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第3話 ロマンスが息してない

私が叫ぶと紅龍様は両耳を押さえながら渋々と色気のある表情で告げた。

くそっ、推しの顔が良い! 好き!!


「仕方ねーだロ! ヒロインなんか、皆なりてーんだヨ! だから空きが無ぇーんだヨ! 転生させられそうな余ってるポジとか、ディディ以外にいねーしヨ!」

「でもこれなら名前のないモブ構成員のがガルーやサングレや他の攻略キャラに愛されそうじゃないですか! 『お前と盃、かわすしかねーな(イケボ)』とか兄弟(ブロマンス)展開にもちこめばワンチャン生存展開ありっぽいですし!!」


しかしその提案に紅龍様が怒りだした。


「テメー! ワタシ推しの癖にガルーとサングレみたいな青二才どもに浮気すんじゃねーヨ!」

「落とせてすらいない攻略対象からの嫉妬、ありがとうございますッッ! 虚しいッ!!」

「それに乙女ゲーをBLにすんじゃねーヨ! そういうの地雷なヤツいるんだからマジ気をつけろよナ!」

「すみませんすみません!! でも私、命関わってるんで!」

「あとワタシ、無類の女好きだけど、男はコロス派なんだヨ! モブ男に転生してきたらマジで殺すからナ! それにディディは過去にワタシの愛人だった設定あるんだから、まぁ何とかやれっだロ! 頑張れ小娘!」


投げやりな応援(?)とムチャぶりされた。

私は顔を押さえて泣き喚く。


「イヤーーッ!! 推しの正妻になりたいのにー! 愛人になりたいわけじゃないのにー! しかも愛人時代って、過去の話だから今の私に全然関係ないしー!」


ビエンビエン泣く私に紅龍様は痺れを切らしたように手刀でドスドス頭部を押さえられる。


「つーワケで、ワタシの力で転生と巻き戻りの助力はしてやれっけど、オマエちょっと死に過ぎなんだヨ! それアドバイスしに来てやったんだから、次からはナンとかしろヨ!」


そういえばマフィアクターの世界では、みんな『異能』という超能力みたいなものをもっている設定だった。(何でもアリか! このゲーム!)


紅龍様は時間操作系の異能で、ガルーは火炎操作系能力パイロキネシス、サングレが皮膚から刃物を作り出す力で、アリアは銃弾を七発中、六発は敵の急所に確実に当てる能力だった。


けど、それがわかった所で銃殺か焼死か刺殺の果てに巻き戻る事しかわからん!


私が考え込む間に、紅龍様は何処かの時空に旅立とうと背を向けている。ちょっ、待てよ!


「じゃあ、知恵と閃きでナンとかしろヨ~。再見!」

「ちょぉぉぉぉぉおおおおお! 紅龍様ァァアアアアアアア! ムチャぶりにも程がありますー! しかも話してて何のヒントもなかったですよね! せめて巻き戻り以外のチート能力をぉぉぉおおおおおぉぉおお!」


ぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉ とエコーがかかる中、私は目を覚ました。


そして、目の前にはお約束のキレちらかす眼帯のイケメン・ガルーと、褐色肌のロンゲ・サングレが銃とナイフ片手に今にも私を殺そうとしているシーンだ。


「死ね! ビッチ!」

「今までの恨み!」


怒りに燃えているけど、攻略キャラなだけあって、やはり顔が良い! いや、そんなこと言ってる場合じゃない! 死ぬ! 死んでしまう!

とにかく二人に話を聞いてもらおうと、私は声を張り上げた。


「待って待って待って! 私、ディディじゃないの!」


二人の動きが止まった……?

ガルーとサングレは顔を見合わせている。

よ、よーしよしよし! そのままステイ!


……と、思ったのもつかの間。

次の瞬間、更なる怒号が飛んでくる。


「手前! どっからどう見てもクソアマだろうが!」

「そうですよ! ふざけたこと言ってないで、さっさと死んでください!」


振り下ろされる拳とナイフの後、暗転した。


く、くそっ! 結局、死んでるしー!

それからも、私は何とか頑張った。


「紅龍様の愛人の私を殺すっていうんですか!」

→それ過去の話じゃねぇか殺す


「実は転生して中身は別人なんです!」

→そんなラノベみたいな展開を信じるわけないでしょう死んでください


「今までの悪行は反省していますごめんなさい」

→許さねぇ殺す


「何でもするので殺さないでください!」

→何もしなくていいので死んでください


なんだかんだで計56回死んだ。(その間、アリアによってナレ死が30回入った)


そして私は再びコンティニュー画面の床を叩く。


「無理! というか、飢えた猛獣相手に説得しにかかってるようなものじゃないのよぉー!!」


そんな私を紅龍様が溜息まじりに首を振っていた。


「オマエ……マジで、シリアス展開に向いてねーのナ……。途中から、お笑いの流れ作業みてーになってたゾ……」

「私も好き好んでロマンスが息してない展開にしたいわけじゃないです! でもこれ、ガルーもサングレもディディへの好感度が最低になる前でもない限り、話聞いてくれないと思うんです! アリアにいたっては、道端の石を蹴り転がす感覚で殺してきますし!」

「……!」


私の愚痴に紅龍様が拳を打った。


「あぁ、それナ! よし、じゃあガルーとサングレ、アリアの出会いからやりゃあいいのカ!」

「え? そんなこと出来るんですか?」と聞いてる途中で紅龍様がラスボス特有の時間操作能力を駆使した。

目の前が、ぐにゃりと歪む。


「きゃ、きゃあぁああああああ!」

酷い車酔いみたいになってる中、紅龍様が告げた。


「ガキどもの出会い編からやるから、今回は長旅になるかもナ!」


え、えええええええ? ゲームでも三行くらいしか描写されなかったショタのガルーとサングレとアリアの出会いからぁあああああ!?


今度こそ大丈夫って何故か思えない不安感! と叫びながら、私の意識は暗転した。

そして……。

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