サハク東にある学業区画。
多くの学生が制服姿でそれぞれの学校へ登校する中、頭に疑問符を浮かべるアインと共に学園通りを歩く。
「そういえば、ダンナは何処へ行きたいんッスか?」
「んー、俺の行きたい場所はもう少しで見えるよ」
「気になるから早く答えを言って欲しいんスけど」
「いやいや、ココでネタバレするのは面白くないだろ」
「相変わらずダンナは意地悪ッスねー」
俺が意地悪なのは昔からだよ。
苦笑いを浮かべるアインへ、俺は内心で突っ込む。
二人でのんびり歩きながら、ココで今日の目的に近づく話題をしていく。
「話は変わるけど、アインは魔法が使えたらどうする?」
「急に言われても……。んー、魔法で大金を稼いでお世話になった孤児院へ恩返ししたいッス!」
「じゃあ、その理想を叶えに行こうか」
「へっ!? マジでアタシを魔法士にするつもりッスか?」
「その辺もお楽しみにしてくれ」
おお、やっと目的の建物が見えてきた。
大きな敷地と建物に、頑丈そうな石と木で造られた魔法図書館。
ココは魔法の契約や、資料が多く取り揃えられていて魔法士見習いが勉強に来る所でもある。
目が点になってるアインを尻目に、俺は彼女の手を引きながら中へ入っていく。
サハクの魔法図書館は前線都市と同じくらいの広さだな。
受付カウンターにいる書士さんへ、俺は入場料の銅貨一枚を二人分払う。
奥に進むと魔法図書館の顔とも言える書館エリアで、数えきれないほどの本棚に魔法関係の本がびっしりと入っている。
「初めて魔法図書館に来たっスけど、本がたくさんあるッスね!」
「久しぶりに来たけど広いよな」
「ッスねー!」
ココは静かでゆっくりとしてるな。
併設されているカフェとかで、ゆっくりしたい気持ちもある。
ただ今日のメインは本を読みに来たわけじゃないから、近くにいた二十代中盤くらいの茶髪の女性書士さんへ近づく。
「書士さんすみません」
「どうかされました」
「実は魔法の適性診断が出来る場所を知りたくてお声がけしました」
「それならワタシが案内しますよ」
「ありがとうございます!」
案内人ゲット!
トントン拍子に物事が進んでいるので満足してると、隣にいるアインが納得したように頷いた。
「もしやダンナが別の魔法を手に入れるつもりッスか?」
「いや、魔法適性を鑑定してもらうのはお前だぞ」
「は、はい? アタシは魔法なんて使えないッスよ」
「その辺は鑑定してみないとわからないだろ」
「マジッスか……」
なんかアインが若干引いてない?
真顔で後ずさってるアインに、俺はどう言葉を返すか悩む。
するとコチラの状況を見ていた女性書士さんが、笑顔で言葉を発した。
「試してみないとわからないことはありますよ」
「書士さんまで……」
女性書士さんありがとう。
彼女のススメのお陰でアインが理解はしたのか、何かを諦めたように深く息を吐いた。
「本当に嫌なら帰るけど?」
「ココまでお膳立てされて帰れないッス」
「了解、やることが終わったら残りの時間はアインに付き合うよ」
「その言葉、忘れないでくださいね」
「お、おう、もちろん」
きゅ、急にアインのやる気スイッチが入った気がする……。
目を輝かせ始めたアインに、俺は戸惑いながら首を縦にする。
コチラの関係を見ていた女性書士さんは、笑顔を浮かべたまま後ろへ振り向いた。
「では案内します!」
「よろしくお願いしますッス!」
「よ、よろしくお願いします」
とりま、当初の目的であるアインに魔法適性の診断を受けてもらえるのは良かった。
アイン自身は知らないかもだが、彼女の魔力量は一般の魔法士よりも多い。
よし、俺も覚悟を決めるか。
テンションを上げたアインに腕を引っ張られつつ。
女性書士さんの案内で、建物の奥にある適正鑑定のエリアへ向かっていく。
⭐︎⭐︎
魔法図書館の奥にある魔法適正を判断する鑑定エリア。
書館エリアと違い壁際には本棚がなく、石造りの大部屋の中央には、直径一メートルほどの水晶が台座の上に乗っている。
鑑定水晶は他の魔法図書館と同じ形をしてるな。
久しぶりに見た鑑定水晶に、俺は唾を飲み込みながら右隣にいるアインの方へ振り向く。
「この透明な水晶はなんスか?」
「鑑定水晶といって、魔法の適正がある人が触ると光ります」
「なるほど……。ココで光ればアタシも魔法が使えるんスね」
「ええ。ただどんな適性があるかは後の魔法書を手にした時に決まります」
「なんか面白そうッス!」
大体の流れは俺が魔法を手にした時と同じだな。
ただ俺の場合は小さい頃から氷魔法が使えたので、ほぼ確定で何の魔法が手に入るのはわかっていた。
そうなるとアインの魔法が楽しみだな。
年柄にもなくテンションが上がってると、女性書士さんが笑顔で頷いた。
「ではワタシは仕事があるのでココは担当の者に任せますね」
「案内ありがとうございました」
「いえいえ!」
ココの書士さんは、かなり丁寧に案内してくれて良かった。
笑顔で去っていく女性書士さんへ一礼した後、俺はアインとの会話を始める。
「アインは魔法図書館に来たことないのか?」
「そりゃアタシが魔法の勉強をしても無駄と思ってたッスからね」
「なるほど……。まあ、適正鑑定だけでもお金がかかるし余裕がないときついよな」
「ですです! ちなみにダンナの時はどうだったんスか?」
「俺は……自慢になるが小さい頃から魔法書なしで氷魔法が使えたんだよ」
「やっぱりダンナは魔法に関しては天才ッスね」
「なんか微妙な反応だな!?」
確かにアインの反応もわかるけど、受け手としてはその反応は悲しくなる。
いろんな意味で心が痛くなる中、アインがいらずら小僧みたいな笑みを浮かべた。
「まあでも、いろんな意味で
「それはそう!」
魔法がなければ今の自分はない。
氷魔法が使える事は大当たりに感じるが、過去を思い出すとマイナスも大きいな。
複雑な気持ちになりながらアインと話してると、ふと誰かに声をかけられる。
「あらー、二人とも極めていい色をしてるわね」
「え、えっと? もしや、女性書士さんが言ってた案内人さんですか?」
「そうそう! あ、あたしの事はケニアと呼んでね!」
「「は、はい……」」
めっちゃキャラの濃い人が来た!?
ゴスロリに違い黒いドレスにはち切れんばかりの筋肉を持つ大男さん。
相手のキャラの濃さに戸惑ってると、ケニアさんはいい笑顔で俺とアインの肩を力強く掴んだ。
「それでは早速だけど属性鑑定に行ってみましょうかー」
「あ、いえ、自分は魔法書を持ってるので彼女だけお願いします」
「ちょっ!? アタシを犠牲にしないで欲しいッス!」
うん、アインよ頑張れ。
厚化粧に濃い赤い口紅をつけたケニアさんに肩を掴まれたままのアインは、半泣きになりながら俺の方を見てきた。
ただ俺は目を逸らしながらケニアさんから距離を取る。
前言撤回、ココの書士さんはキャラが濃い。
捨てられた子猫のような目を浮かべるアインは、いい笑顔を浮かべるケニアさんに連れて開かれた。
俺はアインに同情しながら、鑑定費の銀貨十枚を用意して壁際で結果を待つのだった。