…2003年8月28日、木曜日。
美波県真山市押木町という《田舎の町》に、一人の男の子が生まれた。父は岩塚和哉。母は岩塚美穂…母の旧姓は田中。
その男の子…である僕は両親が『自分で決めたこと、やりたいことを、どんな事があっても、何があってもそれに負けず、自分を信じて、力いっぱい貫いて、頑張ってほしい』という想いを込めて《信吾》と名付けられた。
僕は父によく似て勤勉家だとか言われた。小学校の頃はそうでもなかったけれど、中学校に入学した頃から高校生のときも…友達は…い、いい、いたよ。本当に。少ないけど。
それでもいたけど…学校から帰ると家でひとり…土日の休みも…勉強してることが多かったんだ。
ちなみに、僕は小学生の頃から…現在も、身長は伸び悩んでた…。
勉強のし過ぎが原因…とかあるのかな。もしかしたら…。
…え?それはない?…えぇ…。
んまぁ…そんなこんなで何回か友達ん家に、宿題とか図鑑とか辞典とかを持って『一緒に勉強しよう!』『これ一緒に見よう!』って遊びに行ったことがあったんだ。そしたら…そのうちに『勉強で遊ぶとかわからない。だから信吾とは遊べない』って言われはじめて…。
父さんも母さんも、そんな勉強熱心な僕を時々褒めてくれてた。
でも『たまにはお友だちと遊んでらっしゃい』って、母さんから言われることもあったけど…でも良かったんだ。それで。たぶん…。
それと…僕は中学2年の頃、ちょっと遠くが見えにくくなって、眼科医院に行って…それで眼鏡をかけ始めた。なぜか選んだのは黒ぶちの…。
そんな僕が中学3年生の頃…確か大晦日の夜のことだった。
僕は自分の部屋で高校の受験勉強をしてたんだけど、机に置いた黒ぶち眼鏡をかけ直して、卓上時計を見て…。
『えぇと…ん!あーぁ…もう夜の10時48分かぁ。ふぅ…。4時間も勉強してたから、ちょっと疲れた…あぁ』
…って。僕は炭酸ジュースが飲みたくなって2階から下りて居間へ行ったんだ。そしたら…母さんが珍しく真剣そうに、居間のパソコンを睨んでた。テレビも見ないでつけっぱなしで。
パソコンには…ちょっと古そうなデジカメがUSBケーブルで接続…繋がれていた。
『母さん…なに真剣に見てんの?』
『えぇ?ふふっ。なんだと思う?』
『??』
聞くと、お昼過ぎの大掃除で、衣装タンスの奥から出てきた古いデジカメ。
しばらくは気にせず、こたつの上に放置してたんだけど…夕食が済んであとになって『こんな古いデジカメは、もう使わないなぁ。今はなんでもスマホで撮る時代だし…』って。
『でも待って。処分する前にどんな写真を撮ってたのか、パソコンで最後に見とこう…』って。気になったらしくて。
ちなみにこの時、父さんはお風呂に入ってた…って記憶してる。
『見て。これ、お母さんの若い頃だよ』
『え?若い時の母さん?どれ?えっ?』
4人の若いお姉さんっぽい人たちが、ピースして写ってる…けど、どの人も《お姉さん》ってより、凄くお洒落な《お嬢さん》ってふうに見て感じた。確かに…本当に可愛かった。そして母さんはその中のひとりを指差した。
『こーれ。私』
『…え!?これ…母さん!?』
僕はパソコンの画面を思いっきり覗き込むように見入り、画面の中の《若い母さん》と《今の母さん》を、何度も何度も何度も…見比べた。しかもそれをやり過ぎて、首を捻ってちょっと痛かった…。
『ふふっ。どう?今よりもずっと可愛いって思わない?信ちゃんが生まれる前の、若い時のお母さん』