「ここまできてしまったし、私の好感度は5にしておくよ」
再びルウの部屋。
ルウ(AI)が微笑みながら告げる。
エピソード2から5までスッ飛んでしまったからって、特別にハートを5つ赤くしてくれたよ。
ハート5つは、攻略対象が主人公を恋人として愛し始めている状態だ。
ケイと私は現実世界で恋人同士なので、ルウの好感度はそれに合わせたらしい。
「2人きりでいるときは、成人の姿はケイに任せて、私は少年の姿になっておこう」
「どうして少年の姿に?」
「恋人へのサービスだよ。ケイの子供時代なんて現実世界では写真でしか見られないだろう?」
「ケイは自分の写真を残さないから、ほとんど見たことないよ」
「なら、ここで存分に見るといい。本人は恥ずかしがっているようだけどね」
ルウ(AI)が見せてくれる少年姿は、ネット検索でちょっとだけ見れたキッズモデル時代のケイに似ている。
子供服のCMだったかな? 髪を銀にして青いカラコンつけた子供時代のケイの画像があったの。
少年姿のルウは、そのときのケイにソックリだ。
長い睫毛に大きな瞳、お肌も白くてスベスベでキメ細かくて、そこらの女の子より綺麗だよ。
「綺麗! 可愛い! 天使降臨って感じ!」
「というか、天使だけどね」
私が大喜びで褒め称えたら、ルウ(AI)が笑いながらツッコミを入れた。
最新型の人工知能とはいえ、ここまで自然にやりとりできるのは、ケイの意識を読み込んだからかな?
「抱き締めてもいい?」
「勿論」
ソファに座って寛ぎながら、私はルウを抱き締める。
少年ルウの身体は華奢で、私よりも小柄だ。
「大人の姿もかっこよくて好きだけど、この姿も好き」
「ありがとう。存分に愛でていいよ」
ケイはもう大人で、スラリとした長身とキリッとした美貌が素敵だけれど。
子供のケイも魅力的だなぁ。
もしもタイムスリップして少年時代のケイに逢えたら、私は間違いなく口説きにいくと思う。
◇◆◇◆◇
ルウ攻略は、隠し攻略対象なだけあってメインの四大天使のルートよりも難易度が高い。
魔族との戦闘が多いだけじゃなく、他の攻略対象とのエピソードも絡んでくるよ。
ルウのエンディングに進むには、ルウだけでなく四大天使たちの好感度も上げないといけない。
でも上げ過ぎて他のキャラの好感度がルウを追い越すと、ルウが闇落ちするという最悪の事態になってしまう。
私は四大天使から武術を習いつつ、ほどほどに好感度を上げることにした。
「私は、大切なものを護れるように強くなりたい」
そう言って、私は稽古に励む。
本来なら天界へ行く前に、主人公のレベルはかなり上がっている筈。
だけど、途中のクエストをスッ飛ばして天界へ来ちゃった私は、レベルが低い。
暗殺者イベントクリア経験値でかなりレベルが上がったものの、本来の半分以下だ。
でも、じっくり時間をかけてレベルを上げている余裕は無い。
(早くレベルを上げなきゃ……)
私は必死だった。
現実世界のケイは、私がルウと結ばれるエンディングを迎えなければ目覚めることができない。
眠り続ける日数が増えると、内臓機能や筋力が衰えてしまう。
焦る私に、ルウ(AI)が良いサポートをしてくれた。
「天界のフィールドだけ時を加速させよう」
「そういえば、天使長にはそんな力があったね」
「天界の1年が人間界や現実世界の1分になるように調整してあげるよ」
「ありがとう!」
ルウがもつ天使長の力に、天界と地上の時間差を広げるというものがある。
現実世界との時間差まで変えられるのはありがたい。
昔のゲームでいうと、倍速モードでキャラクターが動いているようなものかな?
私はひたすら稽古を重ねて、戦闘技術を上げた。
主人公は元々能力値が高く成長力もあるので、戦闘技術が上がるのは早い。
やがて、魔物の討伐に参加できるくらいの戦闘力が養われた。
そして、初めての魔族討伐の日。
「では出発する。お前はまだ実戦は不慣れだから、ヤバイと思ったらすぐ逃げろよ」
「はい」
ミカ・フラムエル率いる魔族討伐隊。
私も経験を積むために同行することになった。
今の私にちょうどいい武器は弓で、空中戦ではけっこう有利だ。
『ヒロ、【不屈の反撃】があるからって、敵に突っ込むのはやめとけよ』
コッソリ念話を送ってくるケイ。
ギクッとする私。
死なないのをいいことに、敵に突っ込んで反撃スキルで殲滅する気でいたのは内緒。
『そ、そんなこと、しない……よ?』
『そうか? ならいいんだが』
ケイにバレかけて、私はしどろもどろになってしまった。
っていうか、天使長(AI)がミカと話している一方で、中の人(ケイ)が私に念話を送るなんてこともできるのね。
今、ケイは深層意識下で待機中の筈だけど。
待機している状態でも会話が出来る方法を見つけたらしい。
「では、出発!」
隊長ミカの号令で、天使たちが一斉に翼を広げる。
いよいよ討伐隊の出発だ。
「よろしくね、エーレ」
翼の無い人間の私は、天馬エーレの背中に乗せてもらった。
天馬は勇者に仕える種族で、こちらの言葉を理解している。
馬術を知らない者でもさほど苦労せずに乗れるので、私の相棒になってもらったよ。
弓を射るのにも、馬上は都合がいい。
今回の討伐エピソードは、正規ルートならシナリオ中盤を過ぎた後半だ。
ミカ・フラムエルが絡むエピソードで、ミカの好感度が高ければイベント発生、主人公は新たなスキルを得て、ミカの好感度が更にUPする。
私はミカの好感度をほとんど上げていないので、イベントスキルを得ることはないだろう。
このエピソードには、2つの選択肢がある。
①ミカ・フラムエルたちと行動を共にする
②下位天使たちのグループと行動を共にする
ミカ攻略なら①、それ以外なら②が無難。
①は味方が強いけど、敵も強い。
ミカの好感度が高ければイベントスキルを発動できるけど、それ以外なら苦戦するので②を選ぶことをオススメするよ。
「ではここで二手に分かれる。ヒロはどちらでも好きな方を選んでいいぞ」
「じゃあ、私はあっちのグループに入ります」
このとき、ミカは初めて私を名前呼びした。
私は少し不思議に思いつつ、下位天使グループに入ることを希望した。
ケイが演じたキャラ以外に、私の名前を呼ぶキャラがいたとは知らなかった。
それとも、ルウが私を名前呼びしているから、ミカのAIもそれに倣ったのかな?