私はカウンセラーとかじゃないから、どうすればいいのかわからない。
けど、とりあえず、今までいっぱい我慢してきたアリアが『嬉しい』『楽しい』と思えることが増えたらいいんじゃないかとは思った。
そして、迅速に『喜怒哀楽』の『喜楽』を体験できることの一つといえば、そう、食事だ!
幸いなことにアリアは食べるのが大好き! いっぱい食べて元気におなり~!
と思ったものの、私は料理が苦手なので、鍋料理ばかりにしたらガルーからキレられた。
「飽きた」と嫌がるガルーに、サングレが「シスターのつくるものは、ぼくなんでも大好きです!」とフォローし、その横でアリアが無表情でモゴモゴ食べている日常……。
鍋は肉も野菜も魚も、まんべんなく食べれていいと思ったんだけどなぁ……。
私は再び、台所で料理本を片手に悩む。
「う~んう~ん! 美味しくて栄養抜群で子供にもウケが良くて鍋じゃない料理といえば……。う~ん!」
毎日、食事の準備にはウンウン唸り続けた。
そんな私の傍にアリアがポニテを揺らしてやってきた。
「おい」
おい、じゃなくてシスター・ディディ様だと何度も……と思いつつも笑顔で答えた。
「アリア、どうしたのかな~?」
アリアが料理本と私を交互に指さしてくる。ちょ、指さすのも止めなさい! と思ったけど、アリアが何か伝えたいものがあるみたいなので、彼のやりたいようにさせた。
「どうしておまえは、そこまでする」
そこまで……?
言葉足らずなアリアの話は的を得なくて先を促す。
「わたしたちが何をたべようとたべまいと、おまえにとってはどうでもいいはずだ。なのに、どうしてコンダテにこだわる」
「そりゃあ、私は作るからには笑顔になるくらい美味しく食べてもらいたいもの」
せっかく作ったのに「飽きた」だの「不味い」だの言われたくない。
するとアリアは俯いた。
「……りかいふのうだ。父も、母も、わたしがなにをたべてどんなハンノウをしても、どうでもよかった。わらってもわらわなくてもいっしょだった……。だから、おまえをりかいできない。おまえが、わたしたちになにをのぞんでいるのかわからない」
「アリア……」
「……」
黙り込むアリアに私は料理の本をぱたんと閉じると、微笑んだ。
「いいのよ。無理に理解しなくても」
「……?」
「いつかわかるときがきたらいいな~くらいで、難しいこと考えないでよ! 私だって尊い使命感とかでやってるわけじゃないし!(死にたくないだけだし)美味しいもの食べて、一緒に楽しく過ごせたら、私が喜ぶだけの単純な話なんだから!」
アリアは少し考え込んだ後に「……わからないけど、わかった」と言い、去って行った。
それでもアリアなりに思うところがあったらしい。
いつしか「わたしも、手伝う」と言うようになってくれたのだ。
まぁ、実際、アリアは料理も洗濯も私より上手かったんだけど!
ピッカピカの部屋に、美味しいご飯、シーツにはシワ一つなく整えられていて、まるでホテルみたいになった。
これを七歳児のアリアが一人でやった……だと……!?
そう思うと、××歳の私は凹まずにはいられなかったけど、凄いものは凄い! 純粋に賛辞していた。
私がシーツ交換で四苦八苦していると、アリアが横からやってきて、軽々とこなしてしまうようにもなった。
「アリアは凄いわね~! 素敵なおムコさんになれるわぁ!」
「わたしは、すごくない。おまえがダメなだけだ」
無表情だけど憎まれ口を叩くくらいにはなった。
そんな風に、少しづつアリアと距離を縮めつつあったある日の早朝、事件は起きたのだ。
ある日の昼下がり、教会のドアを激しく叩く音が響き渡る。
えっ? 何? 怖いんだけど!
何事かとドア越しに「どなたですか~?」と問いかけると、ドアがまた殴られたような音をたてる。
うるさっ! だから誰か聞いてるんじゃないの! と言いたいのを堪えて(ガルー達が後方で警戒していたので)問いかけると、相手が呂律の回らない言葉で怒鳴りだす。
酔っぱらってるみたいだ。
「おい! 俺はアリアの父親だ! ここにアリアが居るって聞いたから来てやったんだよ! アリアを返せ!」
は?
アリア母子を捨てておいて、こっちを人さらいみたいに言うとか何?
そこで私はファンブックの内容を思い出す。