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第18話:新スキルと召喚獣

 地の大天使ウリ・ドルフェルは、天界の防衛の要と言われている。

 彼は天使たちの中で最も防御力が高く、防御や反撃のスキルが多い。

 私が現在使える盾スキルは、みんなウリから学んだもの。

 攻撃の要のミカ・フラムエルが魔物討伐に出かける一方で、ウリは天界へ侵入しようとする魔物や魔族を防ぐ役目を担っていた。


「ディアモは攻撃重視で防御を甘く見ていたからな。盾スキルで倒されるとは思ってもみなかったろう」


 天界と人界の狭間。

 大きな白い翼を羽ばたかせながら、ウリが満足そうな笑みを浮かべて言う。


「短期間でここまで盾スキルを使いこなせるようになるとは思わなかったぞ。頑張ったな、ヒロ」

「いいえ、私なんてまだまだです。だからこれからも御指導お願いします」


 ウリは褒めてくれたけど、私は自分の盾スキルはまだ未熟だと思っている。

 シナリオをショートカットしてしまった私は、敵との戦闘経験が少なかった。


 ミカの対極にあるディアモを倒した後、次に出てくる中ボスは誰なのか?

 ゲームの設定通りなら、四天王は対応する攻略対象の好感度順に登場する。


(……ミカの次に好感度が高いのはウリね。だとしたら出てくるのはアイツか……)


 私には、次の敵が誰かなんとなく分かる。

 だから、ウリが天界の外へ出る際は同行している。

 合間にウリに稽古をつけてもらい、戦技と好感度を上げるのも忘れない。


(頼むから、次は絆スキルを開放してから出てきて……)


 私は切実に願う。

 四天王との戦いの為に作られた絆スキルが、使えないまま戦闘突入なんてホント勘弁してほしい。

 でも残念ながら、不具合は継続しているらしい。


 見回りに同行するようになってから1週間が経つ頃。

 敵は数の暴力でやってきた。


「今日は北東の森がザワついているな」

「魔物の群れが向かってきてますね」

「かなりの数だな」


 防衛の必須スキルとして【危険感知】を持つウリ。

 ウリからその感知スキルを習得した私も、近付いてくる魔物の大群に気付いた。

 森の魔物が群れを成して接近してくるとしたら、どんなイベントが起きるか心当たりがある。

 おそらく、ウリを対象とする中ボス戦の始まりだ。


「近くまで来る前に、数を減らしてきます」

「気を付けろ。反射スキルを持つものがいるかもしれん」

「はい」


 ウリの言葉に頷いた後、空を見上げた私の背中に現れるのは、1対の白い翼。

 それは、ルウが作り出した新しい召喚獣。

 召喚獣は通常は、自我をもって行動するのだけど。

 この白い翼の形をした召喚獣には自我が与えられておらず、私の思考に従って行動する。

 ディアモ戦で私が落馬して負傷したことから、ルウは私と召喚獣を融合させて飛行能力を付与してくれた。


(うん、いい感じ)


 意のままに動く翼に満足しつつ、私は魔物の群れに先制攻撃を仕掛けに向かった。

 まるで野生馬の群れのように、まとまって森の中を走り続ける魔物たちが見える。


(うわぁ、モリモリいるぅ……)


 私はその数の多さに少し青ざめつつ心の中で呟く。

 魔物の群れは統制が取れていて、何者かが指示を出して走らせているように思えた。

 ウリが作り出す防壁は天界で最も頑丈と言われているけれど、こんな大群がきたら面倒だね。


(じゃ、新スキルの練習台になってもらおっか)


 私は気持ちを引き締めて、自分にバフをかける。


 ダメージ吸収スキル【吸収の盾】


 このバフは、物理でも魔法でも受けるダメージを吸収して回復するというもの。

 攻撃でも反撃でもダメージであれば吸収できる。


「ミカ、力を貸してね」


 私は自分の右手を口元に寄せて囁く。

 その手の甲に、炎に似た形の紋章が浮かび上がった。

 私は右手を魔物の大群に向ける。

 紋章から炎が渦を巻きながら湧き出てくると、一気に巨大化して炎の龍へと変わった。


 火×光属性攻撃・範囲【浄化の炎龍(改)】


 それは、ディアモ戦で使われる筈だった攻撃スキル。

 だけど、本来の設定とは少し違う。

 浄化の炎龍は、主人公のすぐ傍にミカ・フラムエルがいる場合のみ使える絆スキルなの。

 でも私は、ミカから羽根を分け与えられ、それが右手に吸い込まれたことで単独使用可能となった。


「行け!」 


 私が命じると、炎の龍は魔物たちに襲い掛かる。

 四天王ディアモを倒すためのスキルに、下位魔物が耐えられる筈がない。

 瞬時に黒い塵のようになって消滅したのは炎耐性が低い魔物。

 炎耐性をもつものはしばらく耐えた後、光攻撃に負けて崩れ去った。

 残ったのは炎耐性MAXで体力が多い上級魔物が数匹。


「ここは通さん!」


 炎の龍の攻撃を耐え抜いて進んでくる上級魔物たちを、ウリの片手剣が両断する。

 その剣にも光属性の浄化力があり、斬られた魔物は瞬時に消滅した。


(……来た!)


 魔物の大群を全て片付け、私がウリの近くへ戻ったとき、そいつは現れた。

 魔界の四天王2人目は、地獄の番人ヴォロス。

 地獄行きの極悪人すら恐れると言われる魔族だった。


「吾輩のペットたちが途中でバタバタ死んでいると思ったら、貴様らの仕業か」


 黒いコウモリの翼を動かしつつ、空中に浮かぶヴォロスがこちらを睨む。

 挨拶代わりに飛ばしてくる土魔法攻撃は、【吸収の盾】にダメージ吸収されて消えた。


「ペット? なら放し飼いにしないで完全室内飼いしてよ」

「……」


 睨み返しながら言ってみると、ヴォロスは黙ってしまった。

 AIが意味を理解できなかったのかもしれない。

 っていうかあの大群がペットなんて、どう見ても多頭崩壊案件じゃない?


 そんな、ちょっとズレた会話で始まるヴォロス戦。

 ウリとの絆スキルは、未だ解放されないままだった。


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