ヴォロスは、防御力と体力がめちゃくちゃ高い。
ちょっとやそっとの攻撃では、かすり傷すらつかない頑丈な敵。
オマケに回復スキルも優れているので、しぶとさは四天王の中で一番だと公式ガイドにも書いてあるよ。
ウリも同じ防御型で、能力値はほぼ同じ。
山を吹き飛ばすような攻撃を受けても無傷で涼しい顔して立っている。
そんなウリとヴォロスがタイマン勝負で殴り合ったら、百年経っても決着がつかないとまで言われている。
ヴォロスは設定上ではウリの好感度が3になってから出現する中ボス。
その戦いに必要なのは、ウリと主人公の絆スキル。
……という設定になってる筈だけど。
「ふむ。貴様たちを片付けねば、ペットたちを暴れさせてやれぬのか」
設定よりも早く登場した中ボスは、すました顔で腕組みしながら言う。
ペットと言う割には、魔物たちが全滅したことを悲しむ様子は無かった。
「ここはドッグランじゃないわ。あんたのペットに爆走されると迷惑なの」
私は言い返してやった。
眼下に広がる森は、魔物たちの体当たりで倒れた木が無数に転がり、低木や草は踏み荒らされて土まみれのグシャグシャになっていた。
私が放った【浄化の炎龍】は魔物だけを襲ったので、森の木々は燃えてはいない。
(ウリの絆スキルは……やっぱり出ないのね……)
脳内でコッソリと攻略対象欄を確認した私。
ウリの好感度ハートが2であり、絆スキル開花条件に満たないと分かって溜息をついた。
ヴォロス戦でも絆スキルが使えない予感はしていた。
だから私は、水の大天使サキから代わりに役立つスキルを学んでおいたの。
「貴様の迷惑など知ったことか。吾輩の魔法に潰されるがいい!」
ヴォロスの片手から放たれた魔力が、巨石へと変化して飛んでくる。
私は盾を構え、反射スキルを発動させた。
盾スキル:
返された巨石を、ヴォロスは片手で粉砕して平然としている。
「ほう。貴様その身体で防御型か」
「そうよ。文句ある?」
私が盾スキルを使うのを見て、ヴォロスが意外そうに言う。
私がまた言い返すと、彼は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
戦闘中のヴォロスの台詞や仕草は、主人公の容姿や使うスキルによって変化する。
「そのような筋肉不足の身体で防御とは笑わせる。バフが切れれば我輩の拳ひとつで粉砕されるであろう」
「じゃあ、本当にそうか試してみれば?」
勝ち誇ったように言う筋肉男に、私は不敵な笑みを浮かべて言う。
戦闘が始まった。
私にとって2回目の空中戦は、身体に移植された召喚獣の翼があるので、前よりも自在に動きやすい。
「また魔物の群れが来てるな」
「ウリさん、あっちをお願いしてもいいですか?」
「承知した」
ウリと私は簡単に分担を決めた後、サッと離れて飛ぶ。
ヴォロスとのタイマン勝負は私、ウリは新たに押し寄せる魔物群を迎え撃つ。
私は剣を片手に正面からヴォロスにぶつかった。
筋肉が鎧着て飛んでるような男に、華奢な少女体型の私が力で勝てるわけがない。
ぶつかった直後に、体格差で吹き飛ばされた。
その際に、空いているもう片方の手で水の矢を放つ。
ヴォロスは避けもせずそれを受けて、フッと馬鹿にするように鼻で笑った。
「ははは、なんだその弱々しき攻撃は。ウリでももっとマシなものを撃つぞ」
笑われても馬鹿にされても気にしない。
私は再び剣で斬りかかり、ヴォロスの筋肉パワーに吹き飛ばされつつ水の矢を撃つ。
「無駄だ無駄だ、貴様の攻撃など吾輩にはこそばゆいだけだ」
勝ち誇ったようにヴォロスが爆笑する。
私は構わず水の矢を放ち続けた。
「……?」
無駄と思える攻撃を繰り返す私をヴォロスが訝しみ始めた頃、私の目的の1つ目は達成された。
ピシッと音を立てて、ヴォロスの大盾に欠けが生じる。
その欠けた部分を狙い、私は更に水の矢を連射した。
特殊スキルが起動して、水の矢が青い光を放ち始める。
水属性スキル・特殊:
「貴様、何を仕掛けた?!」
ヴォロスが異変に気付くが、もう遅い。
水の矢が当たって欠けたところから大きなヒビが広がり、大盾が粉々に砕け散った。
「?!」
盾を失ったヴォロスがギョッとした隙を、私は逃さない。
私は空中で身体を翻し、紋章入りの片手をヴォロスに向けた。
絆スキル:浄化の炎龍(改)
攻撃対象:範囲→単体
ダメージはゲーム内最強といわれるミカとの絆スキルを、盾を失い無防備になったヴォロス単体に絞って放つ。
光と炎を纏う龍が、ヴォロスを捉えた。
「グァァァッ!」
盾関連スキルを全て解除されたヴォロスは、反射も反撃もできない。
自慢の筋肉は魔法を防げなかった。
ヴォロスは魔族が苦手な光属性ダメージと、最高レベルの火属性ダメージをまともに食らって苦悶の声を上げる。
その身体は、炭化してボロボロと崩れ始めた。
(盾を失ったら意外と脆いのね)
心の中で呟きつつ、私は崩れていくヴォロスを眺めていた。
公式ガイドブックのキャラ紹介によれば、ヴォロスは防御と体力の値が高く、地属性抵抗はMAX。
だけど、他の属性抵抗値は低い。
炎だけなら体力の多さで耐えられたかもしれないけど、魔族が最も苦手な光属性との複合では、流石に耐えられなかったらしい。
「装備破壊か。サキが得意な技だな」
魔物の群れはヴォロスの支配から開放されて逃げ去り、ウリが翼を羽ばたかせてこちらへ近付いてくる。
私は風に散って消えていく黒い粒子を見ながら、サキとの修行を思い出していた。