来の国王だ!」
「――さすが【アルネス・ノーマファス】が創造した魔法だ、【アーティファクト】と組み合わさったら疑似体験できて嬉しいよ」
「はぁ……? ど、どうして生きているんだ!?」
「それに驚いた。そこに至るまでは【アーティファクト】に支配されていても、限界状態に行きつくと自我が戻るんだな」
実に興味深い。
知識不足で実力を観測しながら防御していて、一時は偽物や複製物かと思ってしまいそうになったけど、あの魔法を発動したことによって信ぴょう性は高まった。
なんせ、詠唱文を把握してたら誰でも発動はできるのが魔法というもの。
しかし魔力操作の技術によっては発現する魔法が雲泥の差が生まれ、実力長ければ柔らかく威力なんて何もない水にしかならず。
いくら彼が才能溢れる実力者だったとしても、見ての通り辺り一帯を穴だらけにできるとは到底思えない。
「貴様――なんなんだ、その姿は」
「説明しても意味ないですけど……では軽く。黒いのは超濃密に圧縮された魔力で、僕の体は魔力でできている」
「はぁ???? お前は馬鹿なのか、魔力は透明で思考の魔法士を志す人間は、透き通る美しさを発現させるものだろ」
「まあ、頭がおかしいということは認める。じゃあ力比べといこうじゃないか」
「【アーティファクト】に勝てると思うなよ! 【水刃】」
「【
誰もが認める精度と強度の、誰もが称賛する輝きを放つ美しい水魔法が飛んでくる。
それに対し、僕が発現させた魔法は得意属性でなくても扱える、いわゆる初歩的な炎魔法。
通常の赤い色とは違い、真っ黒に染まっているけど。
「はぁああああああああああ? なんだその炎みたいなやつ、そしてなんで水が炎に負けるんだよ!」
反応通り、黒い炎は水を消し去って彼の横を通過していく。
当然、引火しないように意図的に消滅させた。
「そんなことがあっていいわけがないだろぉ! さっきのはどう説明するんだよ! さっきのはさぁ!」
「黒い魔法障壁で防いでいたことから想像できると思うけど」
「常に魔法障壁を、常に動きながら展開しているとでもいうのか」
「どちらかというと全属性の魔法障壁で全身を覆っている状態であり、常に魔力吸収をしつつ、常時魔法発動可能状態にある。という感じだけど」
「はぁ……??」
さっきまでの状況より、だいぶ理性が維持されている。
この状態なら意思疎通が可能なのか。
だったら、僕はいろいろと確かめたい。
彼もしくは家が【アーティファクト】を盗んだまたは関与しているのか――そして、心底気になっている【アーティファクト】の力を。
「僕から提案がある。ぜひ、全力を出してほしい」
「頭おかしいんじゃないか、お前」
「どうとでも言ってくれて構わない。僕は、ただ自分の力がどこまで通用するのかを知りたいんだ」
「あーっはっはっ、いいだろう、いいだろう! 死に際に後悔するがいい。どうしてあのとき逃げなかったのかをなぁ!」
もしも負けるとして、絶命するとして。
最強の魔法士【アルネス・ノーマファス】が創り出した、もしくは七魔聖が創り出した【アーティファクト】に負けて生涯を終えるのなら、それはそれで本望というもの。
天涯孤独な僕が死のうと、誰が気に――。
――いいや、今はダメか、ダメだよな。
こんなところで死んだら、弁当の感想を2人に伝えるのと、スレンと一緒に鍛錬ができなくなってしまうからな――。
「【アーティファクト】を盗んだのはあなたですか?」
「いいだろう冥途の土産に教えてやる。ああそうさ、直接ではないが裏で手引きして手に入れた。俺が1人で全て! だから、これは俺の力だ! これからは誰にも指図されない!」
「権力だけに留まらず力にも溺れ、他人を支配するためだけに動くなんて――」
「どうとでも言え。どうせ、お前はここで死ぬんだから。準備は整った。せいぜい泣き喚いて命乞いでもするんだなぁ!」
「権力は地位と名誉を築いてきた一族のものであり、力も【アーティファクト】に頼るとは至極惨めな生き様だ」
「補欠合格者の分際でぇ! 最弱の魔法士であり欠落者のお前がぁ! 黙れぇ! 俺は最強なんだぞ!!!!」
「あまりにも滑稽」
全てを与えられた人間に、全てを持てなかった僕が負けるわけにはいかない。
「『美しき象徴は透き通る水』、『大地に恵みをもたらす神聖な水』、『生命の生殺与奪を握るは水』、『一切合切の源は水』――」
ただ圧倒的な強さを証明するだけ。
「【インスタント魔法】
魔力は体の中と漂う全て。
魔法陣は魔力を起点として発動する――つまり、魔法陣も体の中で形成できる。
ああさすが【アーティファクト】。
空に水の天井が出現し、美しく輝く無数の雨となり刃が降り注がれるのだろう。
「――【
「――【極黒の獄炎】」
体内から溢れ出る魔力は全てを燃やし尽くす漆黒の炎となり、放たれ続ける炎の波は空へ零れ落ちていく。
「な、なんだそれはぁ!?」
「魔法、魔力」
漆黒の炎は次々と水を打ち消し飲み込み、1滴1滴の魔力を食らいながら範囲を増大していく。
「人間にそんな魔力が扱えるはずがないだろ!?」
「これが最強へ辿り着くために導き出した、僕の最強だ――」
瞬く間に広がる漆黒の炎は、天の魔法を覆い食らい尽くす。
「お、俺の魔法がぁ!? ふざけるなぁああああああああああああああああああああ!!!!!」
ここまでしておいて、やはり実力不足を認めなければいけない。
辺りは既に、懸念して通りとなってしまっており一帯が黒に染まり上がっている。
「【水流弾】――【水刃】――【水波丸】……な、なんで魔法が発現しないんだ!? おいおいおい来るな来るな来るな!」
被害をこれ以上広げないためにも魔法を消滅させ、僕は前進しながら体を元の状態へと戻す。
「基本的に魔法が発現しなくなるまで、漂う魔力を消費することはないけど。でも、あなたが魔法を発現させた後に僕が一帯全ての魔力を使用したので枯渇状態になった」
「はぁ???? 本当にあれが人間に扱える魔力だったというのか……」
「ようやく理解してもらたようで。そういえば僕、剣の技は泣きなくなるほどだけど体力と筋肉には自信があって」
「こっちに来るな、来るんじゃない」
「今から追いかけっこをしてもいいですよ?」
「ひぃっ! ば、化け物」
僕が彼の前に辿り着くも、言葉だけで1歩も動きはしない。
どうやら過剰な魔力操作によって反動が来たのだろう、いや、もしかしたら【アーティファクト】に許されたのは感情を露にすることだけなのかも。
まあどちらでもいい。
そんなことを考察するよりも、今、途轍もなくやりたいことがある。
「僕、あなたに送りたいものがあって」
「はぁ? 何を言って――」
「この拳なんですけど――っ!」
腰を落としがっしりと構え――右手を引いて思い切り振りかぶって拳で頬をぶん殴る。
「ぐぼぉあっ――」
回避どころか防御態勢すらとらない彼は、吹っ飛んで後頭部から地面へ着地した。
近づいて蹴りも追加しようと思ったけど、白目をむいて気を失っている。
「もうちょっと体を鍛えた方がいいよ」
恨んでいたというわけではない。
でも、あそこまでやられて気にしていないというには無理がある。
「さて、これにて一旦終わり。往復するのは面倒だから――あったあった」
彼が脱ぎ捨てたローブを拾って、なんとか着させて。
「これでよしっと」
かなりの名案だと思う。
このまま片足を持って、引きずりながら帰ればいいんだ。
「案外いけるな。やはり鍛錬の成果だ。トレーニングは素晴らしい、体力と筋肉は裏切らない。夕方も鍛錬に勤しもうじゃないか」
夕方の練習内容を考えつつ、学園への帰路に就いた。