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「……ディディ君、おい! 聞いているのかね!」
寝起きのオッサンボイスに目を開ける。
眼前には司教服を身に着けた気難しそうなハゲ親父と、黒髪の少年がいた。
「えーっと……、誰だっけ、このハゲ……。あ、変態司教のハーゲンか」
福音教での地位を利用し、美少女や美少年にアレなことをしているとかいう、どこに出しても恥ずかしいクズである。
ゲームの知識を思い出して語ると、ハゲことハーゲン様が「今、何か言ったかね!?」と憤怒しだした。
しまった! ホントのことを口に出してた!
直ぐに訂正する。
「ち、違います! 変態する蝶のように激しい情熱をお持ちのハーゲン様と……」
こんな苦しい言い訳に、ハーゲン様は脂汗が滲んだハゲ頭をハンカチで拭いて、酒とタバコ臭い溜息を漏らす。(嫌悪感MAX突破)
「それなら良いのだがね! ディディ君、これがルー・ガルー。以前に話していた、火炎の異能をもつ子供だ! 母親が出稼ぎに行く間、教会で預かることとなった!」
そこで私はガルーの生い立ちを反芻する。
ガルーは幼い頃はパイロキネシスを上手く扱えず、炎を無意識に発生させては火事を起こしていた。
そんな我が子に父親は嫌気がさし、ガルーと母親を捨てて逃げたはず。
母親はガルーを学校に通わせる為に出稼ぎに出て……。
「う。泣ける……」
悲しいけど、母の愛に満ちた良い話や……でも私(ディディ)がムチャクチャにしちゃう設定なんだよな~最低……。
とハンカチで鼻を拭っていると、ハゲがガルーの背中を足で蹴った。ちょ、何してんのよ!
私は倒れかけるガルーを急いで抱きとめる。
ちびガルーは大人の時の妖艶で逞しい肉体とはうってかわって、骨が浮いて見えるくらいに痩せてて軽かった。
それが私の怒りに火を点ける。
ガルーには何回も殺されたけど、それはそれ、これはこれよ!
「何してるんですかハゲ……ーン様!」
「ハーゲンだ! 何故、名前の間にタメを入れた!」
「そんなことより、いたいけな幼子に暴力だなんて、神罰が下りますよ!」
しかし、そんな私をハゲは鼻で嗤った。
「ふん! 馬鹿が! 司教である儂に神罰など下ろうはずもな……って、おい! なんで儂の頭頂部に憐みの目を向けている!? それよりも、今日連れてきたガキどもが立派な『商品』になるように、前任の者がやっていたように磨いておくのだぞ!」
更にハーゲン様は、明らかにサングレやアリアのショタ時代だなとわかる子供達を引きずるようにして私の前に出してきた。
ディディの仕事とは、ハーゲンが連れてきた少年少女を綺麗にして、金持ちや福音教の上層部に『上納』することだ。
ゲームのディディはそれで金や地位を得ていたかもしれないけど、今は中の人が違うので、これまでみたいにはさせない!
かと言って、面と向かって『嫌です! 人の心ないんか!』と抗えば、私の首はガルーらが成人するより早くに刈られるだろう。
仕方ないので、嫌だけどカドを立てないように従うことにした。
「わかりました! 不肖ディディ、ガルーとサングレとアリアの世話、頑張ります!」
「ん? 儂、ガルー以外のガキの名前を説明したか?」
あっ、しまっ……!
怪しがられたので、私はハゲの背中をバシバシ叩いた。
「いやだ~! そうだったのですか!? 私、予知夢の異能をもってるのかもしれませんわ~! オーホホホホホホ!」
「い、痛いから肉を揺らすように叩くのは止めたまえ! そもそもキミ、異能無しの無能だろうが! 無能の分際で儂に触るんじゃあない!」
無能と言われて、ガルーらがハッとした顔で私を見た。
この世界では異能をもたない人間は人権が無いみたいな扱いらしい。
でも別に私がいた世界では異能もちの方が珍しいっていうか、無能が普通だったからなぁ~。
よく考えたら、ディディは無能な我が身で何とか生きる為に悪事に手を染めたのかなとか考えたりもした。
まぁ、だからといってディディがガルー達にしたことは許されないけど。
そんなわけでノーダメ顔でハゲを見送る。(早く帰れ! と念じながら)
それから、ガルーらに向き直った。
初対面で印象が決まるので、ここは慎重に……!
そう思いつつ、自分史上最高の笑顔で告げた。